兼題:雑煮
2022年1月8日(土)放送
兼題:雑煮
▼兼題の季語「雑煮」の解説
正月三が日は、飯を炊かず、餅が主である汁物の雑煮を食べる風習が古くから全国に伝わっている。神仏に供え、一家そろって膳について食する、晴れの食物である。
▼選句ポイント
元日の朝の臨場感
「雑煮」という季語は、(当たり前のことですが)椀の中にあるお雑煮そのものを詠むことが多い。いかに美味しそうに、いかに香しく詠むか。
▼ギュッと!特選
鰹(かつお)節にほふ雑煮の朝にゐる 亀田かつおぶし
[解説]
新年の淑気(しゅくき)や朝日の晴れがましさを、雑煮の出汁をとる「鰹節」の匂いで表現している。前夜から準備して丁寧にとる鰹(かつお)出汁、上等な鰹をたっぷりと使った透きとおった金色の出汁。「雑煮の朝」は芳醇(ほうじゅん)な香りに満ちている。新年を迎えた晴れの日の思いが、「雑煮の朝にゐる」という率直な措辞で表現されている。
▼放送でご紹介した「秀作」
猫舌の子のお椀(わん)からつぐ雑煮 マレット
[解説]
母がでてくる句ですが「母」という単語はない。「猫舌の子」のお椀(わん)に先に雑煮をついでやる、読めばそれが母親だと分かる。ここまでくると「秀作」。
椀(わん)に入(い)る焼き餅じゅっと鳴く雑煮 梨西瓜
[解説]
無条件に美味しそう。「じゅっと鳴く」という比喩が成功している。
どんぶりでがっつく雑煮餅五つ 小藤たみよ
[解説]
「がっつく」という描写でどんぶり飯をかき込んでいるのかと思えば、「雑煮」だという意外性。さらに「五つ」という数の愉快が駄目押しのように重なる。ここまでの独自性と真実味が加わると「秀作」になる。
▼放送でご紹介した「佳作」
白味噌(みそ)の雑煮母の笑みほっと トーマス
[解説]
「白味噌」と具体的な味がでてきた。ただ「雑煮」から「母」を連想する句も多い。だから「佳作」どまり。
白味噌(みそ)に宗旨替えして雑煮かな ぶんぶん
[解説]
中七「宗旨替えして」によって、それまでは白味噌ではなかったことが分かる、そこに工夫がある。
じゃこ天と白菜の入(い)る雑煮かな たまもん
[解説]
具体的な中身をちゃんと書くだけでも、ささやかなオリジナリティを獲得できる。愛媛の南予あたりのお雑煮でしょうか。
新婚の弟嘆(なげ)く餡(あん)雑煮 とべのひさの
[解説]
これは香川の餡(あん)雑煮ですね。「新婚の弟」という状況をきちんと書いたことで、場面が生き生きと見えてくる。「嘆(なげ)く」と書かず、弟の表情や動作でそれを伝えられると、「秀作」へワンランクアップ。
雑煮餅ふくらむふくらむ人の声 美依珠
[解説]
雑煮餅が膨らむという句は、沢山あったのですが、「ふくらふくらむ」とリフレインして、下五を「人の声」とシンプルに書いたことで、ささやかな臨場感が生まれました。
▼「秀作への道」添削句から学ぼう!
まず人参(にんじん)の花びらを美(は)し雑煮 たま
[解説]
「人参」も冬の季語ですが、お雑煮の中には彩りとして入っているので、季重なりの心配はない。が、新年の季語「雑煮」を先にもってくると「人参」の主張を少し押さえることができる。
【添削例】雑煮美(は)しまず人参(にんじん)の花びらを
弱き歯の父に刻みし雑煮膳 加田紗智
[解説]
上五が不要。「雑煮」なので、喉に詰めないようにお餅を小さく切っているのではないかと推測する。ならば、そこも少しだけ具体的に。
【添削例】○○○○○父に刻める雑煮餅
「し」は過去の助動詞なので、今、刻んでいるのであれば「刻める」ですね。上五をどうすればよいか考えてみよう。
投稿時間:2022年01月08日 (土) 07時30分