9月11日

藤田和日郎

少年漫画の第一人者、藤田和日郎。
代表作である「うしおととら」が今年アニメ化され、話題となっている。
今回、伝奇ロマン「黒博物館 ゴースト アンド レディ」の現場に密着する。浦沢直樹が驚愕したのは、下書きをほどんとしないままにペンを入れ、そこに何度も何度もホワイト(修正液)を入れることで、線を彫りだすように描いていく藤田流スタイル。その秘密に迫る。

密着した作品

漫画家のペン先

密着撮影することによってとらえた 「漫画が生まれる瞬間」

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線を「削り出す」ように描く

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理想の表情を求めて

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割りばし 「熱量」を線に込める

藤田和日郎×浦沢直樹

あのホワイト(修正液)、魔法の道具ですか?(浦沢)
魔法の道具っていうか、こっちが筆記具っていう感じです。要するに、ホワイトとペンの両方でペン入れしていくわけです。線を削って成形している感じが、自分は好きなんですよね。(藤田)

とりあえずペンを先につけちゃう。「形にするのはホワイト(修正)があるから」って。あまりにも白紙に対する恐怖があるから、「とりあえず早く原稿にインクをつけたい」って気持ちがあるんですよ。すごく弱い気持ちなんです(笑)。この白紙をやっつけるかどうかにかかっているような気がするんですよね。(藤田)

鉛筆で描いているのは、やっぱりあくまで下描きなんですよ。それでペンを持つじゃないですか。で、こう描いた瞬間に、それが覚悟の線になる。下描きなんていうものは、いくら描いても下描きなんです、覚悟がないから。(浦沢)
そうですね。(藤田)

テンションこそが毎週漫画を描いていくエネルギーなんですよね。カラ元気とも言いますけど。(藤田)
重要だね。(浦沢)
え! クールに物語を進ませている浦沢さんは、ずっと冷静にやっているのかと思っていました。(藤田)
テンション上げてクールなものを描いているんですよ。作品のできあがりと作者は違いますから。ものすごいテンション上がっている。クールじゃ作品なんて描けないですよ。(浦沢)

1コマを1日目に描いたら、2日目に描くのは2コマ目からでいいわけですよね。だから、ちょっとでもとにかく描いていけば。(藤田)
白紙にしとくといつまでも白紙。とりあえず埋めちまえっていうやつ、ありますよね。(浦沢)
そうです、そうです。そしたら漫画家になれました。(藤田)

子どもたちが最初に漫画というものを知る玄関が、少年漫画だと思うんですよね。それっていいじゃないですか。だから難しくないものを描きたいな。面白くてやさしくて、なんかいいものを描きたいなっていうのが、ちょっと思っていることですね。(藤田)

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読む漫勉

漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。

浦沢(ホワイトで修正を重ねながら描く)藤田さんの漫画の描き方って、実はタブレット上でやる作業に似ていると思うんですよ。ものすごくデジタルに近い作業を、生でやっているっていう感じがする。 藤田初めて言われましたけど、確かにそうかもしれませんね。ということは、デジタル(での漫画制作)へのスムーズな移行も、可能かもしれませんね。 浦沢「これ、すごいラク!」って思うかも。親和性がすごく高いかもしれない。 藤田なるほど。でもどうなんでしょうね…… 3Dプリンタで出力する人と、手で模型を作る人たちとの違いと同じで。一方は、データをぶち込んで3Dプリンタで出す。こっちのほうはバルサ材を切って、紙やすりで削って、透明プラバン張りつけて……、みたいなことをやる。その作っている最中が楽しいというのが、あるんじゃないかと思うんですけど。俺は紙に描いている感じがやっぱりすごく楽しいんです。 浦沢それはもう圧倒的に楽しいよね。ペンで紙に描くっていう作業が好きなんですよね。 藤田そうですね。これだけデジタルの漫画家さんが多くなっている中で「いや、紙の漫画のほうが絶対いいんだ」なんて、言い張れない。だから、「紙に描くのが好きなんだもん」っていうのが、一番腑(ふ)に落ちますね。

浦沢新しい道具が出たら使ってみます。で、一瞬いいねってなるんだけど、じゃあそこからずっと使うかといったら、なかなか使わないんですよね。 藤田そうなんですよね。なんでしょうね、あれ。(昔から使っている)道具って、手になじんで本当に血肉になっている感じ、なのかな。 浦沢試しに何かいたずら描きをするのと、本チャンの原稿を描くのでは違うんです。 藤田それあります、本当に。メーカーさんからしたら、「じゃあなんなのよ、あんたが欲しいものは」ってなるでしょうけど。 浦沢「こんなに使いやすい道具が出たんだよ」って言っても、「いやぁ、本番の原稿ではちょっと……」ってなる。 藤田「ちょっと……」って、何でしょうね。 浦沢「いつもの使いづらいやつでいいです」ぐらいのことになるじゃないですか。「あれじゃないと、いつもの感じになりません!」って。 藤田そうなんですよね。これは理由がわかりませんね、ブラックボックスに近いですよね。

浦沢よく言われるでしょ。あんなにべらべらしゃべりながら、よく描けるなって。あれは、やっていると描けるようになるんですよね。 藤田慣れですね。でも漫画家がひきこもり始めると、「ちょっと怖い」って感じしません? 悪いことばかり考えちゃって……。 浦沢さらなるひきこもり状態に。 藤田浦沢さんは社会情勢をからめたりする漫画が多いから、常にアンテナが外に向いていると思うんですよ。でも、自分はファンタジー系とか想像上の話を描くことが多いので、俺みたいなのがひきこもるとダメ! 自分だけの世界に入って「なんにも話しかけないで」ってなっちゃう……。怖いですよね。 浦沢うんうん。 藤田だから人と一緒じゃないと、漫画は描けませんね。漫画って、自分の中だけで完結させようと思えば、できてしまう。編集さんと二人だけの世界で描いたものを世に出して、「売れているな、よしよし」ってところだけで読者とつながっているようだと……。 浦沢心の窓を開くのは大切ですね。外の空気を入れる、社会の窓みたいな。

藤田浦沢さんは、絵を描くのにモデルを使ったりするんですか? 浦沢いや、ほとんど使いません。 藤田どうやって練習したんですか? 写真を観察して模写するとか? みんな聞きたいはず。なんせ世界で一番、外国人を描くのがうまい漫画家ですから! 浦沢ものすごい量のスケッチは残っていますけどね。 藤田スケッチの対象は? 道行く人や雑誌、テレビ、映画とかですか? 浦沢そうそう。あとはひざスケッチ。電車のなかとか、テレビを見ながらでも、ひざの上にエアスケッチする。 藤田なるほど、手で……。 浦沢そう、そろばんみたいに。もう癖です。つい昨日も、ダイニングのテーブルで指先を動かしていたら、妻に「何?」って言われて。「いや、さっき描いたキャラの顔が正しいか、ちょっと確かめていた」って。

藤田自分の単行本は、『うしおととら』が34巻とか『からくりサーカス』が43巻とかなんですよ。ちょっと長いなと。 浦沢うん。僕は大体いつも18巻が目標なんですよ。18巻で終わらせる。で、ちょっと長くなって二十何巻とかになるんですけど。いつも始めるときは「18巻で終わらせよう」と思って始めるんですよ。 藤田みなさん、それぞれに基準があるんですよね。『黒博物館 ゴースト アンド レディ』は、当初1巻だけで終わらせるつもりだったんです。自分に対する「もっと短く物語をまとめられないのか?」という思いにチャレンジしたくて。(登場人物の)ナイチンゲールのキャラクターがおもしろくて、結局2巻完結ものになっちゃったんですけど。こういう挑戦をしていたほうが、作家として新鮮でいられるかなって。 浦沢ありますね。

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※手書きはすべて 浦沢直樹・自筆

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