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特集

2016年10月3日(月)

停戦崩壊 深刻化するアレッポの人道危機

 
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5年以上にわたって続くシリアの内戦。
先月(9月)、いったんは停戦したものの、再び戦闘が激化しています。




中でも激しいのが、北部の都市・アレッポをめぐる攻防です。
反政府勢力の支配地域に対し、アサド政権側が空爆を強化。
この2週間だけでも、300人以上が犠牲になりました。
このうちおよそ3分の1は、子どもでした。

病院までもが空爆の標的となり、医療体制は崩壊の淵に。





人道支援物資を積んだ国連のトラックも攻撃を受け、支援の手はほとんど届いていません。
人道危機が深刻化するアレッポ。
その実態に迫ります。




田中
「2度目の停戦も、わずか1週間で崩壊したシリアの内戦。
中でも戦闘が激化しているのがアレッポです。」

児林
「アレッポはこちら。
シリア北部、最大の都市です。
なぜ今、このアレッポで激しい戦闘が起きているのか。

アレッポの市街地は主に、西部をロシアが支援するアサド政権が支配。
そして東部をアメリカなどが支援する反政府勢力が支配しています。

ところが、先月ごろからアサド政権が攻勢を強め、反政府勢力が支配する東部地域を完全に包囲。
一気に制圧しようと、連日激しい空爆を続けています。
包囲された地域に残っているのは25万人余り。
そのほとんどが一般市民で、人道危機が深刻化しています。」

田中
「アレッポは今、どのような状態にあるのか。
アレッポにほど近い、隣国トルコのガジアンテプに取材班が入り、現地の様子を探りました。」

戦闘激化するアレッポ シリア人道危機の実態

「立てアレッポ!負けるな!」

吉永智哉記者(国際部)
「アレッポにほど近い、トルコの町・ガジアンテプの中心部です。
国外に逃れたシリア人たちが集まり、アレッポの人々を救えと訴えています。」



「武器を持っていないにもかかわらず、女性や子どもが攻撃されています。」





しかし、こうした声もむなしく、アサド政権によるアレッポ東部への空爆は連日続いています。





特に狙われているのが、地域の人たちの命綱ともいえる病院です。

トルコのガジアンテプにある、国際的なNGO「国境なき医師団」の事務所です。
シリア国内にいるスタッフから、病院が受けた空爆の被害について毎日報告が上がってきています。

「ここ数日、どういった状況ですか?」

“最も大きな複数の病院が同じ日に攻撃を受けました。
現在は使用できない状態です。
アレッポは今や危機、いや、壊滅状態です。”

「国境なき医師団」によると、この7月以降、アレッポ東部にある8か所の病院すべてが攻撃を受け、深刻な被害が出ています。
医療関係者も空爆の犠牲となり、25万人の住民に対して医師の数は30人余りに減りました。
アサド政権が病院を標的とするのは、命綱の病院を破壊することで、多くの市民に退避を促し、一気に攻勢をかけやすくする狙いがあるとみられます。


こうした攻撃の結果、医薬品など支援物資の搬送が一段と厳しくなっています。
ガジアンテプにあるこの倉庫には、アレッポの病院へ搬送する予定の医療機器などの支援物資が運び込まれています。
しかし、安全な輸送手段が確保できないため、アレッポへの搬送は1か月以上も中断したままです。

『国境なき医師団』 物流担当者
「被害を受けた病院からの要望は日に日に増えています。
しかし今、私たちは送ることができない。
非常に厳しい状況です。」


そのアレッポから1か月余り前に逃れてきた人に、話を聞くことができました。

ムハンマド・ボシさん。
現在は、先にトルコへ避難していた妻と1歳になる娘と暮らしています。

ムハンマド・ボシさん
「厳しい状況でした。
食料がありません。
特に人の集まっているところで空爆が行われています。」


今、ムハンマドさんの最大の気がかりは、一緒に避難できなかった病気がちな両親の存在です。

吉永記者
「あなたの家は?」

ムハンマド・ボシさん
「ここです。
どの戦闘の前線からも、とても近い場所にあります。」

ムハンマドさんは、両親が病気で素早く避難ができないため、空爆や砲撃に巻き込まれていないか心配でなりません。
毎日、電話で連絡を取っています。

ムハンマド・ボシさん
「そちらの状況は、どう?」

“私たちはなんとか大丈夫だ。
食料はあまりないけど、なんとかなっているよ。”


両親は息子に心配をかけまいと、厳しい現状を教えてくれません。
しかし、近所に住む親戚に電話をかけていると…。

ムハンマド・ボシさん
「アレッポの状況は前より悪い?」

“前より悪くなっているよ。”

ムハンマド・ボシさん
「今のは空爆の音?」

ムハンマド・ボシさん
「空爆の音だ。」

電話の向こうから空爆の音が聞こえ、不安は募る一方です。

“おとといは特殊な爆弾を使った攻撃があったらしい。
病院も人がいっぱいで、機能していない。」




悪化する一方の故郷・アレッポの状況に、ムハンマドさんはもはや明るい展望を持てないといいます。

ムハンマド・ボシさん
「誰もがシリアで起きていることに目を背け、耳をふさいでいます。
政治的な解決は不可能。
それができれば、5年の間に戦争は終わっていたはずです。」




きょうのアレッポは

児林
「トルコのガジアンテプにいる吉永記者に聞きます。
アレッポの今日(3日)の状況はどうなっていますか?」

吉永智哉記者(国際部)
「アレッポでは今日も、反政府勢力が支配する東部地域でアサド政権による空爆が続いたほか、地上での戦闘も起き、死傷者が出ています。




また反政府勢力の活動家によりますと、昨日(2日)もまたアレッポの病院が空爆の標的になったという情報があるということです。
現地の人道状況は日に日に悪化しています。」




アレッポに攻勢 アサド政権の狙いは

田中
「政府軍のアレッポに対する攻撃再開、アサド政権の狙いは何でしょうか?」

吉永記者
「アレッポを一気に奪還しようという狙いだと思います。
シリア北部の最大都市・アレッポは、内戦の当初から反政府勢力の牙城となり、現在は西部を政権側が、東部を反政府勢力が支配しています。
このアレッポ全域を落とすことができれば、反政府勢力は一気に弱体化し、内戦の決着がつく。
政権側はそう考えているように見えます。
また政権側が一時的に停戦に応じたのも、今となっては、その間に戦力を強化し、攻撃の再開に備えるためだったとも考えられます。
アレッポではアルカイダ系組織が反政府勢力と共に闘っているため、政権側はアルカイダ系組織をたたく『テロとの戦い』を名目に総攻撃を正当化しています。」


アメリカ・ロシア 打開策は

田中
「米ロが合意したはずの停戦が崩壊したわけですが、米ロに今後、打つ手はあるのでしょうか?」

吉永記者
「手詰まり感が一段と強まっています。

アメリカとロシアは双方の停戦を元に戻そうと協議を重ねてきました。
しかし、『テロ組織への攻撃だ』とアサド政権を擁護して空爆を続けるロシア。
一方のアメリカは、反政府勢力や住民も標的となっていると非難し、戦況の悪化とともに双方の対立はむしろ深まっている状況です。
ここガジアンテプに逃れてきたシリアの人々に話を聞きますと、『アレッポの人道状況は、むしろ停戦前よりも悪化している。状況が良くなる希望もない』と絶望感を表す人が多くいました。
国際社会の仲介がまたしても頓挫する中で、人々の苦境は厳しさを増す一方となっています。」

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