おもわく。

「アンネの日記」

今回取り上げるのは、ナチスドイツ占領下のアムステルダムで、ユダヤ人狩りを逃れ隠れ家で暮らした日々を記録した「アンネの日記」です。著者はユダヤ人の少女、アンネ・フランク。ホロコーストの悲劇を象徴する一冊として名高く、聖書に次ぐベストセラーともいわれています。皆さんも、子供の頃、一度は手にとった人も多いかもしれませんね。
アンネが使った日記帳は、13歳の誕生日プレゼントでした。最初は、学校での先生や友人との出来事、厳しさを増すユダヤ人差別の状況などが書かれています。しかしすぐにユダヤ人狩りの手が迫り、2年間にわたる潜伏生活が記されることになります。
日記は戦後、唯一生きのこったアンネ・フランクの父オットーによって出版されました。その時オットーは、家族や同居していた人々への批判や、「性」についての記述を大幅に削りました。1991年、この削除されていた部分を復活させた「完全版」がまとめられました。「完全版」では、「性」と向き合い大人へと成長していくアンネの姿が赤裸々に表現されています。
案内役となるのは、作家の小川洋子さんです。小川さんは、アンネの関係者を訪ねた本も執筆していて、熱烈な「アンネの日記」ファンとして知られています。小川さんが最初に「アンネの日記」と出会ったのは中学1年の時でした。その時は難しくて意味がよく分からなかったそうですが、高校生になって読んだ時に、親への反抗心や、異性への憧れ、将来への希望や不安などが、手に取るようにわかったといいます。小川さんは、アンネの精神年齢の高さに驚くとともに、言葉とはこれほどまでに人の内面を表現できるものなのかと思い、作家になることを決意しました。また大人になって読んだ時には、親としての立場からアンネを見るようになり、その時も新たな発見があったと語っています。
番組では、小川さん独自の視点を通してアンネの日記を読んでいきます。また小川さんが会った関係者の証言も交え、潜伏生活がどんなものだったかにも迫ります。
「悲劇の少女」、「戦争中の貴重な証言」という視点からだけでなく、思春期の少女が、「日常のかけがえのない瞬間」を生き生きと描いた、稀有な文学作品としても味わっていきたいと思います。

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第1回 潜伏生活の始まり

【放送時間】
2014年8月6日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年8月13日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年8月13日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年3月4日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2015年3月11日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年3月11日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
小川洋子(作家)
【朗読】
満島ひかり

ナチスから逃れてオランダに亡命したフランク一家。平和もつかの間、オランダもドイツに占領される。ユダヤ人迫害が日に日に厳しくなっていく中、アンネは13歳の誕生日に、父親から日記帳をプレゼントされる。アンネは、日記をキティと名づけ、まるで友達に語りかけるように日々の出来事を記し始める。しかしアンネの姉に出頭命令が届いたことから、一家は会社の隠し部屋に潜伏することになった。そんなつらい現実をアンネはユーモアたっぷりに描き出し、前向きに生きようとする。日記はアンネにとって心の支えだった。第1回は、「アンネの日記」誕生の経緯と、つらい潜伏生活を前向きに生きようとするアンネのひたむきさを描く。

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第2回 思春期の揺れる心

【放送時間】
2014年8月13日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年8月20日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年8月20日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年3月11日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2015年3月18日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年3月18日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
小川洋子(作家)
【朗読】
満島ひかり

隠れ家にはファン・ダーン夫妻、歯科医のデュッセルら新たな住人も加わりにぎやかになった。しかし共同生活に摩擦はつきもの。思春期を迎えたアンネは、自分を子ども扱いする大人に腹を立て、衝突を繰り返すようになる。そこで父は、アンネが日記を思う存分書けるよう環境を整えた。傷つきやすいアンネの心を守ろうとしたのである。こうしてアンネは、日記を書くことに大きな自由を見いだし、思いのたけをぶつけた。アンネは、日記によって、大人たちとの葛藤を受け止めていったのだ。第2回は、思春期のいらだちと、それを見守る親の気持ちについて考える。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:小川洋子「文学作品として日記を読む」
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第3回 性の芽生えと初恋

【放送時間】
2014年8月20日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年8月27日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年8月27日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年3月18日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2015年3月25日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年3月25日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
小川洋子(作家)
【朗読】
満島ひかり

同居していたファン・ダーン夫妻の息子ペーターは、まだ16歳だったが、力仕事を手伝うなど、大人たちを助けていた。このころアンネは、日記の中で性について記すことが多くなっていた。そしてペーターに恋心を抱くようになる。ペーターはアンネが発する素朴な疑問に真面目に答えていた。その誠実さに心打たれたのだった。しかし、アンネは、感情にのみこまれ自分を見失ってしまうことに恐れをいだき、恋心にブレーキをかけてしまう。ペーターはそんなアンネを見守るしかなかった。第3回は、アンネの恋とペーターの孤独を見つめる。

もっと「アンネの日記」
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第4回 希望を抱きながら

【放送時間】
2014年8月27日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年9月3日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年9月3日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2015年3月25日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2015年4月1日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2015年4月1日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
小川洋子(作家)
【朗読】
満島ひかり

アンネは、日記を通して、戦争とは何か、自分とは何者かを冷静に見つめるようになった。いつしか作家かジャーナリストになりたいという夢を抱くようになる。しかし、隠れ家に泥棒が入ったり、食べ物が日に日に劣悪になったりと、事態は悪化の一途をたどっていた。そうした時、待ち望んでいたノルマンディ上陸作戦が始まる。人々は驚喜するが、その2か月後、ついに全員が捕らえられてしまう。その直前の日記には「理想の自分になりたい」という願いが書き込まれていた。その願いもむなしくアンネは収容所でチフスにより死亡した。享年15歳。第4回は、生きる希望を失わなかった人々の姿と、アンネの成長、その最期を語る。

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「アンネの日記」2015年3月
2015年2月25日発売
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こぼれ話。

「アンネの日記」こぼれ話

「名著は必ず待っていてくれる」。今回講師を担当してくださった小川洋子さんの言葉ですが、この言葉に、名著と呼ばれる作品に共通するエッセンスが凝縮されていると思います。初めて読んだときにはさっぱりわからなかった本が、時を経て読み返してみるとすっと理解できたり、より深い意味を感じるとることができたりする。また、読む年齢やその人が経た経験によって、その本が全く異なった相貌を現すことがある。このように、名著には、幾重にも積み重なった多様な意味が層をなしており、読むたびに全く違った感動があります。名著は、読む人のことをいつでも待っていてくれるのです。
このことを何よりも痛切に体験させてくれたのが「アンネの日記」でした。少年時代に読んだのは確か教科書に掲載された抄訳や児童用にわかりやすく編集されたダイジェスト版。なんとなく、狭いところに閉じ込められてかわいそうな少女だ…というくらいの印象しか残っていませんでした。ですから、この歳になって「アンネの日記」を再読できたことの幸運をかみしめています。「アンネの日記」、待っててくれてありがとう!。

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