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もっとモンテ・クリスト伯

「(アンドレイは)不意に理由もない喜びと改新の春の感情にとらえられた。自分の人生の一番素晴らしかったすべての瞬間が同時に思い起された。アウステルリッツと高い空も、責めているような妻の死に顔も……夜の美しさに感激している女の子も、その夜も、月も──すべてが不意に思い出された。《いや人生は三十一歳で終わりはしない》不意に最終的に、きっぱりとアンドレイ公爵は結論を下した」

「ああ!あたしにとってこの子がとっても心配なの、とっても心配なのよ」伯爵夫人はだれを相手にしているのかも忘れて言った。彼女の母親としての直観が、ナターシャには何かがあまりにも多くありすぎる、そしてそのためにこの子は幸福になれないだろうと、彼女の胸に語りかけていたのだった。ナターシャが まだ歌い終わらないうちに、十四歳のベーチャがはしゃいで駆け込んできて、仮装をした人たちがやってくると知らせた。

《同情、同胞たちや、愛する者への愛、我々を憎む者たちへの愛、敵への愛──そうだ、これが神が地上で説き、マリアがおれに教え、おれが理解しなかった、あの愛なのだ。これが分からなかったから、おれはいのちが惜しかったのだ。これこそ、おれが生きていられたら、まだおれの内に残されていたはずなのだが、今はもう遅い。おれにはそれが分かっている!》

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