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2016年9月12日(月)

シリアの市民救助隊“ホワイト・ヘルメット”

山澤
「こちらの映像をご覧ください。
シリア北部アレッポの空爆で破壊された建物から救出された男の子の映像です。
頭に大きな傷を負い、ぼう然とした表情を浮かべるその姿は、世界中に衝撃を与えました。」

 

丹野
「この男の子をがれきの山から助け出したのは、“ホワイト・ヘルメット”と呼ばれる、シリアの人たちで構成されたボランティアの救助隊です。
激しい内戦のため、警察や消防が機能していないシリア各地で、命の危険も顧みず市民の救助を続けています。」
 

山澤
「国が分断状態となっても、敵味方の隔てなく、全ての人を救助するという“ホワイト・ヘルメット”。
鬼気迫るその救助現場を取材した、アメリカPBSのリポートをご覧ください。」

シリアの希望 “ホワイト・ヘルメット”

空爆によるがれきの中から救出された、5歳の男の子。
その映像は世界に衝撃を与えました。
血を流し、ほこりにまみれた彼の顔は、内戦に苦しむ人々の象徴です。

その裏には、がれきに埋もれた市民を救出し続けている人々がいます。
反政府勢力の支配地域で活動をしている、「シリア市民防衛隊」の勇敢な隊員たちです。




「ホワイト・ヘルメット」と呼ばれる彼らは、人命救助のため、爆撃された場所に駆けつけます。
かつて薬剤師やパン屋だった男女、およそ3,000人のごく普通の市民たちです。

23歳のラディさんはアレッポの学生でしたが、内戦によって人生が一変。
今はトルコに住み、トルコとシリアの間を行き来しています。



 

ホワイト・ヘルメット ラディ・サードさん
「救助隊員になるなんて、考えたこともなかったです。
でも、空爆の中、人々が救助に集まっているのに、自分は何もできないとは言えません。」


 

彼らは、がれきの中を這うという困難な作業を強いられます。

建物の破壊は、シリア政府軍が落とす、釘が仕込まれた樽爆弾によるものです。

ヘリコプターから無差別に市民の上に落とされる爆弾は、次の大きな破壊の前兆です。




 

ホワイト・ヘルメット ラディ・サードさん
「大変なのは、がれきから人を引っ張り出すことです。
専用器具はないので、使うのは簡単な道具だけです。
時には、捜索が30時間、40時間もかかります。
疲れますが、誰かを救えるかもと思うと作業を続けてしまうのです。」
 

救助隊の仕事が「世界で最も危険な仕事」と言われるのは、1度爆弾を落とした爆撃機が、救助隊を攻撃するために戻ってくるからです。
去年(2015年)10月、救助中だった隊員のイサムさんは、戻ってきたロシア軍機の爆撃で、命を落としました。



 

ホワイト・ヘルメット ラディ・サードさん
「僕が現場に到着すると、仲間はがれきの下でした。
戻った爆撃機のしわざです。
イサムの死は、大変なショックでした。
彼は、私の兄弟ような存在だったからです。」
 

イサムさんのいとこで、救助隊の責任者・ラエドさんも、人の救助をするとは思っていなかったと言います。




 

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「成り行きで隊員になりました。
最初は、救助のことは何も知らなかったので、われわれはイスタンブールで訓練を受けたのです。
母や兄弟が、がれきの下敷きになっているかもしれない。
それを発見しなければ、死んでしまうのです。」
 

「ホワイト・ヘルメット」は、これまでシリア全域でおよそ6万人の命を救ってきました。
彼らの活動は、過激なグループでさえ許可したといいます。

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「武装グループが支配する地域で活動するには、シリアのどこであれ、彼らと合意が必要です。
彼らには、われわれがいかなる政治集団や武装組織とも無関係だと、はっきりと伝えます。」

記者
「ISからも許可されているんですか?」

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「許可は求めます。
拒否されれば、立ち去るだけです。」

記者
「他にも、救助を行う組織はあるのですか?」

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「運営母体を持って救助活動を行う組織は、他にはありません。
われわれだけです。」

ラエドさんは、世界中で暴力の停止を呼びかけています。
去年、国連でも演説をし、今年(2016年)ノーベル平和賞の候補になりましたが、成果は出ていません。
 

記者
「壁を感じますか?」

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「以前からそうでしたが、今は鉄の壁を相手にしているようです。」

記者
「変化が起きなかったら、どうしますか?」

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「活動を続けます。
人命が救えるのですから。
人々がわれわれに希望を託してくれますし。」

希望あふれる瞬間は、2年前の夏に訪れました。

隊員のカレッドさんが、9時間もがれきを掘り続けていたとき、微かな泣き声が聞こえました。
生後2週間の赤ちゃんが、下敷きになっていたのです。



 

救助隊は、さらに数時間掘り続け、赤ちゃんの救出に成功しました。
この映像は瞬く間に、世界中に広まりました。
しかし、シリアでは、絶えず悲劇と隣あわせです。

カレッドさんはこの8月、空爆で命を落とし、亡くなった134人の隊員に加わったのです。




 

多くの犠牲と国際社会の沈黙があっても、組織の活動は続いています。




 

ホワイト・ヘルメット責任者 ラエド・サレハさん
「隊員たちと連絡を取ることも難しく、解決できない問題ばかりです。
でも、人を救う仕事を、きっと神様は報いてくれるでしょう。
コーランには、“最も慈悲深い行いは1人の命を救うことで、それは全人類を救うことである”とあります。
がれきの中から人を救うのは、全人類を救うことにつながるのです。」
 

「ホワイト・ヘルメット」の制服はラディさんの誇りです。
この若者にとって、シリアは、仲間とともに再建を目指す祖国となりました。

ホワイト・ヘルメット ラディ・サードさん
「革命以前は、祖国だという意識はありませんでした。
しかし今は、自分たちで再建しなければと思います。」

シリアの希望 “ホワイト・ヘルメット”

丹野
「自分の命が危険にさらされても、やめることなく続けてきたこの救助活動によって多くの人が救われてきた。
それは希望だと思うんですが、VTRにあったように、この現実の悲惨さから目をそらしてはいけないと感じました。」

山澤
「この“ホワイト・ヘルメット”の活動なんですが、現在シリア国内で行っていて、隊員の数はおよそ3,000人、拠点の数は115に上っています。

空爆が始まった当初は、救助活動の経験が全くなかったホワイト・ヘルメットの隊員たちですが、隣国のトルコやヨルダンで訓練を行い、負傷者の救助や消防の技術を身につけるようになったということです。
この訓練を提供しているのが、自然災害など危機対応の支援を行っている、国際的なNGO団体です。
その代表のジェームズ・ル・メジャラーさんに、ホワイト・ヘルメットについて話を聞きました。」

NGO団体 救助隊の支援は

山澤
「なぜあなたの団体は、“ホワイト・ヘルメット”を支援することになったのですか?」



 

メイデイ・レスキュー 代表 ジェームズ・ル・メジャラーさん
「私たちは、地震対応を空爆後にも応用できると思ったのです。
そこでトルコの救助ボランティアと共に、訓練プログラムと機材を用意して、爆撃直後にすぐ出動できるシリアの市民たちを支援することにしたのです。
最初の訓練プログラムは、2013年の3月に実施し、25人からなるチームを作り上げました。」

“ホワイト・ヘルメット” 救助隊の意義

山澤
「シリアの多くの団体のなかで、地元住民からなる“ホワイト・ヘルメット”はなぜ重要なのですか?」

メイデイ・レスキュー 代表 ジェームズ・ル・メジャラーさん
「最も重要なことは、ホワイト・ヘルメットがボランティアによる救助隊だということです。

隊員たちはその土地に住んでいるので、救出の必要がある現場近くにいます。
また、彼らはそのコミュニティーの一員なので、地元からの要望を聞きつつ、積極的な協力も受けられるのです。
さらに、彼らは人道主義に基づき中立を保っているので、絶望的な状況になりそうな場面でも、とてつもない希望と前向きに生きる力を市民に与えているのです。」

“ホワイト・ヘルメット” 命を懸ける救出

山澤
「“ホワイト・ヘルメット”の活動には、大変な危険が伴いますね。」

メイデイ・レスキュー 代表 ジェームズ・ル・メジャラーさん
「空爆は市民が住む住宅地の建物を標的に行われています。

“ホワイトヘルメット”が現場に出動すると、爆撃機は救助活動が始まるのを空で旋回して待っているのです。
そして、救急車や消防車が現場に急行しているのを見つけると、爆撃機は再度攻撃してくるのです。




いわゆる『ダブル・タップ(折り返し攻撃)』です。
残念なことに、現在までに141人の隊員がシリアで亡くなり、400人以上が重傷を負いました。
こうした厳しい状況におかれているため、ホワイト・ヘルメットの仕事は、世界で最も危険な仕事と言われているのです。」

国際社会へのメッセージ

山澤
「“ホワイト・ヘルメット”の活動に携わる立場から、国際社会へのメッセージをお願いします。」

メイデイ・レスキュー 代表 ジェームズ・ル・メジャラーさん
「最初に申し上げたいのは…シリアへの希望を捨てないでほしいのです。
シリアのごく普通の人々は、ただ毎日を生きていきたいと思っているだけなのです。
ホワイト・ヘルメットをみれば、シリアの人々がどんなに善良なのか分かります。
彼らはシリアの希望であり、前向きに生きる象徴です。
彼らのことは、多くは伝えられていません。
テレビで伝えられるのは、少数の憎しみと怒りに満ち、対立を繰り広げている少数の勢力のことだけです。
シリアの大多数の人々は、平和を望んでいるのです。
元の平凡な暮らしを取り戻したいのです。
ですから、シリアへの希望を捨てないでください。」

シリアの希望 “ホワイト・ヘルメット”

丹野
「現在のシリア情勢ですが、停戦が合意された後も空爆が続いており、先行きは非常に不透明です。」

山澤
「“ホワイト・ヘルメット”のホームページには、『戦闘が終結し、シリアに平和と安定が訪れたあかつきには、隊員たちを、国を再建する任務に従事させることを誓う』と記されています。
その日が、1日も早く訪れることを願いたいと思います。」

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