三宅乱丈

想像力あふれる個性的な作風で、熱い注目を集めてきた「三宅乱丈(50)」が登場!
1998年デビュー。99年にはギャグ漫画「ぶっせん」が話題に。その後、SFアクションギャグから、超能力をテーマにした骨太ストーリ漫画まで、多彩な作風に挑戦。今回は、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したSFファンタジーの大作「イムリ」の執筆現場に密着。丁寧な下書きから生みだされる驚きのペン入れや、絵に感情を宿すために、何度も繰り返される鬼気迫る執筆に迫る。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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父と娘の再会シーン 思いを手に込めたい

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再会の涙 あふれる感情を描く(番組未公開)

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演説 ファンタジーの要素を詰め込む(番組未公開)

三宅乱丈×浦沢直樹

これだよ。この剛胆な入れ方。めっちゃ速いじゃないですか。これまた日本漫画界、ペン先スピード女王が出たんじゃないですか。(浦沢)
え? そうですか?(三宅)
下描きの線を、「なぞるまい」としている感じがする。どうしてもそういう「なぞった線」になっちゃうと、絵が死んじゃうじゃないですか。(浦沢)
なんか気持ち悪い絵になるんですよね。「命令されて描いた」みたいな絵。(三宅)
ほら、速い、速い、速い、速いですよ。やっぱり、このスピードで「魂を入れる」って感じですね。(浦沢)

これ。ホワイト削り出し。平気で消しちゃいけない線を消すじゃない。あ、ほら、消しちゃった。(浦沢)
ああ、そうそう。消す。(三宅)
「ああ……」って思ったら、その後、カッターで削り出すでしょう。(浦沢)
私、全然ホワイトをうまく使えないから、いつも最後、カッターで掘り起こして。雪国の知恵でしょうかね、雪の中からキャベツとか掘りおこすみたいな。(三宅)
掘り起こす感じ? 雪かき理論ね。勇気を持てますよね。「失敗したらいけない」とかって、おずおず描いているんじゃなくて、こんな感じでリカバーできるんだよっていう。(浦沢)

(『イムリ』の、字がびっしりの設定書を見て)
うわっ、すっげ。こんなにちゃんと作っているんですね。(浦沢)
なんかもう、楽しくてやっちゃっている。(三宅)
でも、これが楽しいんですね。だって誰に見せるわけでもないんだもんね。(浦沢)
楽しくて描いているだけ。色まで塗って。誰も見ないのに。(三宅)
設定しなくちゃじゃなくて、設定したい。(浦沢)
そうです。もし、漫画という仕事がなかったら、私、相当やばい人ですよ。よかったです、漫画家になれて。(三宅)
これをアウトプットするという仕事に就けた!っていう感じがしますね。(浦沢)

男の人のデッサン、異様にうまいと思うんですよ。しっかり描かれている感じがあって。「ここはしっかり描きたい」みたいな所はあるんですか?(浦沢)
フェチ部分ですよね。昔は上腕二頭筋でしたけど、今はどこなんだろう……。「実物と合っていなくてもいいや」と思うようになりました。デッサン取れていないんだけど、「迫力出すのを優先」って感じ。今も肩が好きかな、やっぱり。(三宅)
肩、上手ですよ、本当に思う。(浦沢)
うれしい。っていうか、バレているんだね、やっぱり。(三宅)
こだわっていたり、「うまいな」って思うところは、描いている人が一番グッときているところだと思うんですよね。(浦沢)

(何度も修正したコマを、別の紙に描き直し始めて)
まだ時間があったらこうなっちゃいますよね。呪われているから、紙を変えて、呪いを解くんです。時間がなかったら、それを執拗に覚えていて、単行本のとき、そのページを描き直すとかやりませんか。(三宅)
ありますね。あとは、単行本が完全版などで復刻されるときとか。それで僕なんか、読者から「何の権利で描き直しているんだ」って、怒られたりするわけですよ。(浦沢)
世界中でただ一人、我慢がなっていない人がいる、ってことなんですよね。作者だけが我慢なっていない。(三宅)

縮こまって、なかなか踏み出せない人たちに、もっと大胆に行けっていう刺激になるんじゃないかな。勇気というよりも、「行っちゃえ」っていう、その大胆さですよね。(浦沢)
冒険。「冒険しよう」みたいな感じですよね。漫画の中の冒険。自分の描き方でもなんでも、表現一つでも、いろんな冒険が見たいなって思いますよね。(三宅)
「ああ、行っちゃった」っていう感じがしますよね。(浦沢)
ちゃんと無事に戻って来ないとね。(三宅)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

三宅最初のころ、ホワイトを使うのが、すごく嫌だったんですよ。でもアシスタントさんが「ホワイトも、ペンの一つですよね」って言って。そこから何かタガが外れて、「ホワイトで描いてもいいや」みたいな気持ちになっちゃって。 浦沢フランスのBD(bande dessinée/フランス文化の漫画)の作家さんたちに聞いたんですけど、彼らはホワイトを使わないって。「失敗したらどうするの?」って言ったら、カッターでインクの部分を削って修正するって。でも、聞かせてあげたい。「ホワイトもペンの一つだ。」って。 三宅それ!「ペンの一つ」って。 浦沢フランス語訳して聞かせてあげよう。

浦沢こういうシリアスものを描かれるようになって、『ぶっせん』のころと作風が変わったじゃないですか。描き手の内側としてはどうなんですか、内側にあるものみたいなのは。 三宅どっちも同じ感じなんですよね。 浦沢僕も『YAWARA!』とか『Happy!』みたいな、コメディー色があるものをやっていたんですけど、そこから『MONSTER』とか、シリアスな方に移行していった。僕も、本人の中身としては、そんなに変わらないんだけどなと思いながらやっていた。 三宅こういうシリアスなものをやりながら、ギャグ漫画っぽい仕事があると、すごくバランスがいい気がするんですよ。どっちも脳みそが窒息しないというか。 浦沢分かる。コメディーをやっているときとシリアスをやっているときって作風が違うって言われるんですけど、でもヒューマンドラマとしては同じ。 三宅そうですよね。どっちもユーモアですよね。ヒューモアっていうか。 浦沢あんな悲惨な話をユーモアって言うのかって言われるけど、なんとなく「描いている内面は一緒なんだけどな」っていうのはありますよね。結局、同じ人間から出てきたものっていう。

浦沢あの、『ぶっせん』で強烈なツッコミを入れていた耳の大きい人。 三宅徳永。 浦沢それがこの『イムリ』の中では、例えば賢者と呼ばれる人が偉そうにしゃべっているのに対して、三宅さんがきっと突っ込んでいるんだろうなって。心の中で。「おまえ、その言い方なんだよ」って。 三宅あります、あります。(描いていて)「ひっでえな、お前」とか思いますもん。 浦沢『ぶっせん』でこのツッコミをした人は、『イムリ』のこの台詞には絶対ツッコンでいるはずだよなって。あえてそれを描いてないんだろうなっていう。 三宅そうか、描かなきゃシリアスになるっていう話ですか。面白い。

浦沢この『イムリ』っていう作品案外、説明不足じゃないですか。こういう世界があるっていうことを、大前提で行っている。裏にこんな緻密なもの(設定書)が用意されているけど、これを表現せずに描いている。隠されたその情報があるわけじゃないですか。 三宅最終的に、あまり分からなくても、まあいいか、みたいになっちゃって。話として必要だったら説明すればいいけど、特に知らなくても、そういう設定だっていうのが伝わるくらいでいいんじゃないか。 浦沢そう。「この人たちの日常は、こうなんだろうな」っていうふうに見えるんですよ。あえて作品が説明してないんだから、そんなに深く理解しようとしなくてもいいんだろうなっていう。その作品の主眼は別にあるのかなとか。ちょっと前人未到な不思議な作風になっているなと思って。 三宅説明を本当にしていないですもんね。 浦沢僕も登場人物を出すときに、作品上は出さないけど、その人の履歴書みたいなものがあるんですよ。こういうふうな生い立ちで、こうなって、今ここにいる。そうすると、キャラクターがやっぱり「こいつなんかあるな」っていうふうに見えて面白いんですよ。 三宅面白いですよね。実はまだ、作者にも嘘ついている、隠していることがあるんじゃないかなっていう感じになりますよね。

三宅このシーンは、コマ送りみたく子どもの顔の表情を作りたいんだけど、でも(読者が)めくったらすぐだと思うんですよ。 浦沢漫画を描くスピードは、三宅さんはとっても速いけど、それでもこれだけ時間がかかる。描き手と読者のギャップ、描く方はこれだけ時間がかかっている、読む方は一瞬にしてめくっていくという。それも計算に入れて描いていないといけない。 三宅そうなんですよ。読むときに、速いんじゃないか、足りないんじゃないかなっていうのがいろいろあって。でも結局、いまだに分からないです。 浦沢いまだに分からないね。どのぐらいのタイミングで描くのが正解なのか。自分で原稿チェックすると、すごく速いんですよね。パッパッパッパって。でも、「こんなに速く見るかな……」って。読者はもう少し遅いんじゃないかなって。 三宅そうです、そうです。こっちは知っちゃっているからね、もう。 浦沢もう少しゆっくり表現するほうがいいのかなって迷ったりするけど、最終的にはネームのときの判断が正しい場合が多いですね。

(修正を繰り返す部分を見ながら) 三宅嫌な夢を見たくなければ、描き直すしかない、みたいな感じ。 浦沢僕ももう、しょっちゅうですよ。 三宅へえー、そんなに直すんですか。浦沢さんってすごいよなあ。すごいパワーですよね。 浦沢いやいや、パワーじゃなくて。三宅さんと一緒ですよ。「何こだわっとんねん!」ていうやつの繰り返しですよ。 三宅そっか。 浦沢だって気に食わないものが世に出るほうが、やっぱりストレスでしょ。 三宅そうなんですよね。本当に悪い夢を見るんですよね。だったら描き直しますって。 浦沢そう。 三宅その方がラクっていう。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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