おもわく。

「フランケンシュタイン」

遺伝子操作、iPS細胞による再生医療、クローン羊の誕生……生命科学の進歩はとどまるところを知りません。人類は生命の設計図すら操作できる能力をもちましたが、その倫理性や危険性を指摘する識者も大勢います。そんな現代の状況を予見するような小説が今から二百年も前に書かれていました。メアリ・シェリー作「フランケンシュタイン」。2月放送の「100分de名著」は、科学の功罪、人間存在の意味を鋭く問うこの作品を取り上げます。
天才的な科学者ヴィクター・フランケンシュタインは科学の粋を集め人造人間の製造に成功します。しかし誕生したのは見るにたえない醜い怪物でした。ヴィクターはそのおぞましさに耐えられず逃げ出します。一人うち捨てられた怪物は、はじめは善良な存在でしたが、いわれない迫害を受け人類への復讐を決意。ヴィクターを取り巻く人々の殺戮を開始します。
この作品は、本来人間を幸福にするために生み出された科学が逆に手痛いしっぺがえしをもたらすという皮肉を描いているだけではありません。怪物の視点に立つと、人はなぜこの世に生を受け、何のために生きるのかを問うアイデンティティ探求の物語として読むことができます。また、元々善良な存在がなぜ邪悪な存在に変貌するのかを描いた物語ととらえると、現代社会に犯罪や悪が生み出される理由を考えるヒントにもなります。
さまざまな意味を凝縮した「フランケンシュタイン」の物語を【科学の功罪】【悪はなぜ生まれるのか?】【人間存在の意味とは?】など多角的なテーマから読み解き、混迷する現代社会を問い直す普遍的なメッセージを引き出していきます。

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第1回 「怪物」の誕生

【放送時間】
2015年2月4日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年2月11日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年2月11日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
廣野由美子(京都大学大学院教授)
【朗読】
柳楽優弥(俳優)

文学史上、極めて早い時期に描かれた人造人間。しかしそれは見るもおぞましい「怪物」だった。作者メアリ・シェリーはいかにしてこの発想を得たのか? そこには何度も繰り返された死産の体験があった。やがて出産は作者にとって恐怖の対象となる。おぞましい「怪物誕生」の物語は「出産恐怖」の反映だったのだ。混迷した時代情勢も色濃い影を落とす。フランス革命の余波で、当時の英国人達は、新たに台頭してきた勢力が国家を転覆するのではないかという恐怖に怯えていた。いわば「怪物」はそうした勢力を隠喩的に表現したものだとも読める。第一回は、作者の人生や時代背景から、「怪物誕生」の意味を読み解く。

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第2回 疎外が邪悪を生み出す

【放送時間】
2015年2月11日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年2月18日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年2月18日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
廣野由美子(京都大学大学院教授)
【朗読】
柳楽優弥(俳優)

一人うち捨てられた怪物は元々善良な存在だった。ある家族との出会いや読書体験を通して怪物は「人間」として目覚め始める。それもつかの間、姿が醜いというだけで苛烈な迫害を受け始め、いつしか怪物は人類に復讐を誓うようになった。怪物の視点に立つと、この作品は「人はなぜ生きるのか」を問い続けるアイデンティティ探求の物語として読める。また、善良な怪物が邪悪に染まっていく過程を見つめると、社会的な疎外や迫害が人間を歪め、やがて犯罪や悪を生み出していくという構図が透けてみえてくる。第二回は、「怪物の告白」を読み解くことで、「人間存在とは何か」「社会になぜ悪が生まれるのか」といった普遍的な問題を考えていく。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:大久保喬樹「百年前に自然との共生を説いた先見の書」
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第3回 科学の「罪」と「罰」

【放送時間】
2015年2月18日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年2月25日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年2月25日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
廣野由美子(京都大学大学院教授)
【朗読】
柳楽優弥(俳優)

ヴィクター・フランケンシュタインは科学の素朴な信奉者であり、自分が行っている科学的な発明が人類に何をもたらすかを深く考えていない。そこにあるのは偉大な功績を残したいという野心だけだ。その結果としてヴィクターは自らが生み出したものに逆襲を受け、親友や花嫁を次々に殺されていく。そこには、本来人類に幸福をもたらすはずの科学が暴走し、やがて人類を破滅の危機へと導いていくという、現代人が直面している問題が象徴的に描かれている。第三回は、科学者ヴィクターの行動を見つめることで、「科学の功罪」を問うていく。

もっと「フランケンシュタイン」
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第4回 「怪物」とは何か?

【放送時間】
2015年2月25日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年3月4日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年3月4日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
廣野由美子(京都大学大学院教授)
【朗読】
柳楽優弥(俳優)

人類の敵ともいえる「怪物」を作者メアリ・シェリーは同情的に描いている。これは何を意味するのか? 廣野教授はその理由を、「怪物」が近代社会が抑圧・排除してきた「負の部分」を象徴的に担った存在だからではないかと指摘する。「抑圧された醜い欲望」「社会の歪みが生み出した下層階級」「男性社会によって排除された女性」……いわば「怪物」は人間社会が生み出してきた分身でもある。自らが創り出したものからの反乱だからこそ、私達は「怪物」を否定できないのだ。第四回は、「怪物という存在」が担った象徴的な意味を読み解き、人間の「負の部分」を見つめる。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
「フランケンシュタイン」2015年2月
2015年1月26日発売
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こぼれ話。

「フランケンシュタイン」こぼれ話

凶悪な犯罪や卑劣なテロ行為……この世の中にはさまざまな「悪」が存在します。

そんな「悪」に直面したとき、私たちは何よりも「卑劣な行為だ、絶対に許せない」と強い憤りを感じ、断固としてそんなものには屈しない…そんな思いに駆られます。それは人間として当たり前のことでしょう。

ただ、今回「フランケンシュタイン」という作品を熟読して、実は、自分はそこで「思考停止」していたのではないか、と痛切に感じました。犯罪やテロを「邪悪なもの」とレッテルを貼り、切り捨て、単に憎悪の対象にしてしまう。でも、それだけでは本当の解決にはつながらないのではないか。「フランシュタイン」という作品が、そう問いかけているような気がしました。

「怪物」はそもそも善良な存在でした。ゲーテやミルトンを愛読し、人間の高貴さや愚かさについても深く考え続けていた。彼の願いは、ただ隣に住んでいる家族と友達になりたいというささやかなものでした。

しかし、彼を理解してくれたのは、盲目の老人たった一人だけ。どんなに努力をしても、醜いというだけで、彼は疎まれ、いわれない迫害を受け続けます。そんな状況への怒りが限界まで達した瞬間、彼は人類への復讐を誓うのです。

何の罪もない人たちを殺戮し続ける「怪物」の行為は、決して許してはならない「悪」です。では、彼を単に攻め滅ぼしてしまえば問題を全て解決できるのでしょうか? 人間が何の反省もなく科学者ヴィクターのような無責任な行為を続けていけば、第二、第三の「怪物」が生まれてくることを止めることはできない。そう思えてならないのです。

作家の高橋源一郎さんは、最近、「テロリズム」について次のように述べています。

「『テロリズム』は絶望から生まれる。希望がないから破壊にすがるしかないのだ。だから、いくら滅ぼしても、希望がない場所では『テロリズム』は再生する。この世界が生きるに値する場所だと信じさせることしか、彼らを真に滅ぼす方法はないのだ」

私たちが今やらなければならないのは、「悪」に対して、単に「邪悪なもの」とレッテルを貼って切り捨て、そこで思考停止してしまうことなく、「なぜそんな悪が生み出されたのか?」「悪を生み出さないためには何が必要なのか?」を考え続けることではないか。

「フランケンシュタイン」という作品は、現代の私たちに、そう問いかけているような気がしてなりません。

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