BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2016年5月30日(月)

知られざるアジア納豆の世界

私たちが日頃食べている納豆。
世界に類を見ない、日本独特の食べ物と思っていませんか?





ところが…。




 

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「すっごい糸引いてる。
これは同じだ。」


 

気鋭のノンフィクション作家が未知の「納豆」と遭遇したのは、日本から遠く離れたアジアの山間部。





中国南部からネパールまで徹底調査の結果、明らかになったのは個性的な納豆の数々。
日本だけのものと思われていた納豆がアジア各地の食文化を支えていたのです。
特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、日本人が知らないアジア納豆文化、その実像に迫ります。

アジア納豆文化 こだわりの理由

香月
「私たちは、知らず知らずのうちにさまざまな固定観念にとらわれていますが、世界に視野を広げることで、そうした誤りから脱することができる。
今日(30日)はそういうお話です。


ゲストをご紹介します。
ノンフィクション作家の高野秀行さんです。
高野さんは、過去30年にわたり、アジアやアフリカなどの辺境地を探訪。
その知られざる実情を記した本を、多数出されています。」

 

藤田
「今日のテーマ、アジアの納豆についても、取材された内容をまとめた本を先月(4月)出版されたばかりです。」

香月
「これまで世界のいろいろなところを訪ねてきた高野さんが、今回、なぜ『納豆』なんでしょうか。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「理由の1つとしては、日本人は、日本にいる外国人を見ると、すぐ『納豆を食べられますか?』と聞きますよね。
それが、まるで納豆が日本人の仲間入りをするための“踏み絵”みたいになっているように感じるんですよ。
それに違和感をずっと持っていまして。
というのは、私はタイやミャンマーで、日本の納豆とそっくりなものを食べているからなんですね。」

香月
「そっくりなもの?
例えば、食べ方も日本の納豆と同じなんですか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「食べ方はかなり違うんですよ。
3年前なんですが、日本に住んでいるミャンマーの少数民族で『シャン族』という人たちがいるんですが、その人に『日本の納豆はどうですか?』と聞いてみたんですね。
すると、『おいしいことはおいしいけれども、食べ方や味が1つしかないからね』と言われてしまったんですよね。」

香月
「『1つしかない』ということは、彼らにはもっといろいろな食べ方があるということですか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「そうなんですよ。
彼が言うには、『とうがらし味とか、にんにく味とか、しょうが味とか、他に食べ方も、煮たり焼いたり、蒸したり炒めたりと、いろいろあるんですよ』と、教え諭されてしまいまして。
本当にショッキングで、『これはもしかして日本って“納豆後進国”なの?』って、自分の『納豆観』がガラガラと崩れた感じがして、それで『アジアの納豆っていったいどうなっているんだろう?』と思って、調べに行ったのがきっかけです。」

藤田
「なるほど。
さっそくですが、高野さんがアジア各地で出会った納豆をご紹介していただきます。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「アジアの納豆というのは、基本的には日本の納豆と同じ大豆の発酵食品で、納豆菌とほぼ同じ菌でつくられています。
ただ違うのは、ワラではなくて、植物の葉っぱでつくられていることですね。
あと、いろいろな食べ方や利用法があります。

まずこちら、ミャンマー東部のシャン州の『せんべい納豆』です。」

香月
「これがそうなんですか。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「そうです。
納豆をつぶして平べったくして、天日に干したものですね。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「現地の人に直接習って、せんべい納豆を作ってみました。

庭で、まず大豆を煮込みます。」

香月
「庭でやるんですね。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「そうですね。
豆はやわらかくなるまで煮ます。

それを、シダを敷いた籠の中に入れます。
ワラじゃなくて、シダで発酵させるんです。」



 

さらに、プラスチックの袋で包んで発酵させます。」

藤田
「しっかり包んでいますね。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「はい、温かいところに置きます。

そして3日後、開けてみると…。





できています。
糸は引いていないんですが、しっかりと納豆になっています。
おいしいです。



次に、つぶしてだんご状にします。
あまり糸引きがない方がつぶしやすいですね。」



 

香月
「丸めるんですね。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「そうですね。



それを植物の葉っぱを使って平べったく伸ばして、天日干しにします。」

香月
「もうすっかりせんべいになっていますね。」


 

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「3、4日後、パリパリのせんべい納豆の完成です。




炭火であぶります。」

藤田
「わあ、香ばしい感じですね。」


 

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「これが、ビールに合うんですよ。
これは私が希望しているだけで、現地の人たちはおかしいといって笑いますが。
『納豆はごはんのおかずで、酒のつまみにはしない』って言うんですけれども、でもすごく合うんですよ。」

ミャンマー東部の「せんべい納豆」

香月
「この『せんべい納豆』ですが、プレーンのものですとか、とうがらしが入ったものなど、いろいろあるそうですが、今日は持ってきて頂きました。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「こちらがせんべい納豆で、プレーンのと、味付きのがあります。」

藤田
「味付きというのは、どういったものですか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「とうがらしやもち米が入っていたり、根ニラという、ニラとニンニクの中間のような味のものがあります。」

藤田
「なるほど。
3つある味の中で、私、こちらのプレーンの味のものを試食してみたいと思います。



さっそくいただきます。
納豆の風味がギュッと詰まっていますね。
そして食感は本当にパリッとしていて、歯触りがいいですね。
お酒に合いますね!」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「そう、これはお酒が飲みたくなるんですよ。」

香月
「せんべい納豆を紹介頂きましたが、ミャンマーには、他にはどんな納豆があるんでしょうか?」



 

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「他にもいろいろな納豆がありまして、これはパオ族の『碁石納豆』です。
せんべい納豆よりも厚くて、強いにおいです。
主に汁物に入れます。


市場にこうやって売ってますと、納豆とは全くもってわからないです。」




 

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「こちらはカチン族の『糸引き納豆』。
日本の納豆にそっくりです。
糸もよく引いています。
ただ、葉っぱに入れていて、葉っぱで発酵させています。

ねばねばで、すごい糸引きです。





こちらが『みそ納豆』。
味を付けて、みそ状にしています。」

香月
「これが納豆ですか。」

 

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「いろいろな食べ方があるんですけれども、もち米につけて焼くと、焼きおにぎりそっくりな感じになりますね。」

藤田
「これは日本人にも、おなじみな感じですね。」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「でも、ちょっと納豆の風味がして、すごく香ばしいです。」

藤田
「おいしそうですね。」

アジア納豆は貴重な調味料

香月
「ミャンマーの納豆文化、恐るべしといった感じですけれども、ミャンマー以外のアジアの他の地域では、どうなのでしょうか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「ミャンマーのみならず、アジア全体で中国南部、ラオス、タイ、インド、ブータン、さらにいちばん西はネパールまで広がる、広大な地域でいろんな民族が納豆を食べています。
この地域に共通するのは、みんな内陸部の山岳地帯や盆地だということです。
動物の肉や、魚、塩、油が入手しづらい所に納豆の文化が発達したと。
貴重なタンパク源でもありますし、うまみ調味料としても活用しています。」

香月
「その、料理というのはどんなものがあるんでしょうか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「実際に、私も料理を習ってみました。

これはシャン族のせんべい納豆ですが、まず、これをついて粉にするところから始まります。





そして、とうがらしや、にんにくなど、いろいろな調味料を入れます。
出来上がったんですけれども、これ、みんな納豆料理です。




青菜の納豆汁に…。





それから、納豆としょうがのあえ物です。





納豆と野菜の炒め物。





こちらは納豆と川のりのディップ。
野菜をつけて食べます。




これはみんな、本当に和食に似ています。」

香月
「和食ですか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「でも、『想像できない和食』という、不思議な感触ですね。」

藤田
「料理もバラエティーに富んでいるんですね。
ところで、納豆というのは主に山岳地帯や盆地に見られるということでしたけれども、アジアの他の地域では、納豆は見られないのでしょうか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「そうですね。
他の地域では肉や魚といったタンパク質がありますし、それから別の調味料を発達させているんですね。

こちらをご覧ください。
タイやミャンマーですと魚醤。
それからインドは、カレー。
チベットは牧畜文化で、チーズを食べています。
それから、ここには書いていませんが、漢民族が住んでいる中国のエリアは、みそや醤油、油を多用しています。
恐らく納豆は必要ないんだろうと思うんですね。
そういうものが入手しづらいマイノリティの人が納豆を食べていて、ゆえに納豆は豊富な文化圏を形成しているんだと思います。」

香月
「ただ、日本には、納豆もしょうゆも両方ありますよね。
それはどういうことなんでしょうか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「正直言ってその辺は、よくわからないんですよ。
というのは、納豆というのは本当に謎が多い、未知のものなんですね。
この辺は今後も調べていきたいと思います。」

香月
「そして日本では、『納豆は日本独自のもの。海外のものは認めない、偽物だ』という考えの人もいるようですが、実際に海外で現地のものを食べて、ご覧になった高野さんは、そういう考えをどう思いますか?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「今、農水省が、納豆の国際規格化を推進しているという報道を目にするんですが、実は、『うちの納豆だけが本物で、他は違う』というのは、アジアの納豆民族全体に共通する感情なんです。
ぼくはそれを、『手前みそ』ならぬ『手前納豆』と呼んでいるんですが、まさに今の日本の動きは『手前納豆』意識が爆発しているという感じなんですね。
これは本当にもったいないと思うんですよ。
というのは、日本は納豆後進国、途上国なので、逆に言うと、これからまだまだ発展する可能性があるんですね。
他の『納豆諸国』の『納豆民族』から学んで、新しい納豆や食べ方を開発していくべきだと思います。」

香月
「まだまだ納豆には多くの可能性があると?」

ノンフィクション作家 高野秀行さん
「無限の可能性があると思います。」

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