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これまでの放送 2015年7月11日(土)の放送

静寂から生まれた音 今年、生誕150年を迎えた、フィンランドを代表する
作曲家シベリウス。
しかし、ある時期、国民からの過剰な期待に悩み、
もがき苦しんでいました。
そんな彼を救ったものとは何だったのか?
作曲家として勝負をかけた1曲、
バイオリン協奏曲誕生までの物語に迫ります。
静寂から生まれた音
今年、生誕150年を迎えた、フィンランドを代表する作曲家シベリウス。
しかし、ある時期、国民からの過剰な期待に悩み、もがき苦しんでいました。
そんな彼を救ったものとは何だったのか?作曲家として勝負をかけた1曲、バイオリン協奏曲誕生までの物語に迫ります。

魂の叫び

シベリウスが活躍を始めた19世紀末、ロシアの支配下にあったフィンランド。国民の民族意識は高まり、独立を目指す熱気に満ちあふれていました。そんな時にシベリウスは、フィンランドの伝説や神話など民族的な素材を元に、愛国的な作品を書きます。中でも、祖国愛を描いた彼の代表作「フィンランディア」はロシアの圧政に苦しむ人々を勇気づけました。こうしてシベリウスは、独立運動を音楽で担う存在として、フィンランドの国民的英雄とります。しかし、彼が本当に望んでいたのは、もっと広い世界で認められる作曲家になること。作風を変え、民族主義的なテーマから離れて、より普遍的な作品を書き始めます。ところが、それらの作品もまた“愛国的な作品”と受け止められてしまうのでした。そこで、シベリウスは最も愛する楽器バイオリンで、勝負に出ます。それが、バイオリン協奏曲。民族主義的作曲家からの脱却を図ったバイオリン協奏曲には、シベリウスの魂の叫びが込められているのです。

自然が教えてくれた音

バイオリン協奏曲は、シベリウス自ら指揮をして初演されましたが、結果は大失敗!思いが強すぎて、曲は長く複雑となり、バイオリン・ソロは、超絶技巧のオンパレード。さらに、ソリストの力不足という不幸も重なったのです。自らの力不足を感じたシベリウスは、この曲を封印してしまいます。落ち込み、すさんだ生活を送るシベリウスでしたが、心の中では「このままでは、自分の音楽が死んでしまう」と感じ始めていました。そこで、湖のほとりの静かな森に移り住みます。電気も水道もない、自給自足の生活を強いられるような場所での生活は、シベリウスの音楽に大きな影響を与えます。そこにあったのは、“静寂の音”。そよぐ風、揺れる木の葉、流れる水…。自然の中に身を置くことで、内からわき出て来る音こそが、自分の音楽だ、と気付いたシベリウスは、創作意欲を取り戻し、封印していたバイオリン協奏曲を改訂。生まれ変わったバイオリン協奏曲は、シベリウスの新たな音楽への第1歩であり、世界への第1歩でもありました。その後も自然豊かな場所で創作活動を続けたシベリウスは、世界で認められたい、という願いをかなえたのです。

静寂の音を音符に

オーケストラとバイオリン・ソロだけで始まる曲の冒頭。そこだけでフィンランドの自然の空気感に引きこまれます。そんな「静寂の音」を表現するのに用いた技を3つ紹介。

1) ずらしの技⇒4つしかない音を、たった1つの音の分だけずらしたことで、冷たい空気感を表現。
2) 乱れの技⇒同じ動きを続けている途中で、ちょっとだけ反乱。少しだけ音が変わることでざわつき、空気の動きを表現。
3) 不調和の技⇒オーケストラのバイオリンパートが生み出す、安定した響きに不調和の音で始まるバイオリン・ソロ。緊張感のあるその音は、より研ぎ澄まされた世界を表現。

ゲスト

心の聴覚を開いてくれる

心の聴覚を開いてくれる

篠原ともえ(タレント) 篠原ともえ(タレント)

篠原ともえ(タレント)

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星空ウォッチングのために
フィンランドを訪れ その自然を体感

楽曲情報

バイオリン協奏曲
シベリウス
渡邊一正(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
青木尚佳(バイオリン)

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青木尚佳
(バイオリン)

1992年東京生まれ 2009年第78回日本音楽コンクール第1位
2014年ロン・ティボー・クレスパン国際コンクール第2位
将来の活躍が期待される若手バイオリニスト

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