浦沢直樹

漫勉初!いよいよ浦沢直樹が登場する!
2008年から連載してきた時空を超えたSF大作「BILLY BAT」が、今年の秋、最終回を迎える。なんとその最終回の執筆作業に、10日間にわたり完全密着!現代の漫画家の最高峰のペン先映像を記録した。今回は、浦沢直樹が、自身のペン先映像を観ながら、独自の視点で解説。浦沢自身も今まで気づかなかった漫画家「浦沢直樹」の秘密に迫る!

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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淡々と そして慎重に表情をつかまえる

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8年間の連載を締めくくるコマ(番組未公開)

浦沢直樹×浦沢直樹

普段のお絵描き。もう“清書”って思った段階でダメなんですよ。「いつものお絵描き」というふうにしていかないと、「ここ一発いい顔を描くぞ」なんて思った瞬間に“清書”になっちゃう。大体ダメですよね、そうすると。(浦沢)

結局、頭の中でイメージしていることをここに描くって、ほぼ奇跡なんですよ。技術じゃないような感じがする。メソッドがないから。奇跡が起きるのを待っているんですよね。「これはあの時にしか、できあがらなかった絵だ」っていつも思うんですよ。きっと翌日描いたら、全然違う絵になっているだろうしね。(浦沢)

新人のときに「あまり顔漫画にするな」って言われて、「はい」とか言っていたんですけど、なんで顔漫画を描いちゃいけないんだろうなっていうのをずっと思っていたんですよ。すべての局面において、表情が刻々と変わるものは顔漫画ではないのではないか。漫画ってその演技を描くものなのではないかなと思って。僕はわりと、顔で演技をし続けるという表現をしています。(浦沢)

(物語は)ゼロから積み上げるんじゃないです。7とか8とか、10のところを想像して、「一体どうしてそうなるんだろう」と想像する。ゼロから積み上げていくと、安定した積み木の積み上げ方になる(が、面白味がなくなる)。最初にドンとあると、すごくいびつな(面白い)ものが作れる。(浦沢)

「一見さん」でその連載に入ってこられたお客さんが見たときに、今週の(ストーリーに出ている登場人物の)誰かの感情みたいなものはわかるように心がけている。この人の気持ち、今週読んだだけでもわかるって、すごく重要なことだと思うんですよね。日本漫画は、連載というかたちを取ったからこそ、ここまで隆盛してきたので。「こうやったら読者にうけたぞ、じゃあこういうのはどう?」って。読者の人たちに、連載に参加してきてほしいんですよね。(浦沢)

僕が描いたものを、誰かが読んで「面白い」って言ってくれることが、奇跡のような話なので。何人か、面白いと言ってくれる人がいるうちは、それは僕に課せられた天職として、やらなきゃいけないことなのかもしれないですよね。(浦沢)

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自身の作画と向き合った「ひとり漫勉」。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

浦沢(日本の漫画がコマを積み上げる文化であることについて)
まずは「連載の1回1回で多くの情報を伝えたい」と思っていたんじゃないかな。ページの中に相当な情報量を入れていく。そこに、日本漫画が本来持っていた良さみたいなものがある気がする。単行本で読む、漫画喫茶で全20巻を読み倒すっていう文化じゃなかったので。雑誌1冊を買って読んで「次回はどうなるんだろう」って1週間とか1カ月とかを過ごす。そのための具材をお届けしなければいけないので、なるべくそこにたくさんの情報入れるよう心がけていたんじゃないかな。

浦沢いい下描きをアシスタントに渡すとき、「本当は自分で描きたい」って思いますよね。どうしても時間の問題で渡さなきゃいけないときがあるけど、基本はもう全部、1人でやりたい。ただ、1人でしておられた漫画家さんは、かなり若くして亡くなられている方が多い。背景まですべて自分でやるのは、相当な体力を奪うんだろうなと思います。

浦沢(ネーム作業は)作業の前の日に、とりあえず取っかかりを1ページでも2ページでも描いておく。そうすると翌日、それに対する回答として何かが出てくる。前日に描いた1ページ、2ページがダメだったらやり直しだし、よかったら次に行くし。ここ10年ぐらいずっとそうですね。とりあえず何ページか、描いておく。

(ネームで表情をちゃんと描いていることについて)
ネームは一般公開をしないじゃないですか。(編集者以外)誰も見ないけど、やっぱりこれは自分の楽しみで描いているんだよね。なんやかんや言って、遊びから始まったことですからね、漫画を描くって。それをなくして「仕事」にしちゃうと、やっぱり「仕事」って思っただけでしんどいもんね。「これは遊びなんだ」って思うからこそやっているわけで、なるべく仕事然としないようにする。

浦沢(『BILLY BAT』は)20巻ぐらいで収まればいいなと思っていた。僕の中で長い作品って、子どもの頃からの刷り込みで、『あしたのジョー』の20巻なんですよ。あれが自分の中で最長不倒。だから長い作品は20巻っていう感覚があるんです。『巨人の星』が19巻で、『あしたのジョー』が20巻っていう、それが僕らの時代の長いドラマの定番だったんですね。

浦沢思いついた面白いものとか、いい絵だとか、そういうもので表現する能力がもし自分にあって、それを駆使して人々をはっとさせたり、気持ちを揺さぶったりすることができるのであれば、やってみたいなって思っているだけなんじゃないかな。あとは、いい絵が描けると気持ちよくなったりとか、いいネームが描けたときに自分ですごく心が高鳴ったりすることがあるからっていう、ただそれだけでしょうね。シンプルですね、まったくもって。

浦沢(8年間の連載が終わっても)やっぱり爽快感はないよね。爽快感がないのはなぜなのかというと、やっぱり次を描こうということだからでしょうかね。課題はまだ積み残したままだとか、もっと何かやれたはずだとか、そういうものが渦巻いているんでしょう。だから、「さあ次に行こう」って言っているんでしょうね。基本、定年なんてものがない世界ですから。あと引退なんてこともない世界なんじゃないかなと思う。「浦沢の漫画がまだ見たい」って言っている人がいるんだったら、「それじゃあ描きましょうか」という感じが続くんじゃないですかね。ボブ・ディランさんも言っていましたよ、「自分の歌を聴きたいっていう人が世界のどこかにいるんだったら、ギターとアンプ背負ってどこへでも行くよ」って。だからお客さんがいる限りは描くんじゃないですかね。「もういいわ」って言われるまでね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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