おもわく。

パスカル『パンセ』

原発事故やユーロ危機など、今ほど人間の理性の限界が明らかになった時代はありません。そこで「100分 de 名著」6月シリーズでは、理性の落とし穴を鋭く指摘し、物事を謙虚に受けとめることの大切さを記した名著、パスカルの「パンセ」を取りあげます。
「パンセ」は、フランス語で「思想」を意味します。「人間は考える葦である」「クレオパトラの鼻が低かったら世界は変わっていただろう」など、様々な名言が散りばめられています。
著者のブレーズ・パスカル(1623-1662)は、思想家であると同時に科学者でした。計算機の発明や大気圧の研究で知られ、気圧の単位・ヘクトパスカルにその名を残しています。「パンセ」は科学者の視点で、人間の心の特徴を分析した書と言えます。
パスカルが生きた時代のヨーロッパでは、科学が著しく進歩し、キリスト教に基づく世界観に疑問の声があがり始めていました。そして人間の理性が、世界の真実を明らかにするという思想が急速に広まっていました。
しかし世の中を冷静に見つめていたパスカルは、理性こそ万能だという考えには、危うさがあると確信するようになります。「人間はおごってはならない」と考えたパスカルは、人間の弱さを明らかにするため、日々考えたことをメモに書きとめました。それをまとめたのが「パンセ」です。そこには震災を経て、現代文明のもろさがあらわになった今こそ、改めてかみしめたい言葉があふれています。
なぜ人間は同じ過ちを繰り返すのか—「パンセ」は、まるで科学の法則のように、合理的で冷徹な視点にたって、人間の心の特徴を明らかにしています。番組では、パンセを読みときながら、私たち人間の限界と可能性について考えます。

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第1回 人生は選択の連続だ!

【放送時間】
2012年6月6日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年6月13日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年6月13日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
鹿島茂(フランス文学者・明治大学国際日本学部教授)

人生に選択はつきものだ。ではその選択は、きちんとした理性に基づいたものだろうか。例えば企業の就職人気ランキングは、時代と共に変わる。つまりその時の社会の空気によって、人気が上下する。パスカルは、人間の判断はね環境や習慣などの外的要因に大きく左右されているとした。また人間の願望には限りがないため、常に「この選択で良いのか」と悩み続けると述べた。流されやすく欲深い、それが人間の本性なのだと。第1回では、人生における様々な選択と決断を例にあげながら、人間の思考にはどんな弱点があるのかを考える。

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第2回 もっと誰かにほめられたい!

【放送時間】
2012年6月13日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年6月20日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年6月20日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
鹿島茂(フランス文学者・明治大学国際日本学部教授)

人間の願望は、自己愛に源を発している。自分を認めて欲しいという思いが、生きる原動力になっている。しかし自己愛は、時には自慢や嫉妬、羨望を生んでしまう。また人間は、自己愛によって、現実をきちんと直視出来ないことが多い。耳の痛い真実は、身分の上下に関係なく、あらゆる人を傷つけるからだ。パスカルは、人間の考えることは、常に自己愛によってゆがんでいるとした。第2回では、人間の自己愛について解き明かす。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:鹿島茂「誰が読んでも答えが見つかる万能書」
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第3回 生きるのがつらいのはなぜか?

【放送時間】
2012年6月20日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年6月27日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年6月27日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
鹿島茂(フランス文学者・明治大学国際日本学部教授)

趣味に打ち込むこともなく、仕事もない状態で、じっと部屋に閉じこもっていると、気分が沈んでいくだろう。パスカルは、人間は何かに熱中していないと生きていけない生き物だとした。そして人間が何かに熱中するのは、やがて訪れる死の恐怖から目をそらし、死を忘れるためなのだとパスカルは述べた。第3回では、人間にとって死とは何か、そして生きるのがつらいのはなぜかを考える。

もっとパンセ
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第4回 人間は考える葦である

【放送時間】
2012年6月27日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年7月4日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年7月4日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
鹿島茂(フランス文学者・明治大学国際日本学部教授)
【特別ゲスト】
福岡伸一(分子生物学者・青山学院大学教授)

最終回では、スペシャルゲストとして分子生物学者の福岡伸一さんを招く。福岡さんはこれまで科学の限界を痛感してきた。世界には複雑な要素があまりにも多く、全ての因果関係を突き止めることは不可能ともいえるからだ。「パスカルは“人間には分からないことがある”という事実を前に、人間のおごりをいましめた」と福岡さんは言う。原発事故など、人間の理性の落とし穴が明らかになった今、私たちが忘れてはならないことは何なのか、鹿島茂さんと共に語りあう。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
パスカル『パンセ』2012年6月
2012年5月25日発売
定価550円(本体524円)
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こぼれ話。

「パンセ」こぼれ話

「パンセ」は、“キリスト教護教論”を目指して書かれ、著者パスカルの死によって未完に終わった書です。ですので前半では、神を信じようとしない人間の愚かさを指摘し、後半では、キリスト教を信じる意義について書かれています。
もし「パンセ」が“キリスト教護教論”として完成していたら、読者の幅はもっと限定されたものになっていたでしょう。宗教に関心のない人は、おそらく読まないからです。しかし未完であったことが逆に幸いしました。整理されていない、パスカルの心が投影された生々しい部分が残されたため、読者の幅を広げることになったのです。また、科学者の冷徹な視点で人間を分析したため、宗教書にとどまらない、人間論としても読める書になりました。
今回のシリーズでは、宗教の知識がない人にもなじみやすくするよう、「パンセ」の前半部分をクローズアップしました。そして最終回では、原発事故やユーロ危機など、様々な不安がうずまく今、わたしたち現代人のヒントとなる思想を探りました。
完全な“答え”など、永遠に出ることはないでしょう。しかし悩み続けることが、人生をよりよくするのかもしれません。次回の7月シリーズでは「源氏物語」をアンコール放送しますが、8月シリーズでは“悩む”意義についてさらに深く考えます。ご期待下さい。

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