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特集

2016年10月4日(火)

排外主義台頭のオーストリア 「ヒトラーの生家」めぐり大論争

 
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音楽と芸術で知られる国、オーストリア。

「移民を規制せよ!」

そのオーストリアで今、難民や移民の排斥を掲げる、極右勢力が勢いを増しています。


排外主義をあおり、難民に不寛容な政策を打ち出す右派の大統領候補を、国民のおよそ半数が支持。
12月の大統領選挙で勝利するのではないかといわれています。

このオーストリアで今、1軒の家をめぐって論争が起きています。





アドルフ・ヒトラー
「我々はこれからも、ドイツ人の誇りを抱いて進むだろう。」

かつてナチス・ドイツを率いた、ヒトラーの生まれた家です。
オーストリアで何が起きているのか。
その深層に迫ります。


田中
「難民や移民の問題をめぐって、排外主義的な主張が広まるオーストリア。
ドイツの隣国で、ヒトラーが生まれた国としても知られています。」

児林
「このオーストリアで今、ヒトラーが生まれた家の扱いをめぐって論争が起きています。
その現場を取材しました。」

オーストリア 「ヒトラー生家」論争

リポート:小原健右支局長(ウィーン支局)

オーストリア北部の町・ブラウナウ。
人口1万6,000人の小さな町です。

中心部に、空き家となっている3階建てのアパートがあります。





この建物の一室で、アドルフ・ヒトラーが生まれました。

ヒトラーは、1889年、オーストリアのドイツ系住民の家庭に生まれました。
その後、ドイツ国民となり、ナチス党の党首として政権を掌握。

ドイツ民族の優位性を唱え、フランスなどヨーロッパ各国に侵攻し、ユダヤ人を迫害しました。

1938年に故郷のオーストリアを併合した際には、多くの国民に熱狂的に迎えられました。
戦後、生家は学校や福祉の施設として利用されてきましたが、ここ数年は空き家となっていました。
町の人は、この生家について多くを語ろうとしません。


住民
「もっとこの町の良い面に目を向けてください。
考えたくもないです。」



この生家をめぐって、国を二分する議論がおきています。

イスラム教徒排斥などを訴える極右勢力が、活動を活発化させているからです。
中には、ヒトラーを英雄視してナチス・ドイツの思想を再び広げようとしている人も少なくないといいます。

かつて極右団体のネオナチに所属していたという、この男性。





元ネオナチの男性
「これは“ナチス万歳”という意味だ。」

ヒトラーの生家は、ネオナチなどの極右勢力にとって今も特別な意味を持っているといいます。

元ネオナチの男性
「ブラウナウの生家は、アドルフ・ヒトラーそのものだ。
生家は私たちがヒトラーの偶像に精神的に近づくためにある。
ナチスの思想は、今もオーストリアに息づいている。」


4月のヒトラーの誕生日には、生家の周辺に極右勢力が結集しようとする動きも出ています。

こうした動きを受け、今年(2016年)7月、オーストリア政府はヒトラーの生家を今の所有者から買い取り、国有化すると発表。
極右勢力に悪用されるのを恐れての決断でした。

オーストリア ソボトカ内務相
「生家が極右の象徴とされるのを防ぐためには、国有化するしかなかった。
私自身は、取り壊した方が良いと考えている。」



家を取り壊し、負の遺産をいっそ消し去ってしまおうという意見がある一方、歴史の教訓を得るために、生家を残そうと主張する人もいます。
政治学者のアンドレアス・マイスリンガーさんです。

政治学者 アンドレアス・マイスリンガーさん
「今この国では、ファシズムが復活しつつあります。
そのことに気づいてほしいのです。」



かつて、ナチスドイツを歓迎したオーストリアの負の歴史と向き合わなければ、再び同じ過ちを繰り返すのではないか。

「こんにちは。」

マイスリンガーさんはヒトラーの生家を、国民が歴史と向き合い、未来を冷静に考える場所にするべきだと訴え、署名活動を行っています。

政治学者 アンドレアス・マイスリンガーさん
「ブラウナウ=ヒトラーが生まれた町と結びつけられています。
私は過去と向き合う町に変えたいんです。」

そんな呼びかけに、地元の住民の間からも賛同する声が上がっています。
生家の前で60年以上暮らしているこの女性。
かつてヒトラーを支持したオーストリアの国民は、歴史と向き合う責任があるといいます。

生家の前に住む女性
「70年前のことは変えられませんが、過ちを繰り返さないため何かを変えるべきです。」




これまでに2,000人を超える署名を集めたマイスリンガーさん。
賛同者を1人でも増やそうと、活動を続けます。




政治学者 アンドレアス・マイスリンガーさん
「過激な右翼思想、ポピュリズム、ナショナリズム。
ナチスの亡霊たちがよみがえろうとしています。
私たちは今こそ過去と向き合わなければならないのです。」




極右の勢いは?

田中
「オーストリアには、取材にあたった小原支局長がいます。
政府がヒトラーの生家を国有化しなければならないほど、オーストリア国内で極右勢力の勢いは増しているのでしょうか?」

小原健右支局長(ウィーン支局)
「その勢いはかつてないほど増していると思います。

オーストリアでは12月、大統領選挙が行われますが、右派政党『自由党』の候補が世論調査で5割の支持を受けていて、史上初めて勝利する可能性が出ています。
自由党は、元ナチスの党員などが設立した政党で、ナチスとの歴史的なつながりや、ネオナチを支持していると指摘されています。
難民の受け入れの規制など、排外主義的で国粋主義的な主張も掲げています。
その自由党が、国家元首である大統領の座を狙えるほど支持が広がっているわけで、異常な事態だといえるように思います。」



ヨーロッパ「右傾化」の行方

児林
「そのようにオーストリアで起きていることは、ヨーロッパ全体ではどう位置づけられるのでしょうか?」

小原支局長
「右傾化はヨーロッパ全体の傾向といえます。
ハンガリーでは、国民投票で有権者のおよそ4割が難民受け入れを拒絶したほか…。 ドイツでも、難民に不寛容な政策を掲げる政党が支持を伸ばしています。

背景には、次々と押し寄せてくる難民や移民に、人々が不安を高めていることがあります。
その不安が、有効な対策を打ちだせていない政府やEUに対する不満と不信感につながっています。
もしオーストリアの大統領選挙で自由党が勝利すれば、人々が理性や理念よりも、不安や不信感をもとに投票していることになり、ヨーロッパで排外主義が国の方向性を変えるほどの大きな流れになっていることを示すことになるかもしれません。」

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