兼題:栗(くり)「夏井いつきのアドバイス」


●「俳号」について 夏井いつきからのお願い

①「似たような俳号」を使う人が増えています。
「俳号」は、自分の作品をマーキングするための印、せめて「俳号」に名字をつけていただけるとありがたい、共に気持ちよく学ぶための小さな心遣いです。

② 同一人物が「複数の俳号」を使って投句するのはご遠慮下さい。「いろんな俳号でいっぱい出せばどれか紹介されるだろう」という考え方は俳句には馴染みません。丁寧にコツコツと学んでまいりましょう。

 

 

◆「兼題」がない?!

どんぐりがでんぐりごろぐりクルクリ      余じい詐

[解説]
兼題として提示された季語はそのまま詠み込むのが、たった一つのルール。「どんぐり」と「栗」は別物。

 

あの日から君を忘れぬ紋舞(もんぶ)らん  一平

[解説]
この句は「栗」のことを詠んだのだろうと推測はできるが、「紋舞らん=栗」とするのは少々乱暴。やはり「栗」という季語をしっかり入れよう。

 

 

◆季重なり

おはやしと甘栗こいし阿波おどり      田村美帆

[解説]
「甘栗」という言葉は入っているが、この句の主役は「阿波おどり」だと言わざるを得ない。


◆季語深耕

切り倒し栗の大木凛として朽(く)ちず    ひよとり2

[解説]
切り倒してしまった栗の木が季語として機能するか、そこはちょっと無理がある。そもそも木の類は、「栗」「桃」「梨」「林檎(りんご)」は「秋の季語」で、「栗の花」「梨の花」「桃の花」「林檎の花」となれば、別の季節の季語となる。木そのものが季語となっているものは少ない。

 

栗一輪飾る心に利休知る   宮マサ

[解説]
「栗の花」は「夏の季語」だが、「栗一輪」という表現には無理がある。なぜなら、栗の花の形状において「一輪」とはどの部分だろう、と迷ってしまう。

 

フワフワと栗の花舞う祖父の庭    霜月なな

[解説]
「祖父の家の庭に栗の木がありました。猫のしっぽのようなフワフワした栗の花が思い出に残っています」とのコメントも添えられているように、「栗の花」は房のような形をしている。

 

勝ち栗に託す思いはサクラサク          五十展伝
勝栗に想ひ届けよ猛虎軍               六甲颪
三方(さんぼう)に飾る勝栗歯がたたず   入れ歯の敏ちゃん

[解説]
「わが家では、正月用のお三方に縁起物の搗栗(かちぐり)などをお供えして新年を迎えているが、今年も例年どおり三方に残るのは硬い搗栗だけである」とのコメントも添えられていたが「搗栗」「勝栗」はお正月の縁起物。「秋の季語」としては「搗栗作る」、新年の季語としては「搗栗飾る」と歳時記では区別されている。

 

 

◆佳作への道

青栗や子の時ほどは痛くなく     水牛庵乱紛

[解説]
「痛くなく」とあるので、青い毬(いが)栗のことを指しているのではないかと推測。ならば上五は毬であることをしっかり書いたほうがいい。

【添削例】毬栗の青し○○○○○○○○○

句またがりの型になる。残りの音数を工夫してみよう。

 

長靴で栗のイガ踏む残酷さ       ドキドク

[解説]
下五「残酷さ」がちょっと言い過ぎているかなあ。

【添削例】○○○○や長靴で踏む栗の毬(いが)

上五は様々な展開ができるので工夫してみよう。

 

 

◆今月のユニー句
焼き栗の袋手作りパリ薄暮       碧

[解説]
兼題「栗」は、いかにも日本の里山らしい光景が浮かぶが、その一方で「栗→焼き栗→パリ・フランス」と連想をつないでいった句もあった。


街角で愛と栗売るIci C'Est Paris   坐花酔月

[解説]
「Ici C'Est Paris(イ・シセ・パリ)」は『ここがパリだ』という意味。サッカーのメッシ選手が移籍したパリっ子が大好きなサッカーチーム「パリ・サンジェルマン」のチームスローガンです!」とのコメント。「愛と栗」を売るというのがフランスっぽい選択。

 

ル・モンドに極右躍進栗熱し         巴里乃嬬

[解説]
「フランスは、焼き栗を新聞紙に包んでくれることが多いです。ル・モンドは新聞の名前。ここ何年か極右政党の躍進があります。その記事が載っている新聞に包まれた熱い栗、ちょっと複雑です」とのコメント。「ル・モンド」の記事の見出しをそのまま「極右躍進」と具体的に書いて下五「栗熱し」と着地することでちゃんと「栗」という季語が主役になっている。

 

 

◆今月の添削

絵手紙の栗艶やかにどっしりと      房総たまちゃん     

[解説]
絵手紙などに描かれた季語は、季語としての力がどうしても弱くなる。が、目の前にある栗を描写することもできなくはない。

【添削例】絵手紙に描かん栗のこの艶を

 

柴栗の捨て置かれたり限界の里   さと

[解説]
「限界の里」という表現が気になる。「限界集落」という用語をそのまま使ったほうが誤読が防げるかと。上五に字余りで置いてみると

【添削例】限界集落しば栗の捨て置かれたり

 

栗蹴りし闇の真中を破いたる     まるかじり

[解説]
「し」は過去の助動詞「き」の連体形。今、蹴っているのだろうと思うのでそこを微調整してみよう。

【添削例】栗蹴って闇の真中を破いたる

 

ゆで栗の皮かたし歯で噛んで     猫雪すあま

[解説]
調べか滞っていることと、助詞「で」が散文的なこと、この二点を解消しよう。

【添削例】ゆで栗の皮のかたしや歯もて噛む

 

保護猫と暮らす日々かな栗ご飯   月ぼんぼん

[解説]
「暮らす」とあれば「日々」は不要かも。さらに中七「かな」という詠嘆が中途半端なのも気になる。それらの音数を季語「栗ご飯」の描写に使ってみよう。

【添削例】保護猫と暮らす栗ご飯のほくほく

サクッと割りて食らう栗甘し     青トマト

[解説]
「いつも旦那と二つに切ってからスプーンで食べます。すぐ無くなっちゃいますけど」とのコメント。ならば「夫」という言葉も入れたほうが夫婦円満にもよいのでは♪

【添削例】サクッと割り夫と分け合う栗甘し

 

訪ね来し廃村寂しき栗の青       あぽろ

[解説]
「久しぶりに廃村になった集落に尋ねると村人は居なくなっても、庭の栗は青々とした
いがを出している」とのコメント。俳句は短いので「訪ね来し」から書き始めると音数が窮屈になる。上五を外してゆっくりとした調べを作ろう。

【添削例】廃村や寂しき毬栗の青は

 

青き栗実れと願う吾子(あこ)重ね       酔蓮

[解説]
「青き栗実れ」と命令形になっているので「~と願う」が不要。「吾子」が何歳ぐらいなのかが分かると、さらにイメージしやすくなる。例えば…

【添削例】十日目の赤子よ青き栗実れ

【添削例】青き栗実れ明日より十五歳

こんな具合に「数詞」を入れるだけでも色々できる。

 

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>>秀作・佳作

 

投稿時間:2021年09月11日 (土) 07時30分


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