兼題:新茶


2021年6月12日(土)放送

兼題:新茶

 

▼作句ポイント

新茶の「新」をどう表現するか

「新茶」の「新」には「今年初めて」という「喜び」がある。それを表現する工夫がどこにあるのか、俳句にどれくらい機能しているか。

 

 

▼ギュッと!特選

新茶汲(く)む大師の水は涸(か)れ知らず  まっことマンデー

[解説]
季語「新茶」を表す工夫として「ありがたさ」や「豊かさ」などのキーワードがあり、この句はそれらを中七下五「~水は涸れ知らず」という表現に重ねている。
「豊かな水、ありがたい水で淹(い)れたこの新茶の美味しさ」という意味ですね。
さらに「大師の水」とすることで、弘法大師(空海)の言い伝えが重なる。
弘法大師が杖をトンと突いたその場所から水が湧き出すという言い伝えは各地にあり、四国という土地への思いも見事に表現できた作品。

 

 

▼入選

金文字の明るき新茶買いにけり   おきいふ

[解説]
目をひく「金」の一字、「明るき」というイメージによって「新」の喜びが工夫できていて「新茶」を待っていた気分が読み取れる。

 

茶筒へと移す新茶の山ゆたか       高橋寅次

[解説]
茶葉を茶筒に移しているだけの句ですが「山」という形、「ゆたか」のイメージが「新茶」を喜ぶ気持ちが表れている。

 

湯を冷ます豊かな時間新茶汲(く)む    西村小市

[解説]
同じく「豊か」、こちらは「豊かな時間」という表現もさることながら「湯を冷ます」という行為がまさに「新茶」を美味しくいただくための具体的な方法。そこにリアリティもある。

 

錫茶箕(すずちゃき)に新茶ひかりて給湯室  ペトロア

[解説]
これもオフィスの光景だと思いますが「給湯室」という言葉の使い方がうまいですね。
さらに「錫茶箕」を使って丁寧に入れていること、「ひかりて」という言葉の明るさに工夫がある。

 

新茶甘しぬるきを淹(い)れて今朝晴れて  かむろ坂喜奈子

[解説]
「甘し」という味、「ぬるき」というリアルな温度、「今朝晴れて」という明るさ。
言葉の選択に工夫がある。

 

新茶ぐいっ現在進行形に生きる      松本 だりあ

[解説]
「新茶」に対して普通「ぐいっ」という表現はしないのですが、中七下五の前向きな姿勢、自分を励ます力として「新茶」が描かれている点がユニークで発想が明るい。こんな「新茶」の描き方もあってよいですね。

 

 

▼夏井いつきの「秀作への道!」
お茶は最後の一滴に旨みや甘みが凝縮されているそうで「ゴールデンドロップ」、「ベストドロップ」とも呼ばれている。新茶の最後の1滴ともなれば希少価値、その「ゴールデンドロップ」に注目した俳句がこちら!

<ゴールデンドロップを詠んだ句>

最後まで急須をふって新茶かな       ⑦パパ(佳作)

注ぎ分ける新茶のしずく最後まで      KANNA(佳作)

[解説]

佳作の2句はどちらも同じ場面を描こうとしている。上五あるいは下五の「最後まで」が同じ言葉。では秀作に推した俳句と比較してみよう。

 

新茶くむ一滴のとろりと眩(まぶ)し    一斤染乃(秀作)

[解説]
十七音すべてを使って新茶のゴールデンドロップを描いている。「一滴」にクローズアップし、さらに「とろりと眩し」と描写。いかにも「新茶」らしい豊かな一滴を表現している見事な一物仕立ての作品。

 

膝正し新茶の雫(しずく)汲(く)みわけり 井納蒼求(秀作)

[解説]
同じ場面を詠んでいるにも関わらず、井納さんの句には「膝正し」という新しい情報が入っている。どういうことかというと、佳作二句が十七音使って書いた内容を、この句は中七下五の十二音で表現できているから、「5音分の余裕」が生まれているわけ。下五「汲みわけり」で、複数の茶器に注ぎ分けている様子が描けていますものね。
「いくつかの湯呑みに分けるとなると、均等に分けるために自然と膝も正しくなります。」と井納蒼求さん、「膝を正して」という表現に「新茶」への思いを込めた。

 

 

▼放送でご紹介した俳句

新茶だよ微笑(ほほえ)む妻に手を合掌(あわ)す   ウチノ太郎

[解説]
「ありがたいと合掌する」というところに「新茶」への思いを託したのだと思いますが「合掌」といえば「手」、情報が重なっている。

 

来客に惜しげも披露する新茶        鍋蓋

[解説]
中七に工夫の跡はみえるのですが「惜しげもなく」と言いたいのか、「惜しげに」と言いたいのか分かりにくい。

 

新茶の茶葉の香り夏近し    ツークン☆

[解説]
季重なり。ツークン☆からは「文明には負けません」とのコメントもありましたが、これでは充分負けていますよ。

 

母偲(しの)び新茶供えて語りかけ      如月

[解説]
新茶が好きだった母にしみじみと……という気持ちは分かるのですが、「偲び」「供え」「語りかけ」あたりの情報が重なっている。

 

虎勝利和菓子奢(おご)りて飲む新茶  六甲颪

[解説]
「奢りて」に工夫の跡は見えますが、こんな句を作っていては阪神は負けてしまいますよ。

 

オフィスで買った新茶出番なく      霧晴子

[解説]
「オフィス」という場所での「新茶」という展開はよいのですが、「出番なく」で終わっては季語「新茶」は主役になれないので、もう一工夫。

 

>>夏井いつきのアドバイス
>>秀作・佳作

 

投稿時間:2021年06月12日 (土) 07時30分


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