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特集

2017年1月11日(水)

ロシアとトルコ急接近!シリアをめぐる思惑

 
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5年にわたって続くシリアの内戦が、今、大きな転換点を迎えています。






シリア政府軍 報道官
「(アレッポ制圧は)重要な転機となる勝利だ。」




先月(12月)、アサド政権が反政府勢力の最大拠点アレッポを制圧。
シリア全土での停戦が発効したのです。




背景にあるのが、これまで対立してきたロシアとトルコの急接近です。
一昨年(2015年)、トルコ軍がロシア軍機を撃墜した際に、著しく悪化した両国の関係。




ロシア プーチン大統領
「トルコの犯罪を絶対に許さない。」




トルコ エルドアン大統領
「ロシアは火遊びをするな。」




ところが今、にわかに関係を改善。
シリアの停戦をアメリカ抜きで実現させ、和平協議の再開に向けた調整も進めています。
ロシアとトルコの思惑、そして、シリア内戦への影響は?
現地からの報告です。


田中
「アレッポ陥落で、新たな段階へと進みつつあるシリア情勢。
今、そのカギを握るとも言われているのが、トルコとロシアの関係です。」

佐藤
「シリアでは、アサド政権、反政府勢力、過激派組織IS=イスラミックステート、それにクルド人勢力なども入り乱れて、内戦が続いています。
このうち、アサド政権をロシアが、反政府勢力をアメリカなどが支援し、いわば大国の代理戦争の場ともなってきました。
NATO加盟国でもあるトルコはアメリカとともに反政府勢力の側に立ち、ロシアとは対立する関係にありました。

ところが今、ロシアとの関係を急速に改善。
先月には、アメリカ抜きでロシアとともにシリア全土の停戦を実現させました。」

田中
「トルコがロシアに急接近する中、打倒アサド政権を掲げて戦ってきた反政府勢力は窮地に立たされています。」

トルコ・ロシアが急接近 窮地に立つ反政府勢力

リポート:土屋悠志記者(カイロ支局)

先月、アサド政権が制圧した北部の主要都市・アレッポでの戦闘。
トルコの姿勢が大きく変わったことが印象づけられました。




アサド政権はロシア軍による空爆の支援を受けて、反政府勢力の支配地域を激しく攻撃。
ところが、それまで反政府勢力に武器など戦闘を続ける上で必要なさまざまな支援をしてきたトルコは、軍を派遣するなどの加勢は行わず、事態を静観しました。




さらに、反政府勢力に戦闘停止を働きかけ、ロシアとともに停戦の仲介も行いました。
こうした動きに、反政府勢力は焦りを強めています。

シリア人ジャーナリストのムーサ・オマルさん。
反政府勢力側に立った報道を続けてきました。




シリア人ジャーナリスト ムーサ・オマルさん
「トルコが今後も本当に支援を続けてくれるのか、分からなくなってきました。」




この日、オマルさんはトルコを拠点にする反政府勢力の活動家などと面会しました。
活動家からは、このままでは内戦がロシア主導で押し切られると危惧する声が聞かれました。




反政府勢力の活動家
「ロシアはあらゆる面でシリアへの関与を強めています。」




内戦に決定的な影響を与えることとなった、ロシアとトルコの接近。
反政府勢力側には無力感が広がっています。

シリア人ジャーナリスト ムーサ・オマルさん
「トルコとロシアの接近で(アサド政権が守られ)、シリアの人々は傷つくことになるでしょう。
結局、代償を払うのはシリア国民なのです。」


トルコの思惑は

田中
「トルコとロシアに中継がつながっています。
まず、イスタンブールにいる土屋記者に聞きます。
トルコは今、なぜロシアと接近しているのでしょうか?」

土屋悠志記者(カイロ支局)
「1つには、シリア内戦で政府軍の優勢が決定的になったことで、トルコが目指してきたアサド政権打倒が遠のいたことがあります。
さらに国内では、相次ぐテロ事件に加えてクーデター未遂まで発生し、その上、シリアからの難民が300万人近くに達する中、もはや隣国の内戦に力を注いでいる場合ではなく、自分の国を守ることが最優先の課題になったんです。」

イスタンブール・ビルギ大学 イルテル・トゥラン教授
「トルコ政府は、アサド政権が存続に必要な支援を得られないと見ていたが、その想定は間違っていたことが明らかになってきた。
トルコは今、(アサド政権打倒よりも)シリア北部でクルド人勢力を抑えることを重要視している。」


土屋記者
「専門家が指摘するように、トルコが特に今、神経をとがらせているのが、シリア側の国境付近で支配地域を拡大しているクルド人勢力の存在です。
トルコ政府は、この勢力がトルコ国内でテロ事件などを起こしている武装組織とつながっているとして抑え込もうと、シリア北部に地上部隊を送りこんでいます。
ロシアはこうしたトルコの行動に理解を示しているんです。」


アメリカへの不信感も

佐藤
「一方、ともに反政府勢力を支援していたアメリカとの関係はどうなっているんでしょうか?」

土屋記者
「シリア情勢をめぐって、両国の関係は急速に悪化しました。
それは、トルコが脅威だと見なすクルド人勢力に対して、アメリカがISと戦わせるため軍事訓練などの支援を続けたからです。
トルコとしては『アメリカはトルコよりもクルドを選んだ』と受け止め、オバマ政権に対する不信感を深めました。
このアメリカの態度が、トルコをロシアに向かわせたともいえます。

また、トランプ次期大統領については、トルコは『オバマ政権よりはましだろう』と期待はするものの、クルド人勢力への態度を明らかにしていないこともあり、まだ様子を見ている段階です。
ただ、そのトランプ氏自身がすでにロシアとの協力姿勢を見せており、今後ますますトルコがロシアに接近するのは必然の流れと言えそうです。」




ロシアの思惑は

田中
「次に、モスクワの渡辺記者に聞きます。
一方のロシア側は、なぜトルコに接近したのでしょうか?」

渡辺公介記者(モスクワ支局)
「ロシアの狙いは、シリアの内戦をアサド政権に有利な形で終結させることです。
そのためには反政府勢力との協議は不可欠で、トルコと手を組んだわけです。



ロシアはこれまで、反政府勢力を支援するアメリカと、シリア内戦の終結を目指して停戦の仲介などを行ってきました。
しかし、アメリカは政権交代の時期も重なり、反政府勢力への影響力の低下が目立っています。
そこで、関係修復に動いていたトルコと手を組んだ方が得策と判断したものとみられます。
さらに、トランプ次期政権がシリアをめぐってロシアへの協力姿勢を示している今こそ、軍事的にも政治的にも攻勢をかけたいのが本音だと思います。」



ロシアが狙う 中東への影響力拡大

佐藤
「シリアの内戦の終結を見越した、ロシアの最終的な狙いは何なのでしょうか?」

渡辺記者
「まずは、アサド政権などの親ロシア政権を維持し、シリアへの影響力を確保すること。
さらには、中東地域での影響力を高める狙いがあるものとみられます。
また、NATOの一員であるトルコへの接近は、ロシアが安全保障上の脅威ととらえるNATOの足並みを乱したいという思惑もあるものとみられます。


ロシアが理想として描くのは、トルコやイラン、それにサウジアラビアなど中東地域の大国が、アメリカのような超大国の影響下に入らない多極化した世界です。
これを実現するためにも、ロシアは、イスラム教スンニ派が多数を占めるトルコだけでなく、シーア派の大国・イランとも接近しています。
ただ、ロシアは中東地域で絶大な影響力を振るえるようになるという過度な期待をしているわけではありません。
この地域の大国どうしの利害が衝突したときの、いわば『調整役』としての役割を担うことで、この地域への影響力を高めたい思惑があるものとみられます。」

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