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特集

2017年5月31日(水)

混迷するベネズエラ

 
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ベネズエラで相次ぐ反政府デモ。
混乱の大きな要因が、とどまるところを知らないインフレです。
ニンジンが、1,500円!?
おむつは、なんと1万円!?

「危機的だ、あまりにもひどすぎる。」

「もう、うんざりです。」

ベネズエラで今、何が起きているのか。
現状とその行方を見つめます。

混迷 ベネズエラ

花澤
「『21世紀の社会主義』を掲げ、南米の反米左派政権の象徴的な存在だったベネズエラ。
今、混乱を極めています。
背景に何があるのか、今夜は特集でお伝えします。」

増井
「まずは、ベネズエラとはどんな国なのか、松岡さん、お願いします。」

松岡
「南米にあるベネズエラ。
日本の2.4倍ほどの国土に、およそ3,000万人が暮らしています。

原油の埋蔵量は世界一。
およそ3,000億バレルと言われる確認埋蔵量は、世界全体の2割近くを占めています。

この原油を利用して、国の改革を推し進めたのが、チャベス前大統領です。
99年に就任して以来、14年間にわたって政権を維持してきました。
チャベス前大統領が掲げたのが『21世紀の社会主義』。
豊富な石油収入を貧困層の医療や教育などに還元し、全国民が豊かになることを目指すものです。

しかし、チャベス氏の死去に伴いマドゥーロ氏が政権を引き継ぐと…。
その半年後に原油価格が半分以下に急落、経済は一気に悪化したのです。

増井
「今、ベネズエラの市民生活には、何が起きているのか。
現地からの報告です。」


混迷 ベネズエラ 困窮する市民生活

リポート:藤本雅也支局長(サンパウロ支局)

ベネズエラの首都・カラカス。
今、深刻な物不足が人々の暮らしを直撃しています。

藤本雅也支局長(サンパウロ支局)
「こちらのスーパーマーケットの前には、小麦を買い求めようと大勢の人が列を作っています。」

食料品や生活必需品は、半日以上並んでも手に入らないことがあります。

「私は80歳になります。
同い年の妻は朝の5時から並んでいました。
もう、うんざりです。」

客どうしのもみ合いも絶えません。

「私が先よ!」

「列を作れ!」

物資不足は、極端な物価の高騰「ハイパーインフレ」を引き起こしています。

アメリカから輸入されたこの紙おむつは、1パックで1万円余り。
もはや庶民には手が届きません。

スーパーのニンジンは、1キロ1,500円以上。
去年(2016年)2月に比べ、12倍に跳ね上がっています。
こうした経済の混乱の背景には、チャベス前大統領の経済政策があります。
格差是正を掲げた、チャベス前大統領。
国内の物価を抑えるため、生産者に価格を安く抑えることを命じました。
その結果、生産しても利益が上がらなくなって生産者の意欲はそがれ、国内の製造業は衰退。
ベネズエラ政府は、潤沢なオイルマネーを元手に、輸入に頼る経済政策を推し進めました。
ところがその後、原油価格が急落。
輸入に充てるお金が不足し、深刻な物不足に陥りました。

4年前、チャベス前大統領の死後その後を継いだマドゥーロ大統領。
ハイパーインフレが続いて国民の支持は低迷し、一昨年(2015年)の議会選挙では野党に敗北を喫しました。
しかし、マドゥーロ政権の強い影響下にある最高裁判所が、野党が多数を占める議会の権限の停止を決定する措置をとりました。

この対応に猛反発した市民による大規模なデモを、政権側は軍を動員して鎮圧。
これまでに60人の死者が出る事態となっています。

危機的な状況に耐えかねて、祖国を後にする人も出始めています。
ブラジル北部、ベネズエラとの国境に位置する町、パカライマです。
この男性は5人の子どもを連れて、ベネズエラから逃れてきました。

ヨン・バエスさん
「ここではスーパーや食品店に食べ物があります。
しかしベネズエラには何もないのです、何一つないのです…。」

近郊の都市・ボアビスタでは、去年末からNGOが避難所を運営しています。
250人ほどが身を寄せるこの避難所。
増え続ける避難民に、支援物資が追いつかないといいます。

NGOスタッフ
「1日に200人から300人分の食事が必要ですが、物資が足りません。」

市民たちの苦しみが続くベネズエラ。
経済と政治の混乱が収まる気配はありません。


市民の様子は

増井
「取材にあたっている藤本支局長に聞きます。
状況はかなり深刻なようですが、取材をしていて市民の受け止めをどう感じましたか?」

藤本支局長
「1年半ぶりにベネズエラを訪れたのですが、以前よりも私たちの問いかけに市民がよく応じてくれるという印象を受けました。
『現状を世界に伝えてほしい』と歩み寄ってくる人までいて、現況に対する不満や怒りが相当たまっていることを強く感じました。」


混乱の打開策は?

花澤
「混乱の収拾に向けた打開策は何かあるんでしょうか?」

藤本支局長
「難しいと思います。
4月からほぼ毎日、各地でデモが続いていますし、現地で行われていたデモで命を落とした人を追悼する集会では、参加者たちからは怒りとともに、『やるせなさ』や『もどかしさ』を同時に感じました。
デモの犠牲者には10代の少年少女も少なくありません。
国民が選んだ議員による議会すら停止させ、デモが起きれば武力で弾圧し、みずからに権力を集中させようとするマドゥーロ大統領に対する国民の怒りは増すばかりです。」


ハイパーインフレ なぜここまで

増井
「スタジオには、ジェトロ・アジア経済研究所のラテンアメリカ研究グループ長、坂口安紀(さかぐち・あき)さんにお越しいただいています。
ベネズエラで今、驚くほどのハイパーインフレが進んでいますが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか?」

ジェトロ・アジア経済研究所
ラテンアメリカ研究グループ長 坂口安紀さん
「今もひどいんですが、過去10年ほど、ベネズエラは世界1位から3位くらいになるほどの高いインフレ率をずっと継続してしまっているんです。
政府がデータを出さなくなっていますので公表データはないんですが、国内外のシンクタンクやIMF(国際通貨基金)の推計値によりますと、250~700%と、いずれにせよ3桁の非常に高いインフレ率です。

これはいくつかの原因が複合的に作用していて、1つは『深刻な物不足』です。
先ほどもあったとおり、国内の生産活動が政府によって非常に落ち込む状況にあって、以前は国産品が出回っていたものがなくなって足りなくなってきて、それを輸入品で埋めていたのですが、ここ数年の石油価格の下落によって外貨不足に陥っていて、輸入もままならなくなっていること、この『物不足』が価格を引き上げているというのが1つ。
もう1つは、ここまでのハイパーインフレになると、通貨価値の問題になっています。
チャベス政権時代から今のマドゥーロ政権に至るまで財政赤字が非常に膨らんでいて、それを埋めるために政府が中央銀行に圧力をかけて紙幣を大量に発行させ、それによって赤字を埋めるということをしています。
その結果、大量に紙幣が出回るので、通貨価値が下がっているということです。」


国民の反発にマドゥーロ政権は?

花澤
「そういう状態であれば当然、国民の不満が爆発しているわけですよね。
マドゥーロ政権はどう対処していくのでしょうか?」

坂口安紀さん
「先ほどもあったように、皆さん非常に不満を抱えていて、政権を維持するためにはそれに対して抑圧的にならざるをえないんですね。
今回は3月末に政府が支配する最高裁判所が、反マドゥーロ派がマジョリティーを握った国会議会の権限を停止してしまったんです。
それが一気に国民の不満に火をつけたわけです。
しかしそれは憲法に違反することなので、国内外から反発もあり、その決定自身はすぐに撤回されたんですが、民主主義の価値観や、憲法を尊重しない政府であるということで、国民の抗議行動が、もう2か月間やまない状況が続いています。」

花澤
「憲法の改正というのも強権化の1つとして起きているんですよね?」

坂口安紀さん
「マドゥーロ大統領が政治的な混乱をしずめるためとして、憲法を新しくすると。
そのための憲法制定議会を開くと発表したんです。」

花澤
「作り直す、ということですね。」

坂口安紀さん
「ですが、そのプロセス自身が現憲法の、憲法違反なんですね。
さらに政権寄りの人がより多く参加するような仕組みでやるということを言っていますので、これも民主主義に反するということで、反政府派のリーダーや市民の怒りをかっているということですね。」

花澤
「そこまで強権化を進めて、大統領に対しての反発の声はないのでしょうか?」

坂口安紀さん
「もちろん、国内でもマドゥーロ政権に対する批判は非常に強いですし、支持率は大きく下がっています。
国際社会からも非常に強く批判されています。」


アメリカはどう出る?

花澤
「チャベス前大統領が始めたこの反米左派政権ですが、チャベス大統領といえば、国連総会でブッシュ大統領を『悪魔』と何度も呼んでののしったことで有名な演説がありましたが、アメリカは、いわば『アメリカの裏庭』といわれるベネズエラの惨状に、どう対応しているのでしょうか?」

坂口安紀さん
「今回、トランプ政権が立ちましたので、やはり状況は変わりつつあります。
トランプ大統領ははじめに『アメリカファースト』と言っていたので、マドゥーロ大統領は様子見をしていました。
アメリカでも大統領や議会などそれぞれ対応が違うのですが、2月にはベネズエラの副大統領が麻薬取引に関与した疑いで、アメリカにある、彼が持っている資産を凍結するなど経済制裁の対象になっています。
今回も、最高裁が国会の機能・権限を停止するというのは民主主義に反するということで、最高裁の判事たちに対しても同じ制裁措置がとられています。」

花澤
「アメリカもある意味関与している、トランプ政権は予想と反して関与し非難していると。
関心は高まっているということでしょうか?」

坂口安紀さん
「議会や財務省はそうですが、トランプ大統領はどうなのか、ちょっと分からないところがあります。
ただし、5月になってから、彼が初めてベネズエラを人道的にひどい問題だと批判していますので、今後どうなるかは様子見ですね。」

花澤
「国際社会も関心を持って見守っていかなければいけませんね。」

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