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アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技

【第77回】
今回、スポットを当てるのは、
高橋昴也

プロフィール

高橋昂也 1985年 愛知県生まれ。
東京藝術大学大学院デザイン科修了。
アニメーション作家・イラストレーター。フリーランス。
テレビ、博物館、ゲームなどの分野で活動する傍ら、自主作品の制作も行なう。

高橋昂也さんに「金閣寺」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

この小説は、大変な犯罪者となる男を、一人の人間として深く見つめるものでした。
人生に絶望した一人の人間が、いろいろあって最後には「生きよう」と思う。ここに至るためには、それまでのすべての過程が必要だったと考えると、これ以上ないハッピーエンドだというのが、僕の第一の感想でした。
そんな単純な解釈で終わらせてはいけないけれど、少なくとも主人公の側に立ってアニメーションを作っていきたいと思いました。

ささくれた心の持ち主が「美」を信じ、探し求めるという内容から、暗く沈んだ、未完成のスケッチ調の画面に、時々、発光するものを配置していくというのを、基本ルールとしました。
発光するものは「美」の予感であり、その最たるものが金閣寺です。

そして、この金閣寺をアニメーションでどう描くかが、今回の課題でした。
幸運だったのは、前回番組で谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」に触れられたことでした。かつての人々が、現代とは違った美的感覚を持っていたという点は、大きく意識しました。
資料を見ると、消失前の金閣寺は現存のものとはかなり印象が違うものだったようです。
金色の建物という分かりやすいキャラクターではなく、経年変化した表情や、頼りない華奢な構造を「美」とする渋いものだったろうと想像します。
主人公と共鳴するのにふさわしい、闇と溶け合うような金閣寺を目指しました。

また、この建物は主人公の見方によって様々に姿を変える、非常に動物的な存在として登場します。
アニメーションでも、この静止した建物をいかに表情豊富に見せられるか、という点も挑戦し甲斐がありました。

不安定で壊れやすい世界に一つ異質なものとして金閣寺が存在する様子を、アニメーションで印象付けたいという狙いがありました。

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