もどる→

アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技

【第79回】
今回、スポットを当てるのは、
ケシュ#203

プロフィール

ケシュ#203(ケシュルームニーマルサン)
仲井陽と仲井希代子によるアートユニット。早稲田大学卒業後、演劇活動を経て2005年に結成。
NHK Eテレ『グレーテルのかまど』などの番組でアニメーションを手がける。
手描きと切り絵を合わせたようなタッチで、アクションから叙情まで物語性の高い演出を得意とする。『100分de名著』のアニメを番組立ち上げより担当。
仲井希代子が絵を描き、それを仲井陽がPCで動かすというスタイルで制作し、ともに演出、画コンテを手がける。
またテレビドラマの脚本執筆や、連作短編演劇『タヒノトシーケンス』を手がけるなど、活動は多岐に渡る。
オリジナルアニメーション『FLOAT TALK』はドイツやオランダ、韓国、セルビアなど、数々の国際アニメーション映画祭においてオフィシャルセレクションとして上映された。

ケシュ#203さんに「老い」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

今回のアニメーションは、物語やエピソードとは異なり、理解を深めるための解説とエビデンスが中心だったので、構造を考えて「枠」を設けました。

枠内で起きていることはボーヴォワールが話している内容、枠外からボーヴォワールがそれらを解説するという構造です。

キャラクターは、あまりデフォルメしていない具象的な絵柄を選択。50年前の話とはいえ、今の私たちと当事者性を感じもらうため、現代らしいモダンな雰囲気を目指しました。

内容に関しても、今回はエビデンスが中心だったので、書かれている通りにただやってしまうと単なる挿絵になってしまいます。アニメーションならではの『絵が動くことで感情に訴える/理解を促す』という効果を活かすため、出来事の奥にある人々の感情やそうした出来事が起こってしまう背景をできる限り盛り込もうとしました。例えば、裸で出歩く老人が、ただ裸になるわけではなく、息子に役割を剝奪された反応として服を投げつける、というようにです。

そして、今回もジェンダーバイアスには腐心しました。なかでも難しかったのが「職業人にとっての老い」を取り上げた際、そのほとんどの例が男性だったことです。
もちろんエビデンスを変更することはできませんが、50年前と今では時代も異なり、その職業のなかでも活躍しているのが男性だけとは限りません。
どうしてもそのジェンダーバイアスを打破したく、画家に関しては女性にしました。ちなみに、この画家はいまも活躍している老年の女性数人をモデルにしてます。

また、さらに悩んだのが、「夫婦」についての説明をする際、異性愛のカップルが基準になってしまっていることです。
もちろん、あくまで50年前の原作の解説なのですが、それを語る際に、今日性は無視できません。
多様な性的指向がようやく認知、可視化されるようになった現在において(もちろんまだまだですが、それを打破するためにも)、これはどう映るんだろうという気持ちは最後まで拭えませんでした。「老い」という誰しもが通る経験にも関わらず、誰かをまた置き去りにしてしまうことへの苦悩がありました。
今後どのようにすればこれらを解消できるのか、考え続けていきたいと思います。

ページ先頭へ
Topへ