9月4日

東村アキコ

いま最も注目を集める女性漫画家、東村アキコ。
今年、自叙伝的漫画「かくかくしかじか」でマンガ大賞2015を受賞。2014年には「海月姫」が、能年玲奈主演で映画化された。
今回は、初めて挑戦した歴史漫画「雪花の虎」の現場に密着する。漫画界屈指と言われる執筆スピードが、浦沢直樹を驚かせる。また、10人以上のアシスタントを的確な指示で使いながら、人物の表情にとことんこだわる制作スタイルが明らかになる。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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見開きページ 表情にこだわる

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下描きなしの 一発描き

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ラブシーンを描く(番組未公開)

東村アキコ×浦沢直樹

ネームは眠くなるよね。あれは不思議なくらい眠くなる。半分寝ているみたいにして描くよね。(浦沢)
夢の中で、できますよね。(東村)
しまいには本気で寝る。寝ていて起きると(ストーリーが)できあがっているんだよ。(浦沢)

(ネームを描くのに)うんうん悩んだりとかはないですね、まったく。頭の中にあることを、ただイタコのように紙に降ろしていっているだけなので、考えている感じがあんまりないです。キャラが紙の上で喋っていくのを、ただ描いているという感じで、「ああしよう、こうしよう」とかも全然思ってなくて。(東村)

(アシスタントに)若い子がいっぱい来てくれると、今っぽくなるっていうか、画面が。古くなるのが一番いやなんですよね。下手でもいいから新鮮味がないといやなんです。(東村)

絵を描くときにすごい気にしているのが、物の重み。髪の毛の重みも、ふわっとした子はふわっとしているとか。着物も、浴衣の重みと冬着る着物の重みが違うとか。(東村)

涙袋ラインが表情作るよね。(浦沢)
すごく大事ですよね。目の下ライン、0.1ミリですごく変わると思います。(東村)
ちょんってやると、全然表情変わる。(浦沢)

シュ!ってやるだけで、ゥワッ!って絵ができるみたいな世界に行きたい。それは手抜きっていうよりも、そうなったほうが、漫画がよくなる気がする。(東村)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

東村若い時は編集さんに、いい加減な感じをだいぶ怒られていました。「原稿のすぐ横に食べ物を置くな」とか、「こぼすものを置くな」とか。でも、原稿が汚れるとかそういうのは、結構どうでもいいんですよね。 浦沢コーヒーこぼしても大丈夫。うち、何回もこぼしている。コーヒーの茶色は印刷出ないから。 東村今ね、もう印刷所の方のスキルがすご過ぎて。デジタルで間違いを直してもらったりとかするんで、私、印刷所の方にプライベートで焼肉おごったりとかしています。「何かあったとき、お願いね」って言って。 浦沢便宜を図ってもらうのね、それで。 東村うん。「ベタ塗り忘れたわ。塗っといてー」って。 浦沢ああ、それはすごいなあ。 東村そうです、そうです。

東村私、九州の宮崎出身なんで、仕事場でも結構ずっと宮崎弁なんです。宮崎のスタッフがいるんで。 浦沢僕、東京なんですけど、憧れますよ。九州の言葉って、まあ関西弁とかもそうなんだけど、何ていうのかな、「その言葉の中にある面白さ」を引き出していくじゃない。 東村なるほど。 浦沢ネーム全体が、きっとそういう感じなんだろうなと思うんだよね。(東村さんの作品に)お父さんの漫画とかあるじゃないですか(「ひまわりっ ~健一レジェンド~」講談社)。博多華丸・大吉さんのあれを、思い出すというかね。 東村私、大好きです、博多華丸・大吉さんの漫才。すごくわかりますね。 浦沢なんか、ああいうイントネーション。 東村間とかもね、確かに。 浦沢同じコマの中でつっこむとか。「何ね!」っていうの、あるじゃないですか。九州の人たちの。あれが、食い気味で入って来るスピード感とか。ああいうの、そういう九州の言葉のリズムみたいなのがあるんだろうなと思う。見ていると、本当、うらやましいんですよね。

東村山岸凉子先生の、主人公の目の描き方がすごく好きなんです。透明感と力強さがあるなと、参考にさせていただいていたり。あと、私の大好きな『ベルサイユのばら』にジェローデルっていうキャラが出てくるんですけど、ジェローデルはハイライトがど真ん中なんですよ。瞳孔が白で、それ以外が黒。それによって、飄々と、淡々と、「物ごとにあんまり執着しないよ」っていう感じが出る。なんか悟っちゃった人の瞳孔を白にするのを、うちでは「ジェローデル目」って呼んでいるんですけど。やっぱり漫画って、漫画家同士ですごく影響されたり、影響与えたりっていうのがありますよね。 浦沢影響されますね。 東村浦沢先生の影響もめっちゃ受けているし、今もいろんな先生を参考にしてやっています。だから、絵もこれから変わると思うんです。それがないとやっぱり楽しめないというか。 浦沢周期的に「うわ、なんか発明したね! この人」っていうのがあるんだよね。 東村ありますね。その発明って、やっぱりストリートから生まれる。アートがストリートから生まれるように、やっぱりコミケから生まれている感じがある。アマチュアの方とか、同人誌の方から生まれている感じがすごくあって。ストリートの方が早い。 浦沢だからアシスタントにも、「若い子の新しい作品に、ちゃんと目を通しておけ」って言うんですよ。「今、新しい子たちはどんなことをやっているのか、とにかく頭に入れておけ」って。

浦沢たまたま僕ら、漫画っていう、紙とペンさえあれば形にすることが可能な職につけたというのがあって。 東村そう。やらないけどいつも思うことがあるんです。担当さんから「誰々先生の原稿、間に合ってなくて落ちちゃうかも」っていう情報が来るとするでしょう。そのとき、10人スタッフがいる。で、自分たちの作業はもうほぼ終わっている。「じゃあこの原稿渡したあと、一晩でみんなで12枚描いちゃえば代原(代理原稿)できるよ」とかって私が言うんですよ。で、みんなも「先生がネーム描いてくれればできますよね。この人数いれば」って言う。それをいつかやりたい。漫画ってそれができる。 浦沢それね、トキワ荘でやったらしいですよ。ちば先生が手を怪我しちゃって描けなくなった日に、トキワ荘の皆さんでパッと穴埋めしてくれたらしい。一瞬にして。 東村私、それやりたいんですよね。だって、映画とかテレビだったら、できないじゃないですか。機材とか、色々なことを決めてやらなきゃいけない。漫画って、紙とペンと机と、あと水ぐらいあればいけるんですよ。それってすごい。奇跡のメディアだと思うんですよね。

浦沢日本の漫画っていうのは、絶対的にその締め切りが早い。どんどん締め切りが来るっていう文化。きっと、リミットがないとだめなんですよ。で、「今日中に仕上げるぞ」っていう、その勢いが作品の中に出るんだと思う。 東村そうですね。だから、(原稿執筆が)土日をまたぐとダメなの。なんかノリの悪い漫画になる。もたつくっていうか。「今日この時間で終わらせるから、このページ、5分でどうにかして」って言って。そんな中でアシスタントが出してきたもののほうがかっこいい!っていう。 浦沢そうね。それは例えば、書き込まないで白くしちゃうっていうこともあるし。 東村うん、そうですね。まさに。 浦沢デビューして三十何年になりますけど、ずっと締め切りのない日はない。 東村何かしらやっている。 浦沢何かしらやっているから、ずっと締め切りのある人生。もし締め切りがなくなったら「どうしよう」って、途方に暮れるよね。デビュー以来、いついつまでに何を仕上げるっていう生活しか経験してないので、ちょっと想像つかないよね。 東村いっぱい描いていると、すごいって思ってくださる人もいて。「すごいですよね」「えらいですよね」って言われるんだけど、締め切りがありゃあ描くと。それだけの話で、それって全然大したことじゃないと思っているんですよね。描かない自信しかないですね、一年締め切りなかったら。子どもとハワイ行っちゃいます、マジで。 浦沢一年締め切りがなかったら、復帰できる自信ある? 東村ない。無理。先生あります? 浦沢無理。 東村私、たぶん、もう二度と描かない。 浦沢もう二度と描けないと思う。 東村遊びほうけて。絶対戻せない。 浦沢戻せないね。 東村うん。それが怖くてずっとやっているのもあるのかもしれないですね。 浦沢一年とは言わず、半年ぐらいでも、ちょっと怖いな。復帰できない感じがする。あのサイクルに自分をもう一回もっていくっていう感じがね。それはきついだろうなあ。 東村きつい。でもね、まあ一年ぐらい休んでみたいというのも、もちろん人間だからあるんですよ。 浦沢そこへの憧れなんだな。憧れながら、せかせか描くっていう感じね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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