兼題:雑煮「夏井いつきのアドバイス」
◆季重なり
御元日あん雑煮から焼きもちへ 妻丸うどん
雑煮たべ新たな年のはじめなり まさやん
雑煮食べおせち進まず悲しけれ すみれ
[解説]
一句に複数の季語が入った秀句も存在するが、最初は一句一季語からの練習。歳時記を開いて、どれが季語か確認してみよう。
◆兼題がない?!
根無草過ぎし日巡る三が日 深木正則
瀬戸貝の香りと新たな決心と あらたりあ
寝正月餅によく似たふくれ面 よし子
[解説]
兼題として提示された季語をそのまま詠み込むのが、たった一つのルール。
◆今月の添削
晴れの日の雑煮の中の静謐(せいひつ)や ピアニシモ
[解説]
やろうとしていることは良いと思う。惜しいのは「~の中の」がやや説明であること。さらに下五「~や」の詠嘆で終わるのは、落ち着きが悪くて難しい型になる。それらのマイナス点を解消すればよい句になる。
【添削例】晴れの日の雑煮や椀といふ静謐
雑煮好き餡(あん)が残りし鍋の底 戦後生まれZ
[解説]
「雑煮好き」という気持ちを書くよりは、眼前の光景を映像として描写しよう。例えばこんな感じ。
【添削例】餡(あん)雑煮の餡の残れる鍋の底
被災地の広場で頬張る雑煮かな シェル翁
[解説]
中七「頬張る」は言わずもがな。ここを推敲(すいこう)すると、「被災地の広場」でいただく「雑煮」の臨場感が増す。
【添削例】被災地の広場に熱き雑煮椀
◆佳作への道
お雑煮は故郷の味母の味 ふさ
一口で母思い出す雑煮餅 かざみどり
ぞうに見て亡き父母達と食べし頃 小松カヅ子
[解説]
新年の季語「雑煮」から「故郷」「母」「父」などを連想した句が多数投句されていた。その連想がダメというわけではないが、類想類句があまりにも沢山あるので自分自身の句だと胸を張りにくい。
「餅幾つ」雑煮調ふ母の声 良久
早朝の「雑煮何個」の母の声 長楽健司
[解説]
「雑煮」と「母」の光景をもう少し具体的に書いてみようと考えた句もあった。「調ふ」という母の動作、「早朝」という時間を書いているのはよいが、雑煮を作る場面を思うと「調ふ」「早朝」は想定内の言葉。しかも、下五「母の声」が全く同じなので類句の印象を拭うことはまだちょっと難しい。
餅何個三個にしてと雑煮椀 もふ美
何個食べる雑煮の朝の大家族 一美
[解説]
1句目は「餅何個」に対して「三個にして」と答えを書き込んだ。2句目は「大家族」という情報が入っている。「何個食べる」という質問に大家族のそれぞれが答えているのに違いない光景が浮かんでくる、ここまできて「佳作」。
とはいえ、雑煮の餅の数を聞くという発想の句もそれなりにある。この発想のライン上で独自性や真実味をどう加えていくかは、なかなかハードルが高そう。「餅を何個食べるか」という発想を捨てて新しいものを探すほうが、秀作への道は近くなりそうな気もする。
投稿時間:2022年01月08日 (土) 07時30分