おもわく。
おもわく。

※今回の放送は2014年11月に放送したシリーズです。
「菜根譚」


内乱や政争が相次ぎ混迷を極めた明代末期、万歴帝の時代(1572-1620)に生まれた「菜根譚(さいこんたん)」。処世訓の最高傑作のひとつに数えられ、田中角栄、吉川英治、川上哲治ら各界のリーダーたちから座右の書として愛されてきました。
「菜根譚」が書かれた時代は、儒教道徳が形骸化し、国の道筋を示すべき政治家や官僚たちが腐敗。誰もが派閥争いにあけくれ、優れた人材が追い落とされ、ずるがしこい人物だけがとりたてられていました。「菜根譚」は、そんな生きづらい世相の中、何をよすがに生きていいかわからない人に向けて書かれました。それは既存の価値観がゆらぐ中で、とまどいながら生きている現代の日本人にも通じます。そこで11月の「100分 de 名著」では、混迷する時代の生きる指針の書ともいうべき「菜根譚」を取り上げたいと思います。
「菜根譚」は、明代末期に優秀な官僚として活躍後、政争に巻き込まれ隠遁したと推測される人物、洪自誠(こう・じせい)が著したものです。前集222条、後集135条の断章からなり、主として前集は人の交わりを説き、後集では自然と閑居の楽しみを説いています。「菜根」という言葉は、「人はよく菜根を咬みえば、すなわち百事をなすべし」という故事に由来。「堅い菜根をかみしめるように、苦しい境遇に耐えることができれば、人は多くのことを成し遂げることができる」という意味です。辛酸をなめつくした洪自誠が「人は逆境において真価が試される」という思いをこめてつけたと考えられています。そこには、逆境を経験したからこそ生まれた「生きるヒント」が満ち溢れています。
「菜根譚」が時代をこえて読みつがれるのはなぜでしょうか。中国哲学が専門の湯浅邦弘大阪大学教授は、その理由を、「洪自誠が本流から外れて不遇をかこったからこそもちえた冷徹な視点があり、そこから時代を超えた普遍性、鋭い人間洞察が生まれた」と語ります。
番組では湯浅邦弘さんを指南役として招き、「菜根譚」の世界を分り易く解説。様々な言葉を現代社会につなげて解釈するとともに、そこにこめられた独特の【幸福論】や【交際術】、また、現代にも通じる【人格の磨き方】をひもといていきます。

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第1回 逆境を乗り切る知恵

【放送時間】
2014年11月5日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年11月12日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年11月12日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年10月7日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
2015年10月14日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年10月14日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
湯浅邦弘…大阪大学大学院教授

「菜根譚」には「逆境は良薬」「逆境は人間を鍛える溶鉱炉」など、本来ならマイナスにとらえてしまう「逆境」を前向きにとらえ、それをばねにしてさらに高みを目指す生き方が数多く示されている。そこには、政争に巻き込まれ隠遁せざるを得なかったと推測される著者、洪自誠自身の境遇が色濃く反映している。辛酸をなめつくしたからこそ、「逆境」を生かしきる珠玉の言葉を生むことができたのだ。単に「逆境」に対する姿勢だけではない。逆境にあって、力を蓄積することの大事さ、冷静に物事をみる方法等、「逆境をすごす方法」まで書かれている。人生、誰もが陥る「逆境」にどう立ち向っていくか?第1回では、逆境を乗り切る知恵を「菜根譚」から読み解く。

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第2回 真の幸福とは?

【放送時間】
2014年11月12日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年11月19日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年11月19日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年10月14日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
2015年10月21日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年10月21日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
湯浅邦弘…大阪大学大学院教授

明代末期は、それまで人々の価値観を支えていた儒教が形骸化し、何が幸福かがゆらいだ時代だった。「菜根譚」は、形骸化した儒教道徳に、「道教」や「仏教」の中の最良の部分を導きいれ、新しい命を吹き込む。あくまで現実に立脚しながらも、「富貴や名声によらない幸福」「欲望をコントロールすることの大切さ」「世俗を超えた普遍的な価値に身をゆだねることの重要性」などを説き、新しい「幸福論」を再構築しようとしているのだ。第2回では、儒教、道教、仏教を融合した「菜根譚」ならではの「幸福論」を読み解く。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:湯浅邦弘「中国最高傑作の処世訓を味わう」
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第3回 人づきあいの極意

【放送時間】
2014年11月19日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年11月26日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年11月26日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年10月21日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
2015年10月28日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年10月28日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
湯浅邦弘…大阪大学大学院教授

醜い政争に揉まれながらさまざまな人間模様を見続けたと推測される洪自誠は、人間洞察の達人でもあった。「菜根譚」には、「人づきあいの極意」ともいうべき交際術も数多く記されている。「家族との接し方」「友人との接し方」「組織人としての振舞い方」「人材育成法」……およそ人とかかわるあらゆる局面で、どう振舞ったらよいかを具体例とともに細かく指南しているのだ。第3回は、「菜根譚」から「人づきあいの極意」を読み解く。

もっと「菜根譚」
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第4回 人間の器の磨き方

【放送時間】
2014年11月26日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年12月3日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年12月3日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年10月28日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
2015年11月4日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年11月4日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
湯浅邦弘…大阪大学大学院教授

晩年に達観の境地に至ったとされる洪自誠は、人格の陶冶には長い年月がかかると繰り返し述べその重要性を訴える。既存の価値観がゆらぐ現代、「どう生きれば人間的に成長できるのか」は多くの人たちの共通の課題だ。「菜根譚」は、「自分の心を見つめること」「ゆとりをもつこと」「中庸」「高い志」などを、人間的な成長に不可欠なものとして提示する。第4回は、「菜根譚」から「人間の器の磨き方」「人間力の高め方」を読み解く。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
「菜根譚」2015年10月
2015年9月25日発売
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こぼれ話。

「菜根譚」こぼれ話

「菜根譚」、実はプロデューサーAも恥ずかしながらタイトルを知りませんでした。ところが、田中角栄、川上哲治、五島慶太、吉川英治といった錚々たる人々が愛読していたといいます。いったいどんな本なのか、楽しみに読みました。
一読して至るところに出てくる「逆境」という言葉が心に響き、「逆境を乗り切る知恵」を一つの軸にしたいと考えました。私自身が読み解いた「菜根譚」を一言でいい表すと「マイナスをプラスに転化する知恵」といえましょうか? 今あげた「逆境」もそうですが、「譲る」「待つ」「受け身」など一見マイナスにみえる価値を、見方を変えてプラスに転化する洪自誠の思想は本当に勇気を与えてくれます。
番組では時間の関係で全てをご紹介できませんでしたが、実は出演者全員が一番盛り上がったのは、最終回で「拙」という言葉を語り合ったパートでした。ちょっとご紹介させてください。
「拙」は「稚拙」「拙劣」「拙速」などの言葉からもわかる通り、「つたないこと」を意味します。どう考えてもマイナスな言葉を「菜根譚」は見事にプラスの言葉に転化します。「巧」よりも「拙」の方が力強く、そして無限の可能性をもっている、と。
伊集院光さんは、実は「ワッといわれて素直に驚く」といった、テレビが求めるリアクションが下手だということを痛切に自覚して、あるとき、そのうまさを追いかけるのをやめることを決断したそうです。伊集院さんがそこで見出したのが「リアクションができないなら、言葉をきちんと使って説明できるようになろう」という道でした。それが結果的にラジオの仕事につながり、自分の仕事が大きく開けていくきっかけになったとおっしゃっていました。まさに「拙の自覚」が大きな可能性を開いたのです。この番組でも、その能力をいかんなく発揮してくださっています。
また、こんな例を出されていました。目の不自由な方々だけがやっているエンターテインメント集団が、企業とコラボして「肌触りがとてもよいタオル」を開発したんだそうです。彼らにとって「目に見える情報」は苦手な分野、いわば「拙」です。ですがそれを逆手にとるんです。「目が不自由なだからこそ、逆に、肌触りの細やかさを感じる力は自分たちのほうがはるかに上だ」ということに気づき、それを最大限に生かして生まれたのがこの商品だったのです。まさに自分が苦手な分野、「拙」をプラスに転化して、新たな可能性を生かした感動的な例だと思いました。
わずか25分の番組ですから、こんないいお話もどうしても盛り込めないこともあります。私たちはそれを「拙」ととらえ、今後も「限られた時間」を最大限に生かせるような番組を心がけていきたいと思います。

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