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これまでの放送 2018年10月5日(金)の放送

シューベルト「魔王」
中学1年生の教科書に掲載されること50年。誰もが一度は耳にし、どこか恐怖を覚えた曲。それは父とのあつれきに苦しんだ10代のシューベルトが深い苦悩の中で作曲した歌曲「魔王」です。今日は、シューベルトが「魔王」に込めた思いに迫ります。
シューベルト「魔王」
中学1年生の教科書に掲載されること50年。誰もが一度は耳にし、どこか恐怖を覚えた曲。それは父とのあつれきに苦しんだ10代のシューベルトが深い苦悩の中で作曲した歌曲「魔王」です。今日は、シューベルトが「魔王」に込めた思いに迫ります。

「魔王」人気の秘密とは

子供たちに強い印象を残す「魔王」。その秘密は音楽で描かれるドラマにあります。この曲はシューベルトが敬愛したドイツの文豪ゲーテの詩に曲をつけて生まれた歌曲です。その物語は、子を抱きかかえる父にその子どもは魔王がいると必死に訴えるものの、子供にしか聞こえない魔王を父は理解できず、恐怖の叫びが伝わらないまま、子供は父の腕の中で息絶えてしまう、というもの。シューベルトは子供、父、魔王という3人の登場人物を短調(子)、長調(父、魔王)という音楽で描き分け、さらに3重の「お父さん」という叫びをそのたびに音程を上げていくことで高まる子供の恐怖感を巧みに表現していきます。

思春期 父との葛藤

シューベルトの父は真面目で厳しい教師でした。そして息子にも同じように教師になって後を継いでほしいと考えていたのです。シューベルトは父の意向に従ってエリート学校に入学しますが、音楽に夢中になってしまいます。学業をおろそかに作曲活動に熱中したシューベルトはついに父に作曲を禁止されます。とにかく作曲がしたいシューベルト。しかしそれを絶対に許さない父。当時18歳だったシューベルトのたまりにたまった父への鬱憤はついに「魔王」を生み出しました。子供の訴えを理解してくれない父、「魔王」はまさにシューベルト自身の父との関係を反映した曲なのです。

友人たちの支え

父との軋轢に悩むシューベルトを陰で支えたのが、学校の先輩だったヨーゼフ・フォン・シュパウン。シューベルトが作曲を始めて間もないころからその才能に気づき、五線紙を買い与えるなど支援をしてきました。そしてシューベルトが執念で書き上げた「魔王」をどうにか世に出そうと、ゲーテの詩に曲を付けた歌曲集を出版する計画をたくらみました。ゲーテに手紙を書き協力を仰ぎますが、シューベルトの「魔王」の斬新さはゲーテに受け入れられず結局失敗に終わります。それでも、貴族や音楽関係者を集めた演奏会を何度も開き、シューベルトの魅力を広めていきました。完成から6年、ついに「魔王」は出版され、それがきっかけでシューベルトは作曲家としての大きな一歩を踏み出すことになりました。

ゲスト

『魔王』に登場する息子は自己を投影している自分の姿じゃないか

『魔王』に登場する息子は自己を投影している自分の姿じゃないか

尾木直樹(教育評論家) 尾木直樹(教育評論家)

尾木直樹(教育評論家)

profile

法政大学特任教授。臨床教育研究所「虹」所長。
Eテレ「ウワサの保護者会」に出演中。

最小限によるオペラといってもいいぐらい

最小限によるオペラといってもいいぐらい

野本由紀夫(音楽学者) 野本由紀夫(音楽学者)

野本由紀夫(音楽学者)

profile

玉川大学教授。音楽の教科書の執筆も行う。

楽曲情報

「魔王」
シューベルト
イアン・ボストリッジ(テノール)
ジュリアス・ドレイク(ピアノ)

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