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これまでの放送 2017年10月20日(金)の放送

30分オペラまるわかり プッチーニの「トスカ」 ~冷血男VS歌姫 炸裂(さくれつ)する激情~
オペラってなんだか難しそう、でもちょっと興味はある…そんな思いを持っている方たちに向けて、名作オペラの鑑賞のツボを紹介する「30分オペラまるかり」シリーズ第三弾。
ご紹介する作品はプッチーニ作曲の「トスカ」です。
プッチーニ
30分オペラまるわかり プッチーニの「トスカ」
~冷血男VS歌姫 炸裂(さくれつ)する激情~
オペラってなんだか難しそう、でもちょっと興味はある…そんな思いを持っている方たちに向けて、名作オペラの鑑賞のツボを紹介する「30分オペラまるかり」シリーズ第三弾。
ご紹介する作品はプッチーニ作曲の「トスカ」です。

プッチーニ

オペラ歌手ならば一度はチャレンジしてみたい作品「トスカ」

プッチーニの名作オペラをナビゲートするのは、オペラ歌手の錦織健さん。「トスカ」の3人の主要人物、歌姫トスカとその恋人で、革命思想に肩入れしている画家のカヴァラドッシ、そして革命思想家を徹底的に取り締まる警視総監のスカルピア。そのそれぞれに名場面があり、聴かせどころ満載のこの作品は、オペラ歌手ならば一度はチャレンジしたい作品だと語ります。
見どころは、拷問・脅迫・銃殺刑など、過激なシーンの連続の中で追い詰められていく登場人物たちと、その心情が見事に表現されたプッチーニの音楽。錦織さんが「オペラ界随一のメロディーメーカー」と語るプッチーニの甘美な音楽と、凄惨な場面との融合が、このオペラを魅力的にしているのです。

「ららら的オペラグラス1」悪の魅力

オペラ「トスカ」の《悪》といえば、トスカと恋人カヴァラドッシを追い詰める警視総監のスカルピア。革命思想家を徹底的に弾圧するスカルピアは、同時に己の欲望のためには手段を選ばない男。サディスティックに相手を追い詰め、服従させることに、何より快感を覚えます。プッチーニは、その「悪」を音楽でも印象的に描きます。
スカルピアが登場する時の音楽には、“増四度"と呼ばれるちょっと耳障りな音程が含まれています。この増四度は、音楽の中の悪魔と言われ、中世ヨーロッパでは使用を禁止されていた時もあるほど。この音程が表現するのは悪・悲劇・破滅など、良くないイメージ。
プッチーニは増四度を使った音楽で、スカルピアの悪魔的な性格を表現しているのです。そしてプッチーニは、「トスカ」の悲劇性を暗示するかのように、このスカルピアの悪の音楽を、前奏曲としても使用しオペラ冒頭にも置いています。そして、スカルピアの悪が最も鮮やかに描かれるのが、第一幕の最後。教会で「テ・デウム」と呼ばれる聖歌が歌われる前でスカルピが己の欲望を一人語りする場面。聖と悪のコントラストが見事に表現される名場面です。

「ららら的オペラグラス2」愛と信仰

愛と信仰は、スカルピアの悪と対決する主人公トスカを象徴するキーワードです。《愛》とは恋人カヴァラドッシへの一途な愛。最愛の人を、なんとしても助けたいと願う気持ちが、トスカを強くします。相手のことが好きすぎて、時には激しい嫉妬も…。トスカは恋に盲目な一面を持つ女性なのです。
その激しい性格を理解するためのポイントは、トスカの年齢。トスカはよく大人の女性のように思われますが、実は20才に届くか届かないぐらいの若い女性。まだまだピュアな女の子なんです。世間の嫌な面や悪い面を知らず、全身全霊で愛の世界に生きているトスカにとって、自分と恋人を追い詰めていくスカルピアは価値観を揺さぶられるぐらい衝撃的な存在。トスカが想像を絶する悪に対峙し、その悪とぶつかり、最終的には刺し殺してしまう。というのがオペラ「トスカ」の大きな見どころ。

もう一つのポイント、《信仰》は、トスカの性格を理解するのに欠かせない要素。オペラの中では描かれいませんが、原作ではトスカは修道院で育ったという設定がなされています。彼女の存在の底には、神と聖母マリアへの信仰深い愛というものがあり、オペラの随所に、祈りを捧げる描写が出てきます。そんな信仰深いトスカが、スカルピアから「私に身体を捧げれば恋人を自由にする」と迫られた時に歌うのが、名アリア『歌に生き、愛に生き』です。「歌と愛に生き悪いことをしてこなかった私に、なぜ神はこんな仕打ちをするのか」と歌うトスカ。楽譜に書かれたプッチーニの指定は、<dolcissimo congrande sentimento>。「とても優しく、深い感情を込めて」というもの。トスカを演じるソプラノの大村博美さんは、「この歌が特に難しいのは、神を責めるように激しく歌ってしまいそうなのを、子供が父親に優しく問いかけるように歌わなければならないから」だと言います。そのソプラノの表現力もまた、オペラ「トスカ」の見どころの一つです。

テノール屈指の名アリア「星はきらめき」

もう一人の主人公カヴァラドッシ。最終幕でそのカヴァラドッシが歌うのが名アリアとして知られる「星はきらめき」です。このアリアが歌われるのは、カヴァラドッシの処刑が行われる直前。愛するトスカへの最後の手紙を綴りながら、次第に想いがあふれ筆が進まなくなり切ない胸のうちを歌い出すというシーンです。死を前にして前半は心静かに、そこから抑えきれなくなって激しくなるという、短い時間の中に激しい感情の変化が人間的に描かれるこの歌は、テノール屈指の名アリアとして知られています。

ドラマが詰まった一日

登場人物それぞれが、自らの愛や信条、欲望に全身全霊をかけて対峙していくオペラ「トスカ」。その目まぐるしいドラマは、たった一日の出来事として描かれます。激しい展開と、それを彩るメロディアスな音楽の数々。「トスカ」はジェットコースター・オペラと言えるようなエンターテインメント性の非常に高い作品としても、時代を超えて愛され続けているのです。

ゲスト

錦織 健(オペラ歌手) 錦織 健(オペラ歌手)

錦織 健(オペラ歌手)

第一線で活躍を続けるテノール
豊富な舞台経験をもとに、オペラの楽しさを伝えるための活動も精力的に行っている

楽曲情報

歌劇「トスカ」から抜粋
「テ・デウム」「歌に生き、愛に生き」「星はきらめき」
プッチーニ
大村博美(トスカ)      ダニエーレ・ルスティオーニ(指揮)
今井俊輔(スカルピア)    東京都交響楽団(管弦楽)
城宏憲(カヴァラドッシ)   二期会合唱団、NHK東京児童合唱団(合唱)
大村博美(トスカ)、ダニエーレ・ルスティオーニ(指揮)、今井俊輔(スカルピア)、東京都交響楽団(管弦楽)、城宏憲(カヴァラドッシ)、二期会合唱団、NHK東京児童合唱団(合唱)

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