兼題:鹿(しか)


2021年10月9日(土)放送

兼題:鹿(しか)

(動画の掲載は、放送日より2か月間です。)

 

▼兼題の季語「鹿」解説

「鹿」の交尾期は8月から10月頃まで。
牡鹿(おじか)が、牝鹿(めじか)を「ピュー」と呼ぶ高い声が哀切(あいせつ)で、「妻恋う鹿」という傍題もある。
花札でも紅葉と配されているが牝鹿(めじか)を恋う声を愛でて「秋の季語」とされている。
季語「鹿」の傍題は、「牡鹿」「牝鹿」「鹿の声」「鹿鳴く」「妻恋う鹿」「鹿の妻」「夜の鹿」「しし」「かのしし」「神鹿」など。

 

 

▼選句ポイント

「鹿」らしい特徴を観察&描写

 

 

▼ギュッと!特選

群れ鹿の眼(まなこ)あまさず吾(あ)を見たり    深山むらさき

[解説]
鹿一頭ではなく、鹿の群れを観察しての「一物仕立て」。
鹿が群で行動するのは外敵から身をまもるためで、危険を察知すると一斉に振り向く。その鹿たちの様子を「眼(まなこ)あまさず」と描写した点が秀逸。
「吾(あ)を見たり」と視線の集中するさまも、この下五で表現できている。 
「~まなこあまさずあを~」のあたりのア音の韻の響かせ方もうまい。一言一句、過不足のない作品。

 

 

▼放送でご紹介した「秀作」

ぽぷぷぷと糞(ふん)する鹿と目が合(お)うて    いさな歌鈴

[解説]
オノマトペに個性と真実味があり、糞(ふん)と目と、どちらもしっかりと観察している。

 

曉の霊気ふるはす神の鹿      佐川碧

[解説]
「神の鹿」は奈良・春日神社や広島・厳島神社で神の使いとして飼っておく鹿、これも季語。「曉の霊気ふるはす」が、いかにも神社らしい描写。

 

せんべいをせがみし鹿の息荒し   たむらせつこ

[解説]
煎餅と鹿のネタは山ほどあるが、「せがみし鹿の息荒し」という描写に臨場感がある。
鹿の腥(なまぐさ)い息が伝わってくる。

 

ぐずぐずと鹿引き返す谷の淵(ふち)   吉野川

[解説]
降りようとしてちょっと無理だと引き返す鹿の様子が、リアルに描写されている。

 

鹿の目の一点微(かす)か潮臭い   夢実

[解説]
「鹿の目」をクローズアップする句も多いが、下五「潮臭い」という嗅覚の展開がうまい。

 

▼放送でご紹介した「佳作」

光る眼(め)を上下させつつ鹿寄り来(く)   じゅん

[解説]
これは、ちゃんと鹿を観察しようとしている。
上五中七が観察の言葉。

 

煎餅とパンフレットは鹿が胃へ    狼α

[解説]
下五の描写が率直すぎるきらいはあるけど、句材として愉快。

 

山道は渋滞鹿の仁王立ち    まるこ

[解説]
鹿などの生き物が道を塞ぐという句はあるけど、下五「仁王立ち」がなんだか大げさで愉快。

 

曲がり角光る鹿の目クラクション   大薮ハナミズキ

[解説]
クラクションやヘッドライトに鹿の目が光る、という句もあるのだが、「曲がり角光る~」という展開に工夫がある。

 

宝殿に鹿の出迎え人まばら    ハナショウブ

[解説]
人気の少ない「宝殿」の様子が率直に描写できている。

 

 

▼放送でご紹介した「秀作への道」

<ポイント>表現を工夫しよう

山中に鹿の目黒く輝けり    卯夏野心(佳作)

[解説]
「佳作」にいただいた句。
丁寧に書こうとする姿勢はみえるが、描写の精度として物足りない部分がある。

 

角を研(と)ぐ目の漆黒に潤む鹿      ひでやん(秀作)

[解説]
「秀作」に推した句。
「佳作」は上五で「山中に」という場所から入るので、「鹿の目」のクローズアップがやや強引だが、「秀作」は「角を研(と)ぐ」という鹿の頭部から始まるので「目の漆黒」へのクローズアップが自然、画角の大きさも工夫のポイント。

 

目が合ってぱたりと止まる野鹿かな   田村 美帆(佳作)

[解説]
「佳作」にいただいた句。
鹿が危険を感じた時パッと止まってこちらを凝視する瞬間、そこに興味を持ったのはよい。ただ「~合って~止まる~かな」という叙述の時間軸がダラダラした感じになっている。

 

鹿の目に捉えられたるニ三秒    しみずこころ(秀作)

[解説]
こちらは「秀作」に推した句。
「鹿の目に捉えられたる」と非常にシンプルな描写だが、状況ははっきりと伝わる。
さらに「二三秒」と時間をはっきりと書くことでリアリティが増す。
時間の表現も工夫のポイント。

 

>>夏井いつきのアドバイス
>>秀作・佳作

 

投稿時間:2021年10月09日 (土) 07時30分


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