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名著、げすとこらむ。

◯「相対性理論」ゲスト講師 佐藤勝彦
誰にでもわかる「相対性理論」の世界へ

今回のテーマは、アインシュタインの「相対性理論」です。
—というと、「えっ、相対性理論って書名なの?」と思われる方も多いのではないでしょうか。その通りで、正確にはアインシュタインが一般の読者に向けて著したそのものズバリの題名の本はなく、「アインシュタインが相対性理論に関して著した論文と、その理論の総称」だと思ってください。
一九〇五年、弱冠二十六歳のアインシュタインは、その発端となる最初の論文“Zur Elektrodynamik bewegter Körper”(邦訳「動いている物体の電気力学」)をドイツの学術誌に発表し、当時の科学界に大きな衝撃を与えました。
そのわけは、これまで常識と思われていた「時間」と「空間」の概念を新たに構築し直したことにあります。今ではこの第一論文とそれを補完する数篇の論文からなる理論が、「特殊相対性理論」と呼ばれています。
そして十年後の一九一五年から一六年にかけて、今度は、アインシュタインは特殊相対性理論では考慮されていなかった「重力」についての理論を発表します。これが「一般相対性理論」と呼ばれるものです。
なんの予備知識もなく「特殊」と「一般」という言葉を聞くと、特殊の方が難解で、一般の方が概論的で平易なイメージを持たれがちなため、「なぜ特殊が先に発表されて、一般が後になったの?」と疑問に感じられるかもしれません。
しかし、相対性理論の場合はまったく逆なのです。両方とも時間や空間の謎を解明した理論であることに変わりはないのですが、特殊相対性理論は、ある限られた条件のもとでのみ適応できる理論、一般相対性理論は、どんな条件のもとにおいても適応可能な理論を意味します。言い換えるならば、特殊の方が基礎となる考え方で、一般の方がそれをより発展させた複雑な理論といっていいでしょう。
どちらの理論も、それまでの常識を覆すような考え方で、アインシュタインという希有な天才が、ほとんど一人でその体系をつくり上げたものではあります。そのため、彼がいなかったら相対性理論はこの世に生まれなかったか……といえば、そうでもありません。
科学の進歩というのは、多くの研究者が下地をつくり、その下地を踏まえたうえで新たな理論を構築することで、どんどん進歩発展していくものです。相対性理論もそれと同じで、まったく何もないところから生まれたものではありません。
特に特殊相対性理論は、それまでの物理学の流れからすれば、もしアインシュタインがいなかったとしても、一、二年も遅れることなく誰かが発表していたように思われます。だからこそ、発表と同時に多くの学者たちにすぐ受け入れられることになったのです。
別の見方をすれば、相対性理論は天才にしか理解できないものではなく、ある程度の物理学の流れを知っていれば、私たち誰にでも理解できるものだといえます。ですから、相対性理論を知らずに人生を送ってしまうのは非常にもったいないことだと思うのです。
さあ、案ずるよりも産むが易し、相対性理論を楽しむ世界に、みなさんをご招待します。

佐藤勝彦(さとう・かつひこ)
宇宙物理学者

プロフィール 1945年香川県生まれ。京都大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。専攻は宇宙論・宇宙物理学で、インフレーション宇宙論の提唱者として知られる。北欧理論原子物理学研究所(コペンハーゲン)客員教授、東京大学理学部助教授、同大学大学院理学系研究科教授などを経て、現在は東京大学名誉教授、大学共同利用機関法人自然科学研究機構機構長、明星大学客員教授。90年仁科記念賞受賞、2002年紫綬褒章受章、2010年学士院賞受賞。著書に『岩波基礎物理シリーズ9相対性理論』(岩波書店)、『眠れなくなる宇宙のはなし』『ますます眠れなくなる宇宙のはなし』(以上、宝島社)、『「相対性理論」を楽しむ本』『「量子論」を楽しむ本』(以上、監修、PHP文庫)など多数。

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