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2017年2月13日(月)

「ベーシックインカム」~新しい社会保障の形

山澤
「けさは、新しい社会保障の政策として近年、ヨーロッパを中心に注目されている『ベーシックインカム』についてお伝えします。
まず、『ベーシックインカム』とはどういったものなのか、丹野さんからです。」


丹野
「『ベーシックインカム』とは、政府が年金や生活保護などの代わりに、全ての人に無条件で毎月一定の現金を支給する制度です。

ベーシックインカムは2000年代に入って注目されるようになり、近年では、試験的に導入する国や地域が出てきています。
国レベルではフィンランドが、今年(2017年)から試験的に導入を開始。
自治体レベルでは、これらの地域があります。
支給金額は、月5~6万円から12万円ほどとなっています。」

山澤
「試験的とはいえ、国家レベルで初めてこの1月からベーシックインカムの導入に踏み切った北欧のフィンランド。
財源には税金が使われるため、正式に導入することになった場合には、増税も懸念されることから、市民の間では賛否両論が出ているようです。
フランス2のリポートをご覧ください。」

フィンランドで試行 「ベーシックインカム」

「無条件で現金を支給」。
フィンランドでは、一部で現実のものとなっています。

抽選で選ばれた2,000人が「ベーシックインカム」の試験導入に参加。
毎月560ユーロ、日本円でおよそ6万7,000円を受け取っています。
支給に喜ぶのは、アマチュア写真家のヤルビネンさん。
5年前から定職についていません。

支給対象者 ユハ・ヤルビネンさん
「通知を見て、やったー!と思いましたよ。」




彼には無条件で規定額が保障されます。

支給対象者 ユハ・ヤルビネンさん
「不安がなくなります。
家計のやり繰りに悩まされずに、自分の活動に集中できますからね。」

記者
「仕事探しは?」

支給対象者 ユハ・ヤルビネンさん
「もちろん。
座っているだけではつまらないですし。」

積極的に仕事を探さなくても罰則はなく、みな同じ額を受け取れるこの制度。
賛否両論もあります。

市民
「誰もが普通に暮らすための支援だと思うね。」

市民
「反対です。
仕事をしなくなりますよ。」

市民
「若者が働かなくても良いと思ったら、大変ですよ。」

人をダメにするという意見もありますが、制度の運営に関わる研究者はこれを否定。
多くの人は個人で事業をおこすだろうと言います。

社会福祉の研究者
「現行の制度では、失業者が事業をおこすのは難しいですね。
起業後、すぐに失業手当が減額されてしまいますから。
しかし、ベーシックインカムがあれば、毎月560ユーロは保障されます。」


財政面から起業を支援できますが、費用は膨大になると見られています。
政府の試算では、国民全体に適用した場合、最大で200億ユーロかかり、15%程度の所得税引き上げが必要になるといいます。
制度に反対しているのは、意外にも労働組合です。



エコノミスト
「まったくもって非現実的な制度です。
増税が必要になり、労働者の賃金は減額されてしまいますから。」



政府は2年の試験期間から効果を検証し、ベーシックインカムを正式に導入するかどうかを検討する予定です。

ベーシックインカム 試験導入の意味

山澤
「ここからは、専門家とともにベーシックインカムについて考えていきます。
スタジオには、経済学者で明治大学准教授の飯田泰之さんにお越しいただきました。
今、VTRでご紹介したフィンランドのケース、国レベルでの試験導入は初めてということですが、どうご覧になりましたか?」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「これまでも研究機関などが独自に行うもの、そして自治体レベルでの実験は行われてきたんですが、国レベルでの実験ということになりますと、これは全国的な導入に向けて一歩近づいた感じになります。
なぜこのような実験が必要かといいますと、今まで実際に実施されたことがない政策ですので、いくらぐらいが適切なものなのか、適切な金額なのか、相場観がないんですね。
そのため、いろいろな段階での実験で仮にベーシックインカムをやるとしたら、いくら程度が相場なのかをはかっていく作業がこれから進むと思います。」

なぜ議論高まる ベーシックインカム

山澤
「この10年、世界でベーシックインカムの導入について盛んに議論されるようになっていますが、なぜ今なんでしょうか?」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「3つ理由があるかと思うんですが、1つは世界的な格差と貧困の問題の広がり。
第2が全国的、世界的な問題でもある少子高齢化。
そしてもう1つは技術革新、AI、人工知能やロボット技術によって仕事自体が減少しているんじゃないか、そしていつの日にか単純労働がなくなってしまうんではないかという懸念。
この3つが大きな理由かと思います。」

山澤
「格差が広がっていく中で、ベーシックインカムを導入すると解消されるかもしれないということですか。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「そうですね。
もともとベーシックインカム自体は格差を解消するとか、もう少し大くくりな言い方をすると、社会保障制度を簡単なもの、単純なもの、理解しやすいものにするという動機が、このベーシックインカム推進論の大きな原動力にはなっているんですね。」

ベーシックインカム 利点と欠点

山澤
「ベーシックインカムを実際に導入した場合のメリットとデメリット、さまざまなことが言われていますよね。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「やはりメリットも、大きく分けますと3つあると思っております。
1つ目が、ベーシックインカム、全国民に一律に、ことばは悪いですが『ばらまく』ことになりますので、漏れの無い社会保障制度をというのができる。
つまりもらえない人はいないわけで、これまでのように制度の落とし穴にはまってしまって、例えば生活保護を受け取れない、または、さまざまな公的支援というのを後ろめたくて受け取れない、そういった人をも漏れなく救えます。
または、急激に貧乏になった、お金がなくなったという場合も、申請から給付まで審査期間がありませんので、非常にスピーディーな、レベルとしてはそれほど高くないけれども、スピード感だけはある貧困対策というのができる、これが1つですね。
もう1つは、こういったシステム、非常に簡単ですので…。」

山澤
「みんなに行くようにすると。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「そうですね、一律であるだけですので、行政コストが削減される。
こちらを重視される論者も結構多いですね。
そして私自身が重要だと思っているのが、『この人』には社会保障給付をして、『この人』にはあげません、という制度ですと、『なぜあいつはもらえて、うちはもらえないんだ』という話になりがちですので、この全員に一律というのは、制度自体への不公平感というのを払拭(ふっしょく)する、そういった機能も持っている。
こういったところがメリットだと思いますね。」

山澤
「そしてデメリットのほうですが…。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「やはりデメリットは、先ほどのVTRでエコノミストが当然指摘していたんですが、非常に大きな財源が必要である。
例えば、ベーシックインカムは技術的にはいくつかの方法があるんですが、一番単純な方法ですと、日本全体でだいたい月7万円ベーシックインカムというのを実装するのに、100兆円近くかかってしまう。
そうすると、先ほどの資産同様、だいたい15%ポイント程度、所得税が引き上げられるということになると思うんですね。
こういった巨額のお金を政府に任せて大丈夫なのか、という不安感。
この抵抗感を乗り越えないと、ベーシックインカムはなかなか実装できない状態だと思います。」

山澤
「要は悪用されるんじゃないかという不安が、もしかしたら一般国民の中にあるかもしれないと。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「たくさん集めて他に使っちゃうんじゃないかという懸念があると、なかなか実施できない、ということになりますね。」

山澤
「そして2つ目が『労働意欲の低下』、これはよく言われていますね。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「これ、先ほどのフィンランドの例ですと、だいたい日本円に直すと6万円強ぐらいのベーシックインカム。
ちょっと物価が高いもので、5万円ぐらいのベーシックインカムと考えればいいかと思うんですが、このぐらいの金額で果たして働かなくなるだろうかという疑問、私自身は持つんですけれども、こういった社会実験の中で、どのぐらいまでだったら労働意欲というのをそがないのか、それを今まさに調べていますし、各国でやられている事例を参考に、本来であれば日本でも実験を始めて、日本人だったら何万円ぐらいまでならばこのデメリットというのが顕在化しないかどうかを見ていく必要があります。」

山澤
「要は金額の設定をどうするかですね。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「そうですね。」

山澤
「そして3つ目が『労働規範の消滅』ですね。」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「やはり、これまでその考え方自体がいいか悪いかはともかく、『働かざる者食うべからず』という感覚というのはわれわれ染みついている。
それがベーシックインカム導入によって薄らいでしまったときに、社会全体がどういった思想、どういった倫理観のもとに働いていくのか、これ自体はやはり全く新しい制度であるだけに、未知数なところがある。
これはやはり実験等で十分見極めていく必要があると思いますね。」

ベーシックインカム 日本での導入は

山澤
「日本でもこのベーシックインカム、たびたび議論されていると思いますが、日本ではどうでしょうか?」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「日本の場合、やはり生活保護費に関して、それが必要な人に本当に届いていないんではないかという問題。
そして、生活保護制度等を受けたことによる『スティグマ性』という言い方がありますけれども、そういった公的支援を受けること自体の後ろめたさから、避けられてしまう。
こういった現状が、実は一番不幸な人たちというのを、より貧困状態に陥れている。
それを防ぐために必要であると。
そして現在、日本の場合、人口の問題というのが大きいです。

というのも、現在、公的年金が危機であるといった話、『団塊の世代』が多いからという話で語られることが多いんですが、実は本当の危機というのは、これから20年後、30年後に訪れます。
『団塊の世代』はですね、その20~30歳下に『団塊ジュニア世代』が現役世代としているんですね。
私、団塊ジュニアなので、大変ではあるんですが、団塊ジュニアが支えるべきだという議論が成り立つんですが、われわれ団塊ジュニア世代が高齢者になったときというのは、下に支えるボリュームゾーンが、もう存在しないんです。
その前に、社会保障制度そのものを長期的に持つ形、もちろんこの場合ですとベーシックインカムだけでなく、年金等を含めたシステム等を早く構築していく必要があるわけなんですね。」

ベーシックインカム 今後の見通し

山澤
「ベーシックインカムは、世界で拡大していくのでしょうか?
その場合の課題は何でしょうか?」

明治大学 准教授 飯田泰之さん
「やはり、世界各国の少子高齢化問題もさることながら、AI、人工知能やロボット技術の開発によって、中間層の仕事、具体的には下級ホワイトカラーと熟練ブルーカラーの仕事、いわゆる中間層向けの仕事がなくなってしまうんではないかといったときに、生活困難者が増える。
その本格的な生活困難者増加の前に、それを支える一番低いレベルの社会保障制度というのを整備しなければならない。
その技法がベーシックインカムとは限らないですが、各国が新しい社会保障制度の建設を急がないといけない。
実質、社会保障制度改革とか再分配の改革は20年かかるので、30年後のためにはそろそろ始めないと間に合わなくなる状態なんですね。」

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