おもわく。
おもわく。

2021年の大河ドラマの主人公であり、新一万円札の顔にもなる渋沢栄一(1840-1931)。約500社もの企業を立ち上げ、500以上の社会事業にも携わり、「日本資本主義の父」「実業界の父」と称された人物です。日本の制度や経済システムの基礎を築いたともいわれている。彼の思想や信念の根幹を記したとされるのが「論語と算盤」。今なお数多くの経営者や起業家に読み継がれ絶大な影響力を誇っています。そこで、この「論語と算盤」を現代の視点から読み解くことで、理想のリーダーや組織・制度のあり方、困難な人生を生き抜く方法などを学んでいきます。

「論語と算盤」が卓越したビジネス論、組織論といわれるのはなぜでしょうか? それは、今から100年以上も前に、「資本主義」や「実業」が内包していた問題点を見抜き、それを解決するための考え方やしくみをどう組み込めばよいかを指し示しているからだといわれています。「資本主義」や「実業」は、自分だけの利益を増やしたいという欲望をエンジンとして進んでいく面があります。しかし、そのエンジンはしばしば暴走し、さまざまな問題を引き起こしていきます。だからこそ渋沢は、この本によって,「資本主義」や「実業」に、暴走の歯止めをかけるためのしくみが必要であることを示そうとしたのです。

中国古典研究者・守屋淳さんは、「論語と算盤」が現代でもビジネスや組織運営、生き方などにおける最良の「教科書」になると指摘します。この本を読めば、社会や組織のしくみはどうあるべきか、理想のリーダーになるためには何をなすべきか、困難に直面したときどうふる舞えばよいのかを学ぶことができるというのです。資本主義が暴走し、さまざまな問題が噴出している今こそ、渋沢がこの名著で描いたヴィジョンを学ぶべきだと守屋さんは考えています。

番組では、守屋淳さんを指南役に招き「論語と算盤」をわかりやすく解説。様々な言葉を現代につなげて読み解きながら、そこに込められた【ビジネス論】【組織論】【経済論】【生き方論】などを深く学んでいきます。

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第1回 高い志が行動原理を培う

【放送時間】
2021年4月5日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年4月7日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年4月7日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
守屋淳…著書「『論語』がわかれば日本がわかる」「最高の戦略教科書 孫子」等で知られる中国古典研究者。
【朗読】
小野武彦(朗読)
【語り】
内藤裕子

今でこそ「日本資本主義の父」とも評価される渋沢だが、若き日は信念が定まらない右往左往する人間とみられることもあった。倒幕運動に邁進したかと思えば一橋慶喜の元で仕える。大蔵省の一員として新しい国作りにかかわったかと思えば、突然辞めて一民間経済人として活動する。一見首尾一貫しない渋沢に、実は確かな行動原理があったと守屋さんはいう。「倒幕」や「攘夷」は、渋沢にとって目的ではなく、「強くて繁栄した日本を作る」という高い志のための手段にすぎなかった。だからこそ「近代化」や「外国人受け入れ」の方が有効だと気づけば柔軟にそちらに切り替えることができたのだ。第一回は、渋沢の前半生を振り返りながら「論語と算盤」を読み解き、柔軟でしなやかな行動原理を生み出す「高い志」の大切さを学ぶ。

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第2回 「信用」で経済を回せ

【放送時間】
2021年4月12日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年4月14日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年4月14日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
守屋淳…著書「『論語』がわかれば日本がわかる」「最高の戦略教科書 孫子」等で知られる中国古典研究者。
【朗読】
小野武彦(朗読)
【語り】
内藤裕子

渋沢は、外遊先のロンドンで商工会議所の一員から「日本人は約束を守らない」という言葉を聞いて衝撃を受ける。明治に入り近代化の波を受けた日本人たちは目先の利益を追求することに狂奔し、商業道徳が著しく荒廃してしまった。このままでは日本は世界から取り残されてしまうと考えた渋沢は、「実業と道徳の一致の必要性」を全国で説いて回ることになる。この集大成が「論語と算盤」なのだ。そこには、西欧で目の当たりにした、金融機関や株式会社が「信用」を媒介にして回っているという事実から学んだ教訓がある。信用こそが経済と道徳を結び付ける鍵だったのだ。第二回は、「信用でまわす経済」をキーワードに、拝金主義に陥りがちな資本主義の暴走のブレーキとなるものは何なのかを考える。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:守屋淳
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第3回 第三回 「合本主義」というヴィジョン

【放送時間】
2021年4月19日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年4月21日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年4月21日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
守屋淳…著書「『論語』がわかれば日本がわかる」「最高の戦略教科書 孫子」等で知られる中国古典研究者。
【朗読】
小野武彦(朗読)
【語り】
内藤裕子

渋沢は生前「資本主義」という言葉をほとんど使わなかった。彼が導入しようとしたのは「合本主義」というシステム。この耳慣れないシステムを、渋沢は「封建領主体制」で体験したものを裏返すことで構想した。この構想の軸となるのは「金融の整備」「インフラの整備」「産業の担い手になる人材育成」。いずれも国家や行政が主導する、人、物、金を社会に循環させ社会を繁栄させるための基盤整備だ。このように、「公益」という目的を明確に打ち立てた上で人材と資本を集めて事業を推進するという理念が「合本主義」なのである。それは「論語と算盤」の根幹に据えられた思想でもある。第三回は、渋沢が構想した「合本主義」とは何かを紐解きながら、私利追求に走りがちな資本主義システムに対抗するオルタナティブな選択肢はありうるのかを考える。

安部みちこのみちこ's EYE
アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技
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第4回 対極にあるものを両立させる

【放送時間】
2021年4月26日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年4月28日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年4月28日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
守屋淳…著書「『論語』がわかれば日本がわかる」「最高の戦略教科書 孫子」等で知られる中国古典研究者。
【朗読】
小野武彦(朗読)
【語り】
内藤裕子

「公益」と「私利」という対極にある価値にどう折り合いをつけていけばよいのか? それが日本の繁栄の鍵だと考えた渋沢は、「論語」という古典を大胆に読みかえていく。一見「私利よりも公益をとるべし」と読める孔子の教えを、「孔子は、必要であれば利をとってもよいと述べている」と解釈。私利追求に資本主義のエンジンとしての役割を認める。だが、それが行き過ぎると社会は破壊される。もう一方に「信用」や「公益」といった価値を示してくれる「論語」的な理念を据え、「経済合理性」のみの価値観の弱点を取り除こうとする。「論語と算盤」には、対極的な価値観をバランスするという理念が埋め込まれているのだ。第四回は「競争と協調」「寛容と厳しさ」「経済と道徳」という対極的な価値観を融和し協調させる渋沢独自の思考法に迫っていく。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
『論語と算盤』 2021年4月
2021年3月25日発売
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こぼれ話。

資本主義の暴走を止めるために

「論語と算盤」を読んでみようと思ったきっかけは、意外に思われるかもしれませんが、「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」という運動がアメリカで巻き起こったことでした。この運動は、高額所得者に対する税制優遇措置を廃して、所得上位1%に集中する富を残りの99%に分配することで格差を是正することや、金融関連企業を代表とする企業減税を廃して、介護、教育、医療等への公共サービスに対する予算削減を阻止することなどを掲げた運動でしたが、いわゆる「強欲資本主義」と呼ばれる資本主義の暴走に対する象徴的なカウンターとして、大きく心を揺さぶられたことを、今でもよく覚えています。

「資本主義」という言葉にまだ多少楽観的なイメージをもっていた私は、冷や水を浴びせられたような思いがしました。とともに、暴走する資本主義に対して、何らかの対抗原理を考えなければならない時期にきているのではないか。そんな問題意識をもっていろいろな本を手にとりました。印象に残ったのが「渋沢栄一のこころざし」というジュニア向けの入門書。渋沢栄一が「日本資本主義の父」と呼ばれていることを何かの記事で知ったのが理由でした。渋沢が日本ではじめて、株式会社500社・社会事業600団体をつくり、近代日本に銀行・保険・ガスの事業や田園調布の街を誕生させた、偉大な起業家だったということがわかりやすくまとめられていました。そこで、彼の思想を探れば何かヒントが得られるのではないかと、主著といわれる「論語と算盤」を読んでみようと思ったのです。最初に手に取ったのは、確か国書刊行会から出ていた「論語と算盤」。ただ、言い回しが古めかしいのと、あまり体系的には書かれていない格言集みたいなイメージしかもてず、途中で読むのを止めてしまったのでした。

その後、「100分de名著」のプロデューサーに就任することになり、中国の古典にも、ときどき取り組むようになりました。そんなときに出会ったのが中国古典研究家・守屋淳さんの著作。「論語」や「孫子」を解説する守屋さんの著書はどれもとてもわかりやくて魅力的でしたが、すでにいずれも番組で取り上げてしまっていました。残念だなあ…と思っていたときに見つけたのが、守屋さんによる現代語訳「論語と算盤」だったのです。 実に生き生きとした現代語訳で内容がするするとはいってきたのはもちろんのこと、注目したのはその序文でした。「栄一は、『実業』や『資本主義』には、暴走に歯止めをかける枠組みが必要だ、と考えていた。その手段が、本書のタイトルにもある『論語』だったのだ」との言葉に膝を打ちました。まさに、私が最初に渋沢栄一の著作を読んでみようと思ったときの問題意識とぴったり重なったからです。

折しも、関連会社の出版社の編集者が守屋さんと仕事をしていることを耳にし、その編集者に守屋さんとつないでもらいました。すでに新型コロナ禍の只中でしたので、風通しのよいご自宅マンションのロビーで、マスクをつけたままで1時間ほど、非常に明快なレクチャーをしてくださいました。これが実に小気味のいい解説でした。断片的だと思えた「論語と算盤」の言葉が体系的に次々に整理されていき、「ああ、渋沢は、近代日本に対して、こんな設計図をもっていたんだ」という骨格がみえてきました。この話を聞き終えたとき、守屋さんの解説で「論語と算盤」を取り上げようと決めたのでした。

とりわけ私の心をとらえたのが「合本主義」という言葉でした。「公益を追求する」という目的が根本に置かれた仕組みであり、一部の人に富が集中する仕組みではなく、「みなで、ヒト、モノ、カネ、知恵を持ち寄って事業を行い、その成果をみなで分かち合い、みなで豊かなになる」という道筋。これが渋沢が唱える「合本主義」です。

細かい理論化こそされていませんが、渋沢が500の企業の立ち上げに携わったと同時に、600もの社会事業に携わったのは、この理念からであり、彼は「実践」をもって「合本主義」を示したのだとも思います。その姿勢から私たちが学ぶべきことは多いと思います。

リーマンショック以降、暴走する資本主義に対して、「強欲資本主義」「株主至上主義」という言葉を使って、その問題点や矛盾を検証し、どのようにそこから脱していけるかという模索が世界中で始まっています。こんな今、日本の近代化の中で資本主義の暴走と真っ向から立ち向かった渋沢栄一と彼の理念「合本主義」から、今に活かす知恵を引き出すことは、現代に生きるわれわれにとって、大きな価値のあることではないでしょうか?

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