もどる→

もっと「遠野物語」

此話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。昨明治四十二年の二月頃より始めて夜分折々訪ね来り此話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手には非ざれども誠実なる人なり。

ザシキワラシ又女の児なることあり。同じ山口なる旧家にて山口孫左衛門と云う家には、童女の神二人いませりと云うことを久しく言伝えたりしが、或年同じ村の何某と云う男、町より帰るとて留場の橋のほとりにて見慣れざる二人のよき娘に逢えり。

山口、飯豊、附馬牛の字荒川東禅寺及火渡、青笹の字中沢並に土淵村の字土淵に、ともにダンノハナという地名あり。その近傍に之と相対して必ず蓮台野と云う地あり。

黄昏に女や子共の家の外に出て居る者はよく神隠しにあうことは他の国々と同じ。松崎村の寒戸と云う所の民家にて、若き娘梨の樹の下に草履を脱ぎ置きたるまま行方を知らずなり。

御犬とは狼のことなり。山口の村に近き二ツ石山は岩山なり。ある雨の日、小学校より帰る子ども此山を見るに、処々の岩の上に御犬うずくまりてあり。やがて首を下より押上ぐるようにしてかわるがわる吠えたり。

ページ先頭へ