山下和美

完全版2本目は、山下和美が登場。
「天才柳沢教授の生活」「不思議な少年」などを生み、独特な作風が長く支持される女性漫画家。漫画ファンからも謎のヴェールに包まれていた山下の現場へ、3日間に渡り潜入する。山下にとってまったく初めての技法に挑んだ作画作業を撮影。1ページを生み出すために全身全霊で苦闘する、息詰まる映像を届ける。さらに今回の新たな撮影では、いまだ悩み続け、白い紙から新しいものを生み出そうと格闘する姿が紹介される。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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人物を描く 柔らかいタッチ

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壮絶な挑戦「悪夢感」を出したい

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[NEW]大胆な構図で 感情を伝える

山下和美×浦沢直樹

(山下さんの絵は)このペンタッチなんですよね。スーッと二重線が入る感じ。そんなに力んでいないんですよ。そんなに力まないで大丈夫か?というくらいのタッチですよね。(浦沢)
たぶん、少女漫画でずっと描いてきた、80年代のタッチだと思います。フワッとした感じの。あの頃の系統です。(山下)
グイッと一本線じゃなく、わりと集合線なんですよね。(浦沢)
そうですね。(山下)

(資料写真を)見ることもあるんですけれど、想像して描くことが多いですね。(山下)
スポーツのシーンなんかでも、写真をそのまま描くとわりとこじんまりしちゃう。(浦沢)
やっぱり、一回、その人の絵にしてみる。(山下)
写実になり過ぎると、その漫画家さんの絵じゃなくてもいいってなっちゃうんですよね。(浦沢)

難しいんですよ、このコマ。背広を羽織るみたいに、毛皮を羽織るんですけど、あり得ないことなので。(山下)
痛いほど気持ちがわかりますよ。柔道漫画とか描いていると、すごくこういうことがある。大変なんですよ。下書きで迷った時の原稿は、真っ黒になりますよね。(浦沢)
なります。(山下)
永遠にきっと獲得できないんじゃないか、というときありますよね。(浦沢)

最近になって、確かに少女漫画じゃだめだったなって、よくわかるっていうか。恋愛モノのワクワク感を出すのが、いまいち下手だったんですよ。(山下)
照れもあったんじゃないですか?(浦沢)
そう。すごくありましたね。(山下)
青年誌に移行するときは、どうだったんですか?(浦沢)
あまり意識はなかったんですよね。今まで通りのつもりでやっていた。たぶん、合っていたんだと思います。(山下)

(和紙に描くチャレンジが始まって)試行錯誤だ。この時点で着地は見えているんですか?(浦沢)
見えていないです。(山下)
でも、本来この自由さがあってしかるべきですよね、漫画って。
そういうところがあるんですよ、山下さんの漫画には。ちょっとした感じのところで、定石を打ち破る。(浦沢)
人生行き当たりばったりなんで。(山下)

やるたびに白紙じゃないですか。今度こそこれを埋められないんじゃないかという恐怖感(がある)。(浦沢)
だから私、この家を建てたのかもしれない。(山下)
しょいこむってこと?(浦沢)
そう。ローンを払えなくなっちゃうっていうギリギリに立たないと、もう新しいものを作れないなって。(山下)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

浦沢見ていてすごく不思議な感じがしたのは、「そんな頼りない線で大丈夫かなあ」って思っていると、仕上がりには山下さんの絵になっているんですね。 山下あっ、そうですか。 浦沢ふにゃふにゃふにゃふにゃって、模索をしていながら、最終的に着地するのはちゃんと、いつものあの線になっているっていうのはすごいなと。 山下脇道すごいですからね、うーんって。「どうしよう、どうしよう」って言うので。 浦沢今、山下さんは、何も見ないで描いていますけど、最近の若い漫画家さんたちだったら、猪の資料をばっちり見ながらだと思う。この、見ないですいすいと行く感じっていうのは、皆さん刺激になると思う。 山下結構好きなんですよ、こういう感じで描くのが。

浦沢こういう難しいのをやるときって、必ず薄目で描きますよね。半眼で描きますよね。 山下見ているときも、薄目になっちゃう。 浦沢これ不思議ですよね。はっきりものを見ないっていう感じがあるみたいですけどね。はっきりものを見ないようにすると、イメージが見えてくる。いろんなことをはっきり見ちゃうと、余計見えなくなっちゃう。 山下そうか。無意識にやっていました。 浦沢ずっと薄目にしつづけて、眉間が凝っちゃうときがあります。 山下あります、あります。

浦沢読者は、いつでも離れたがっている感じがするの。僕はね。なぜなら、最終的に読者に委ねられているから、雑誌を読み出して、僕のページをパラッてやられちゃったらもう終わりなんです。それを読み続けてくれるかどうかっていうのは、とてもはかない関係性という感じがするんですよ。一方的なラブレターみたいなもんでさ。 山下そうなんですよ。それが少女漫画ではなかなかうまくできなくて。それを青年誌で今やっているっていう感じ。

浦沢30年以上やって、どうですか、漫画は。 山下漫画、いや、まだまだわかんないですね。まだまだこれから暗中模索で、その先どうなるのかわかんないなっていう。なんとなく泳いでいる感じ。綱渡りでも、終わると忘れるタイプなので続いているのかな。 浦沢そう。前に描いたことは本当に忘れていかないとね。明らかに読者のほうがちゃんと読んでいますよね。僕らは描いたらそれっきり、もうその作品には触れないじゃないですか。一生懸命ネーム描いて、作画して、1週間とかの時間をかけて1本仕上げるんだけど、完成したらそこからはもうノータッチ。 山下そうそう。読者からあそこが違うって指摘を受けたりしますよね。

浦沢ここまで格闘して、描いているんだっていうことは、絶対に伝わりますよ。 山下そうですか。 浦沢何がベストなのかっていう格闘。 山下もう、ずっとその闘いですよね。 浦沢白い紙から出てくるものだから、可能性は無限で、全部それの最終決断は、我々に委ねられている。どこで決断するか、その成果を見てもらうってことですからね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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