山本直樹

青年漫画の第一人者「山本直樹(57)」が登場。84年、「私の青空」でデビュー。ストーリー性のある青年漫画を描く一方で、大胆な性描写の成人向け漫画も話題に。91年発表「BLUE」では、その過激な描写が論争となるが、その後も作風は変わらず、95年発表「ありがとう」では「家族とは何か」を問いかけたテーマ性も高く評価される。「あさってDANCE」「君といつまでも」「ありがとう」など多くの作品が映画化されている。2006年、連合赤軍事件を題材にした「レッド」の連載開始。10年には、第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。今回、20年来フルデジタルで描いているという執筆の現場に密着した。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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女性の表情 デジタルの強みを生かす

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キスシーン エロスの立ち上げ方

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山越え 極限状況を描く(番組未公開)

山本直樹×浦沢直樹

バッと描くんだけど、だいたいバランスが狂っているから、福笑いなんですよ、僕の漫画は。(山本)
福笑いだ。(浦沢)
とりあえず描いて、その後、目分量でちょっと上だなとか、下だなとか。(山本)
ペン入れすると、間違いに気づくっていうのがあるんですよね。(浦沢)
ペン入れした後で、「あ、違う」。(山本)
「あ、違う」ってなると、ずらしたくなる。(浦沢)
とりあえずやってみて、ダメだったら消してって。(山本)

(目や鼻の線を)途切れさせている。途切れさせることで、絵がふうって軽くなりますからね。(浦沢)
デジタルで描くことの良いところは、いくらでも消せるんですよね。引き算ができる。引き算失敗したら、それもまたやり直せばいい。消すのが楽しい。(山本)
僕なんか恐怖なのは、やり直しがきくと、あきらめがつかなくなっちゃうんじゃないかなって。(浦沢)
それはあります。だから最初のころって、もう画面が真っ黒になっちゃう。それで、「ここで終わんなきゃ」みたいなのを、ちょっとずつ学習する。(山本)
引き算的な考え方をする。(浦沢)
引き算ですね。引き算が楽しい。(山本)

古いソフトで、ペンタッチも出ない設定にしているんですよ。(山本)
そうそう。結局、ペンタッチを出ないようにしたいんだろうなと思って。(浦沢)
少女漫画とか大好きだったので、「細くて硬い線」がもともと好きだったから、これでいいやと思って。少年漫画の影響、ないんですよね。(山本)
山本さんの場合、描いているのが肉感的なものが多いから、そこに一個、無味乾燥なものを入れることで、バランスを取っているように見える。(浦沢)
どちらが先かは、わからないですけどね。そういう線で描くので、そういう設計になったというのもあるかもしれない。(山本)
「この線だったら、何でもいける」みたいなのも、あるかもしれないね。(浦沢)

(仲間同士が殺し合う『レッド』を描くことは)大変な作業だろうなと思いますよ。精神力が持つかなって。僕なんか割と辛くなっちゃうんですよ。山本さんの場合、そこの距離感が、すっとクールに突き放している。(浦沢)
『レッド』は特に、思想にのめり込んでいる人たちを、わりと「俯瞰」で描けたら、みたいなのがある。(山本)
本当に何が正しいんだか、一切表明せずに、事柄だけをずーっと淡々と描いているのは、やっぱりすごい手法だと思いますよ。(浦沢)
悪党にしたくなかったし、英雄にもしたくなかった。(山本)
それに、感情のこもらない均一な線が、生きているんじゃないかと思う。割と無機質な線の描写。だから、ものすごいエロスの世界を描いていても、ちょっとだけ離れて見ているみたいな、クールさがある。(浦沢)
もともと、そういうたちなのかもね。(山本)

手が肩に触れている所の線を、消しゴムでさっと消す。あれやると、どれくらい手が密着しているかが表現できる。(浦沢)
触っているところは、なるべく線を消したほうが、“肉”っていう感じがするので、どんどん描いた後に消していく。(山本)
(キスで)舌と舌の触れているところも、抜いているんですよね。(浦沢)
そうそう。接しているところは抜いていきます。(山本)
そこの一体感なんですよね。(浦沢)

漫画って、「激情的にガーッと描く」ことで、アピールするところがあるけど、それを全部引っ込めていく。その淡々とした感じが、逆に演出になるんだと。(山本さんの執筆は)すごく色々な意味で逆説的な感じがしますよね。(浦沢)
そうかもしれないですね。(山本)
まともに激しいときに、「激しい」って表現するなんて嫌だ。(浦沢)
なんか照れくさくなっちゃう。そういう人がいてもいいじゃないですか、みたいな感じ。(山本)
そういうところが、とてもよくわかる。(浦沢)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

山本一応、描いたところを消すことで、ペンタッチは出ているんですけど、「ペンです」っていう美しさみたいなのは「もういいや、俺は」って。つけペンって結局難しくて、慣れなかった。 浦沢難しいですよね。これだっていうペンに出合った試しがないもん。「描きやすい、これがいい!」って思ったことがないんですよ。だからきっと難しいんですよ。 山本難しい画材なんですよね。(つけペンは)スッて描く瞬間が勝負みたいなところあるじゃないですか。 浦沢それを使いこなせないと、勝負にならないっていう世界があるから、(山本さんは)とりあえずもう回避しちゃおうと。 山本僕は、漫画を描き始めたのが遅かったんですね。大学2年の頃に描こうと思って始めたから。中学の頃から漫画を描いている人には、そういうものは絶対にかなわない。だから、「これでいいや」と思って。授業中、シャーペンで落書きしている感覚で、「楽しいや」って。

山本人を使うのは、まあ一番速いんだけど、人を雇うのは、僕はもういいかなと思ったので(一人で描いている)。 浦沢なんていうのかな、絵ってとっても面倒くさいじゃない。 山本面倒くさい。漫画は面倒くさい。 浦沢早く完成を見たい人と、ずっとペンでいじくっていたい人で、大別されるような気がするんですよ。 山本ああ。僕はねえ、エッチな漫画は、ずっとやっていたい。 浦沢ずっとかあ。はいはい。 山本『レッド』は、早く完成させたい。 浦沢ああ、そんなにもう、作品によって態勢が変わる。

浦沢山本さんと言えば『BLUE』。だから『レッド』が始まったときに、「おしゃれだな」って思ったけどね。 山本いやいや。前に『BLUE』を描いたから、今度は『レッド』にするか。赤軍だし。それはちょっと思いつきました。 浦沢バンドやったり音楽をやると、歌詞に触れたりすることで、キャッチコピー感みたいなのが身につく。そういうのに、山本さんはすごく鋭いですよね。タイトルのつけ方とか。 山本音楽から教わったものはいっぱいありますから。言葉も教わっているし、我々フォーク世代は。 浦沢そうそう。 山本言葉ってこんなにかっこよくなるんだ、みたいなのは、音楽から教わってますよね。 浦沢70年代、80年代の「かっこいい」って、やっぱり刷り込まれている。 山本そこら辺から始まっていますからね。

浦沢あとは、ポーンとほったらかしで終わるような、山本さんの短編とか。 山本ああ。そういうのを描くのが好きですね。 浦沢あの「ほったらかし感」みたいなのもなんかすごく分かる。ちょうど僕らが思春期の頃、そういうのによくぶちあたった。 山本映画とか小説もそういうのがかっこよかったりして。 浦沢最近、本当に「整合性をもって、きっちり終わらないと」みたいなのがあって。でももっと、ふわーって終わるかっこよさもある。 山本投げ出すみたいなのも、かっこいいのにね。

浦沢省力化してやりたい部分と、きちんと描きたい部分は、どういうバランスなんですかね。 山本エロくないところはなるべく急いで描きたい。エロいところは一生懸命描きたい。シンプルです。 浦沢シンプルにそういう話なのね。じゃあ『レッド』はつらいですね。 山本半分修行みたいなものですから。だから、出向感覚ですね。本業はエロなんだけど、ちょっと出向して、人生1回ぐらい、こういうことをやってみようと思った。 浦沢でも、何事も徹底的に描いてみようというところに関しては、すごく通じるものがあるんじゃないですか。 山本自分で「描く」って決めちゃったからね。やるべきことだなと思ったからやっているわけで。それにしても、ちょっと10年は長かった気がするけど。

浦沢均一なペンタッチとか、白と黒だけの世界とか、シンプル化を図ることで立ち上がるものがある。なんかすごく逆説的な感じがしますよね。僕も同じ時代で育っているからわかるけど、皮肉屋さんなんだな。 山本そうかもしれないですね。 浦沢うん。それで「面倒くさい、面倒くさい」って言いながら描いているでしょ。面倒くさいんだったら描かないはずじゃない。で、「修行だよ」って言ってるわけでしょう。すごくアイロニカルな感じがする。 山本そうですね。漫画は大変だよな。 浦沢特に、80年代90年代、連載みたいな形で過ごしてきた者同士としては。 山本あの頃に比べれば、今はパラダイスですね。死ぬかと思ったもんね。 浦沢そうですね。文字どおり、「よく生き残ったな」っていう感じがしますよね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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