とじる

平和とは何か?

古今東西の「名著」を、25分×4回・100分で読み解く「100分de名著」。1月2日に年始特集として「100分de平和論」を放送します!
番組では、「平和」がテーマ。多角的なテーマから名著を読み解くことで、平和について考察します。
通常の4回シリーズではなく、100分間連続の放送でお届けします。

NHKオンデマンドでご覧いただけます

長塚京三さんからのメッセージ

朗読を担当した長塚京三です。

「戦争」や「平和」というテーマは、そもそもが大変難しいテーマなので、それを表現した文章が難しくなってしまうのは、むしろ著者の方々が誠実に取り組んでいるからこそだと思います。だから、朗読する際に、単にいい声で読むとか、耳に心地よく読むというのでは足りない。視聴者の皆さんは、ぼくの声を通して原典に接するのだから、自分なりに理解したところを正確に、そしてニュートラルに読むことを心がけました。地道であり、花がないといえば花がない作業ですが、その花のなさに徹しなければ、皆さんの代読者にはなれない。朗読というのは、ぼくにとって、読むことそのものの志が問われるような大切な場なのです。

今回朗読した名著は、単なる評論を超えた「平和への希求」だと感じています。人類は何百年も前から平和について考え続けてきたけれど、未だに平和は実現していません。だからこそ、先人たちの遺した言葉を身の内にしみじみと取り込まなければならないと思います。ぼくの朗読が、視聴者の皆さんがそうするためのきっかけになればと願っています。

こぼれ話。

新春スペシャル「100分de平和論」、
いかがでしたでしょうか?

一つこぼれ話を申し上げますと、「100分de平和論」を企画したきっかけは、2016年がオリンピックイヤーにあたることでした。近代オリンピックの創始者クーベルタン男爵は、オリンピック開催中は戦争を休戦して大会に参加しようとの理念を掲げて、オリンピックを「平和の祭典」として実施しました。それにちなんで、オリンピックイヤーの2016年初頭に「平和について名著から学んでみるのはどうだろう?」というのが、そもそもの企画意図だったのです。

ところが、企画立案からおよそ一ヵ月後、私たちが「平和」というものに向き合わざるを得ない大きな事件が起こりました。2015年11月13日に起こった「パリ同時テロ」。この事件をきっかけに、あらためて「平和の意味とは」「宗教間、民族間の憎悪は乗り越えられないのか」「テロリズムとどう向き合うべきか」「民間人を巻き込んでしまうような報復が果たして許されるのか」などなど、決して避けては通れないが、簡単には答えを出すことができない、さまざまな問題が私たちにつきつけられました。

今回の番組を、こうした問題を深く考えるための「導きの糸」にすることはできないか……スタッフや出演者の人たちの思いを受けて、名著の選定や番組の方向性の練り直しが急遽行われました。こうした状況もあって、今回の番組制作は、とても大変な作業でしたが、私自身にとっても、ひときわ思い入れの深いものとなりました。

もう一つ、限られた番組時間の中でどうしてもカットせざるを得なかったお話の中に、「平和」を語る上でとても示唆に富んだ言葉があったので、こぼれ話として紹介させてください。ゲストの一人、斎藤環さんが紹介した、著名な精神科医・中井久夫さんの著作「戦争と平和 ある観察」に出てくる一節です。

「戦争は有限期間の『過程』である。始まりや終わりがある。多くの問題は単純化して勝敗にいかに寄与するかという一点に収斂してゆく。戦争は語りやすく、新聞の紙面一つでも作りやすい。戦争の語りは叙事詩的になりうる…(中略)…指導者の名が頻繁に登場し、一般にその発言が強調され、性格と力量が美化される」

「戦争が『過程』であるのに対して平和は無際限に続く有為転変の『状態』である。だから、非常にわかりにくく、目にみえにくく、心に訴える力が弱い。…(中略)…平和維持の努力は何よりもまず、しなやかでゆらぎのある秩序を維持しつづける努力である。しかし、この“免震構造”の構築と維持のために刻々要する膨大なエネルギーは一般の目に映らない。平和が珠玉のごとくみえるのは戦時中および終戦後しばらくであり、平和が続くにつれて『すべて世はこともなし』『面白いことないなぁ』と当然視され『平和ボケ』と蔑視される」

(中井久夫著「戦争と平和 ある観察」より)

かように、「戦争」は語りやすく、「平和」は語りにくい。だからこそ、私たちは平和について語り続ける努力を続けなければならない、と思います。今回の番組が「平和を語る」一助になればと願ってやみません。


さて、今回のゲストの皆さんも、プロデューサーAにとっては、大変思い入れの深い方々でした。ある意味、これまで、私自身の「知」を育ててくださった恩人のような存在です。

まず前回の「100分de日本人論」で河合隼雄著「中空構造日本の深層」を解説してくださった斎藤環さんが再び登場。今回はよりご自身の専門に近いフロイトを取り上げ、フロイトの時代には存在しなかったネット社会の陥穽にまで論点を広げてくださいました。水野和夫さんは、著書「資本主義の終焉と歴史の危機」で、経済オンチの私にもわかりやすく、資本主義の限界や問題性を教えてくれた人。ブローデル「地中海」という巨大な著作のエッセンスを非常にコンパクトにまとめていただき、我々にとって不可避な「資本主義」とどう向き合ったらよいのかを教えてくださいました。田中優子さんは、処女作「江戸の想像力」で、学生時代の私を江戸文化の魅力に目覚めさせてくれた恩人。井原西鶴「日本永代蔵」の小さなエピソードから、江戸270年の泰平の秘密を見事に読み解いてくださいました。レギュラーシリーズの太宰治「斜陽」の回で斬新な太宰論を展開してくださった高橋源一郎さん。私自身、「優雅で感傷的な日本野球」をはじめ彼の小説作品をずっと愛読させていただいていました。パリ同時テロ以降、宗教間、民族間の憎悪やテロの問題とどう向き合ったらよいかという極めて今日的な問題を、ヴォルテール「寛容論」から読み解いてくださいました。

また、俳優・長塚京三さんの、とても真摯な朗読……とりわけ「寛容論」の祈りの部分の朗読は、心の奥底に響きわたるものでした。その思いの一端を、このホームページに掲載した長塚さんからのメッセージから読み取っていただけたらうれしいです。

スタッフや関係者一同の尽力で、現代を代表する一級の知性たちによる饗宴は、「平和」という人類普遍のテーマをあらためて深く思索する上での絶好の導きの糸を与えてくれるものになったと、確信しております。

収録は実に5時間以上にわたり、平和についてとことん語りつくしていただきました。そのエッセンスをお伝えすべくスタッフ一同奮闘いたしましたが、あれだけ情報量の多い名著を解説するにはやはりどうしても時間が足りなかったというのも事実です。もしかしたら物足りないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。「100分de幸福論」「100分de日本人論」に引き続き、後日、ムック本という形でも展開させていただこうと考えております。ぜひご一読いただけたらと思います(出版予定などが決まりましたら、またあらためて告知させていただきます)。

また、再放送やNHKオンデマンドで、あらためてご覧いただけるとうれしいです。

「Pray and think!」 平和を祈り、そして、一緒に考えましょう!

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