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特集

2017年1月4日(水)

シリーズ『2017世界は…』 (1)右派台頭・欧州はどこへ

 
放送した内容をご覧いただけます

新年を迎えたヨーロッパ。
しかし、試練が目の前に…。





フランス オランド大統領
「民主主義・自由・社会的権利、ヨーロッパ、そして平和が弱体化している。」




ドイツ メルケル首相
「現実が険しくても、『ヨーロッパ』全体で責任を果たすべき。」






首脳たちが訴えたのは目の前の厳しい現実、そしてヨーロッパの結束。

各地で相次ぐテロ。





押し寄せる難民・移民。





そして右派勢力の台頭。
そうした中、ドイツやフランスなどで次々に選挙が行われます。
揺れるヨーロッパ。
2017年、その行方は…。

激震のヨーロッパ

田中
「新年はじめの今週はゲストをお迎えして、激動する世界をシリーズで展望します。
今日(4日)は、今年(2017年)選挙が相次ぐヨーロッパです。」



佐藤
「スタジオには、ヨーロッパ政治がご専門の、北海道大学大学院教授・遠藤乾(えんどう・けん)さんにお越しいただきました。」

田中
「早速ですが、遠藤さんには今年のヨーロッパを読み解くキーワードを用意していただきました。」


北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「キーワードと言うには恥ずかしいんですが…『もしルペ』。
これは、『トランプ大統領がもし大統領になったら』という時に、『もしトラ』という言い方がありましたよね。
『もしもマリーヌ・ルペン氏がフランスの大統領になったら』、そういったことが注目の年かと思いますね。」

田中
「ルペン氏というと、極右政党の党首ですね。」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「そうですね、国民戦線の。

今年は、実はヨーロッパで大型の国政選挙が相次ぎまして、3月のオランダ、4〜5月のフランス、それから9月といわれているドイツの連邦議会選挙。
その中でも天王山は、4月の末に第1回の選挙、5月の頭に決選投票があるフランスの大統領選挙だと思います。
こういうEUを構成する加盟国において、その中のデモクラシー、民主主義が問われる試練の年になるかと思いますね。」

田中
「その焦点が『もしルペ』ということですか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「そうですね。
もし極右の国民戦線のルペン氏が大統領になってしまうと、EUが大国であるフランスによって非常に足もとから揺さぶられてしまう、そういう年になってしまう可能性を秘めていて、へたするとEUが底抜けするリスクを負うということにもなりかねません。」


試練の年を迎えたEU

佐藤
「そして、加盟国を束ねてきたEU=ヨーロッパ連合も正念場の年を迎えます。
EU本部・ブリュッセルで取材にあたっている長尾支局長に聞きます。」

田中
「ブリュッセルのEU本部は、どんな雰囲気でこの『試練の年』を迎えているんでしょうか?」

長尾香里支局長(ブリュッセル支局)
「新年の晴れ晴れとした雰囲気はなく、来たるべき嵐に身構えるような緊張感が漂っています。
ここ数年、EUにとっては実に苦難の連続でした。
ウクライナ危機に、ギリシャの財政危機。
そして各国でテロが相次ぎ、難民の急増が混乱を招いています。
中でも去年(2016年)、イギリスが国民投票で離脱を決めたことは計り知れない衝撃を広げました。
EUは冷戦後、東欧を含む28か国にまで拡大し、『世界の中の勝ち組』としての意識が強かったのだと思いますが、現状は一転しています。
『攻め』の姿勢ではなく、危機を乗り切るための『守り』に追われているのが実情です。
ハードルを越えても越えても新たな難題が立ちはだかる現状について、取材したあるEUの委員は『もういい加減たくさんだ』とこぼしていました。」

田中
「今年のヨーロッパの行方を占う上で最も影響が大きいと言われているのが、4月から予定されているフランスの大統領選挙です。」

佐藤
「注目を集めているのが、極右政党を率いるルペン党首への支持の広がりです。」


仏 極右が支持拡大

リポート:竹田恭子記者(ヨーロッパ総局)

国民戦線 マリーヌ・ルペン党首
「フランスをあるべき姿に戻しましょう、国民の名のもとに!
共和国万歳!フランス万歳!」

大統領選挙に向けて、急速に支持を広げているフランスの極右政党、国民戦線。
2011年から党を率いているマリーヌ・ルペン党首が力を注いできたのが、党のイメージの刷新です。

1972年に創設された国民戦線。
ルペン党首の父親で、初代党首のジャンマリー氏は、過激で差別的な発言を繰り返してきました。
ルペン党首はそんな父親を党から追放。
差別的な主張は控え、国民の生活を守ることを第一に掲げる戦略に転じたのです。
そんな「極右」カラーを押さえる作戦が功を奏して、支持層は拡大。
世論調査でルペン氏の支持率は、今やトップと僅差にまで迫っています。

国民戦線 フィリポ副党首
「今の党員の8割は、2011年に現体制になってから党に加入しました。
たくさんの人が、特に若者が加わったことで、党はいい方向に大きく変わったのです。」



国民戦線のもとには、歴代の政権にかえりみられてこなかったと感じるさまざまな人たちが集まっています。

フランス西部のフジェールで先月(12月)開かれた、国民戦線の集会です。
町では去年10月、およそ100人のアフリカなどからの移民を受け入れたことに、多くの住民が不満を抱いていました。




国民戦線 地区幹部 ジル・ペネル氏
「彼ら(移民たち)には、住まいも食料も医療も与えられています。
移民たちは、われわれよりも優遇されているのです。」



集会参加者
「社会的に不公平な状況がひどくなっていて、もううんざりです。」

集会参加者
「移民に敵意はないが、(政府には)私たちフランス人のことを第一に考えてほしい。」


イギリスと同様、EUからの離脱を国民に問うという国民戦線の公約も、各地で支持を広げています。

その1つが農村部です。
多くの農家が経営難に陥り廃業を余儀なくされていて、2日に1人のペースで自殺者が出ているともいわれています。

国内最大の酪農地帯があるブルターニュ地方。
ここで11年前から酪農を営んできた、ニコラ・ムニエさんです。




ニコラ・ムニエさん
「状況は悪くなる一方です。
できる限り続けたいですが、疲れました。」



およそ60頭の牛を飼育し、飼料とする穀物なども生産していますが、人を雇う余裕もなく、作業はすべて1人で行っています。

食品の品質管理に厳しいEUから毎年新たな設備投資を迫られる一方で、乳製品は各国との競争にさらされ、価格が大幅に下落。
収入は11年前の半分に減ったといいます。
EUと歴代の政権に失望したニコラさんは、国民戦線に望みを託すようになったといいます。



ニコラ・ムニエさん
「政治家はEUに従うだけ。
農家は今やEUの支配下にあり、見捨てられたのです。
国民戦線にはフランスを目覚めさせてほしい。」


国民のさまざまな不満や怒りの受け皿となり、支持層を広げてきた国民戦線。
ルペン党首はきたる大統領選挙に向けて、フランスだけでなく、EUの運命をも左右する存在になろうとしています。


激震のヨーロッパ

田中
「再び遠藤教授にうかがいます。
今のリポートを見るとルペン氏の勝利がありえるんじゃないかという気がしてきましたが、先ほどのキーワード、『もしルペ』。
これがありえるんでしょうか?」



北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「世論調査によると、7:3くらいで、決選投票で中道右派のフィヨン候補に負けるのではと出ているんですが、7:3というのは、今のこの時代ですと『10回やると3回くらい勝つ可能性がある』くらいに思った方がいいと思うんですね。
その可能性はあると思います。」

田中
「そしてその背景はどう分析したらいいでしょうか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「もともと、国民戦線、ルペン氏の政党というのは、移民、外国人、あるいはイスラム教徒に対して非常に嫌悪感というものを持っていた政党で、そういう国民感情に乗じてきたところがあるんですが、そこにさらに難民危機やテロ事件などが起きて、さらに波乗りがうまくできるようになったということでしょうね。
それだけではなく、乗り方がうまいんですね。
フランス流の価値観というか、共和主義というんですが、例えば表現の自由とか、男女間の平等とか、あるいは政治に宗教を持ち込まないとか、そういったことを使いながら、『これがフランス流でしょ』と、それにイスラム教徒はなかなか乗ってきてくれない、だから外に追い出すんだと、そういう言い方なんですね。
その分、主流派に受け入れられる余地があると。
その分、危険だということになりますね。」

田中
「『ソフト路線』ということですね。」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「そうですね。
実は一皮むけると、かなり国民戦線の支持者たちの間には排外主義といいますか、人権軽視、多文化主義に対する嫌悪感、そういったものが残っているんですが、先ほども言った共和主義・フランス流の価値観の名のもとにイスラム教徒を追い出せと、そういう言い方になっている分、ソフト路線という言い方もできるかと思います。」

田中
「一方で既存の政党の政治家が、そうした国民の不満をすくいきれていないという面もあるんでしょうか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「ありますね。
今は社会党政権なんですが、労働者の不満、これは移民が入ってきて自分たちの給料が上がらない、職業が不安定になる雇用、そういう不満というのが本当はあるんですが、フランスの現在の政権政党である社会党は、それに対してあまり応じてくれない。
候補になるのはこのバルス氏なのかもしれませんが、今の大統領はオランド大統領ですね。
彼らに対する不満があって、既成政党批判というのがまん延している中に、国民戦線が乗っかっているということがあると思います。」

田中
「そうした構図というのは、フランスだけでなくヨーロッパ各地でも見られるということでしょうか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「そうですね。
やはり緊縮財政の中で経済が非常に停滞していて、例えばイタリアなどが典型ですが、既成政党批判、反EU感情、こういったものが反グローバル化と相まって、非常に高揚しているのが現状かと思います。」


求心力が問われるEU

佐藤
「ここでご覧いただきたいものがあるんですが、こちらの地図です。
各国でEUに反発する政党を表したものです。
ご覧のように、EU加盟国での台頭が続いているんです。
それでは、再びブリュッセルの長尾支局長に聞きます。」

田中
「EU各地で『反EU』の嵐が吹き荒れ、EUの求心力や存在意義もがかつてなく問われているのではないでしょうか?」

長尾支局長
「その通りだと思います。
去年後半から、EUのトゥスク大統領から、ナショナリズムやポピュリズムを非難する発言が目立つようになりました。
加盟国から『反EU』の火の手が次々と上がっていることへの危機感の表れといえます。
さまざまな国で取材していると、EUのジレンマは深まっていると感じます。

人やモノの自由な行き来など、EUは大きな恩恵をもたらしてきたが、そうした成果を脇に置いてEUへの不満を強調する市民は少なくありません。
各国の政治家の間に『EUを擁護すると票を失う』と捉える向きすら生まれているといいます。
イギリスのEU離脱決定に続く、今年のフランスとドイツの選挙で、誰がリーダーに選ばれ、どのように国を率いていくのかは、ヨーロッパの統合が進むのか後退するのかを決定づける重要な分かれ道になります。」



仏・独選挙がEUに及ぼす影響

田中
「フランスとドイツの選挙が特にカギになるという話でしたが、遠藤さんはどう見ていらっしゃいますか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「まったくその通りだと思いますね。
ドイツ・フランスというのはEU統合を下から支えてきた2つの大国でして、ここの国政が揺らいでしまうことになって、反EUの政党が政権にかむようなことになると、EUそのものが揺らぐという、大変なことになると思っています。」

田中
「特にフランスですが、先ほどの『もしルペ』、それが本当に起きてしまったらどういうことが予想されますか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「もはや可能性というのは考えておいた方がいいと思うんですね。
可能性が『高い』というふうに言っているわけではないのですが、可能性が『ある』。
そうなった場合のことを考えますと、大変なことになると思いますね。

フランスというのはもともと非常に難しい国で、EU統合を左右してきた国なんですが、そこが反EUにふれてしまいますと、本当はEUでいろんな統合をはかっていかなければいけない瞬間に、先ほど『防御的』というのも出ていましたが、そちらの方に余儀なくされるということで、この後、必要な統合がはかれないということになっていくかと思います。
ただ他方で、大変なことにはなるんですが、すぐさまEUが崩壊するかというと、そこもまた早とちりする人も多くて、まずルペン氏が大統領になるかもしれませんが、その国民戦線、与党が議会で多数派を取るということはまずないと思っていいと思うんです。
そうすると首相指名とか、組閣とか、あるいは主要な政策で思い通りのことは大統領はできないという可能性もあります。」

田中
「連立になってくると?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「その可能性もあります。
それから、いきなりフランスをEUから外に出すかどうか、それをイギリスのように国民投票で問うというのも、大統領になったあかつきのルペン氏にとってはかなりリスクの高いことで、もし負けたりなんかするとすぐレームダック=死に体になってしまう可能性もある。
だからおそらくフランス国民にとっていちばん不人気な移民とか、人の移動の自由をつかさどるシェンゲン協定、こういったところから手をつけて、次第にユーロや緊縮財政とか、そちらの方に向かっていくのではと想像しています。」

田中
「一方でEUの『守護神』ともいわれているメルケル首相率いるドイツはどうなりそうでしょうか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「ここでも、AfD(ドイツのための選択肢)という極右の勢力が、たぶん激しく票を伸ばしてくるだろうと想像できます。
私自身、20%ほどとっても驚かないようにしようと考えています。
他方で、ドイツの政党政治というのは日本で報道されている以上に非常に安定しているところがありまして、おそらく主要政党の間の連立政治・政権によってAfDをある種封じ込めるというふうになっていくんだろうと考えております。」


英 EU離脱交渉 加盟国への影響

田中
「それからもう1つ大きな動きが、3月以降、イギリスのEU離脱交渉というのが始まるものとみられていますが、その影響というのはどんなことが予想されますか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「やはり影響はあると思いますね。
Brexit、イギリスがEUから離脱するその投票によって、大陸の極右勢力、反EU勢力が非常に勇気づけられたというのが1つあります。
他方で、よく世論調査を見ますと、今、身もだえているあのイギリスのようにはなりたくないという世論もかなり出てきていまして、オランダやデンマーク、オーストリア、スウェーデン、こういったところでEU加盟に対する支持というのは実は増えているんですね。
『ああはなりたくない』という世論もあるというのは頭に入れておいた方がいいかと思います。」


EUの存在意義とは

田中
「ここまで見てきたものをまとめますと、今年はEUの存在価値、それから必要性というのが改めて問われるかと思うんですが、今年はヨーロッパにとってどんな年になるか、何が問われる年になると見ていますか?」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「難しいですね。
やはり選挙の結果によるんだと思うんですね。
ルペン候補が大統領になってしまうと、やはり大混乱が予想されます。
だけどもEU自体は法制度として相当定着したところもあって、かつEUを解体して国民国家に戻っていったとしても、グローバル化自体はそのまま手つかずで残っていますので、そうすると例えば投機の力とかそういったものでそれぞれの国が左右されてしまう、そういうことにもなりかねませんので、進むも地獄、退くも地獄なんですが、そういう形でEU自体に対する支持も一定程度残っていくんだろうと想像しています。」

田中
「その辺り、われわれは冷静に見極めていく必要があるということですね。」

北海道大学大学院 教授 遠藤乾さん
「そう思います。」

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