かわぐちかいじ

完全版1本目は、かわぐちかいじが登場。
「沈黙の艦隊」「太陽の黙示録」といった大ヒット作を生んだ現場へ密着する。漫画家としてデビューしてから15年近く、ヒットが生まれずに苦しんだかわぐちが、ブレイクするきっかけとなった技法が語られる。また、無骨なイメージとは異なる、緻密で繊細なかわぐち流の仕事術が、明らかにされる。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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平清盛の心象シーンを描く

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正面画 「目」で人物を表現する

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[NEW]美男子義経 人物の感情に寄り添う

かわぐちかいじ×浦沢直樹

コマの枠線を5ミリ下にずらす。それだけで、コンマ何秒か、読者の目線が違うじゃない?(かわぐち)
5ミリ下げるとかそういうのは、本当によくやりますよね。(浦沢)

頭の中の絵を(アシスタントに)伝えるということは、本当に難しい。(浦沢)
ときどきね、「何とかっぽく」と言いかけることがあるんだけど、意識して「それはダメ。ちゃんと言語化しないと」と思うんだよ。(かわぐち)
言語化できないから、「……っぽく」ってなる。(浦沢)
追い詰めてないから、そこまで。難しいよね。(かわぐち)

かわぐちさん、あるときから「人物の目」が大きくなったじゃないですか。(浦沢)
「感情は目で表現されるので、小さいとわかりづらい」という編集者のアドバイスがあって。最初は突っ張っていたんだけど、あるとき描いてみると「おお。意外に違うな」と。目で伝える感情というのは大事なんだと気がついた。ポップ感を狙ったのかもしれないけれど。(かわぐち)

あるところからポップに変換する、漫画家さんのその瞬間を見るのがすごく好きだった。「この漫画家さん、今SF漫画描ける」って思うんです、ポップになったときに。その感じがかわぐちさんの『アクター』のあの辺で起きて「もしかしたらSF漫画描けるんじゃない?」って思っていたら、次に『沈黙の艦隊』が出て。(浦沢)
「目」の変化が起こる前は、海外を舞台に漫画を描くということを一切考えられなかった。おっしゃる通り、ポップになって、外国人も描けるし、外国を舞台にドラマも作れるんじゃないかって。広がった感じがしたよね。描くフィールドが広がって。あれはうれしかったね。(かわぐち)

描くときに、ペンが行きつ戻りつする。あれが自分の癖として、すごくイヤなんだよ。(かわぐち)
そこに、僕なんかは繊細さを感じるんですけどね。(浦沢)
大胆さじゃなくて?(かわぐち)
「かわぐちかいじ」という漫画家は無骨で男っぽい、と思うなかに実はちょっとその感じが入っているのが、僕は好きなんです。無骨なばかりではない繊細なところが。行きつ戻りつ。そういう繊細さがあるんだな、という線に見えるんですよね。(浦沢)

(漫画が)おもしろい仕事でよかった。1日24時間、全部の経験が仕事に活かせる。それはすごく贅沢なことなんだよ。今、もし漫画を描くのをやめて、「一本も描かない」となったとき、すっげえ不安だよね。(かわぐち)
何のために生きているんだろうって。(浦沢)
そう。わからなくなる。(かわぐち)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

かわぐち原稿1ページ、下描きから始めて、何時間ぐらいで完成する? 浦沢だいたい、1時間以内だと思います。 かわぐち俺も昔だったら、下描き含めて、1時間かからなかったんだよ。今は1時間半ぐらいかかっている。丁寧になっているような気がするんだよね。描き飛ばしてないというか。 浦沢うん。筆が遅くなったというよりも、丁寧になってきている感じはありますよね。それは僕も感じています。 かわぐちやっぱり昔より、意識的に絵に入れる情報量を多くしている。そんなに変わらないんだよ、ペンのスピード自体は。すごく気持ちのいいスピードってあるので。それ以上速くても遅くてもダメだし。 浦沢そうそう、ありますね。スーッ……スーッ……と、描くスピードは変わらないはずなんですよね。

浦沢描くときの迷いペンが、ほとんどないのが美しいですよね。 かわぐちいや、やっぱりあるよ。顔の輪郭線を描くとき、ときどき出てくる。それがイヤなんだよ。 浦沢輪郭線って、何が正解なのかわからなくなるときありますよね。ここだっていうのが見つからない。一発で決まらないときって、後々まで尾を引くから、単行本になるとき「あそこちょっと直させて」なんてこともあります。 かわぐちそれって、人物の表情とかそういうところ? 感情がうまく出ていないとか。 浦沢だいたい表情です。自分の中にある感じと何か違うなというのを、ずっと思っていたりして。 かわぐち映画だと役者に演技させるわけだから、漫画はそこが贅沢なところだよね。自分で描けるからね。役者の場合だと、ある程度あきらめなきゃいけないところがあるんだろうけど。 浦沢その役者さんの力量とか判断みたいなのもあるから。 かわぐち絵は無限。 浦沢そうなんですよね。正解のない世界だから。

かわぐち映画も好きだから、映画らしさを真似したかったところもあって。例えば、ラストシーンを、すごく引きの絵にしてみたり。そうすると、編集者に「もっとアップにしてください」とか言われたりするんだけど。 浦沢ぐーっとカメラが引いて終わる。 かわぐちうん、それでかっこいい。でもやっぱり漫画は違うんだよね。漫画は次どうなるかっていう場面になったら、ちゃんとアップで見せる。 浦沢せっかくかっこいいのに「この次のシーン、これ付け足してくれ」なんて言われると「かっこ悪くなっちゃう」って。でも、漫画だからね。かっこよすぎるとダメっていうのが、やっぱりあるんですよね。 かわぐちそう。かっこよすぎると読んでいてわかる。かっこつけたいっていう意識が、もう見え見えという。 浦沢かっこつけたいのと、ドラマを伝えたいのと、どっちが主眼なんだよってね。

かわぐち自分ではかっこつけじゃないんだって思っていても、本当はえらいかっこつけてることもある。だから漫画を描きたい若い人に、絵を描くことが好きなのか、絵を描いている自分が好きなのか、どっちかを見極めたほうがいいよってよく言うんだよ。 浦沢うん。 かわぐち一日中、絵を描いていればわかる。自分を追い詰めて一日中、絵を描き続けられたら、多分それは絵を描くことが好きな人。絵を描いている自分が好きな人は、それはできない。やっぱり絵を描くことが好きじゃないと、漫画の長時間労働には耐えられない。 浦沢そうですね。 かわぐちだから、やっぱり絵が好きでありたいよね。 浦沢いちばん最初のモチベーションですよね。そこにいつでも立ち戻らないと、週刊連載なんか乗り越えられない。1日10時間、絵を描いていられるって、かなり異常な話ですもんね。

浦沢アウトプット、インプット。そんなものは意識しない。そういう仕事って珍しいかもしれませんね。「オフ」ってないですよね。 かわぐち全然ない。全部「スイッチ・オン」。オンにし続けていても、平気なんだもん。 浦沢「いつ充電しているんですか?」なんてよく聞かれますけど……。 かわぐち意識してない。逆に言うと、描きながら充電しているっていう感じ。「楽しいな、楽しいな」って思って描いている。それでもう充電できている。 浦沢それはありますね。この一筆は自分にとって初めての線。描くたびに初めての体験だから。 かわぐちすごく刺激的な体験ですよね。 浦沢楽しい仕事ですよね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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