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特集

2016年8月3日(水)

独立も? イギリスのEU離脱で揺れる北アイルランド

 
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田中
「国民投票でEU=ヨーロッパ連合からの離脱を決めたイギリス。
メイ首相は、ドイツやフランスなどヨーロッパ各国を訪問し、EU離脱に向けた準備を進めています。
そのイギリス、実は今、国内でも『国の分裂』というリスクを抱えています。
今日(3日)の特集は、イギリスを構成する地域の1つ、北アイルランドについて取り上げます。」

児林
「北アイルランドの場所から見ていきます。
アイルランド島の北東部にあります。
イギリスの一部です。


ここはもともとカトリック系の住民が多く住んでいました。
また、イギリスからの移民の流れをくむ、プロテスタント系の住民も住んでいます。

以前から住んでいたカトリック系の住民は、イギリスからの独立とアイルランドへの帰属を主張していました。
一方、プロテスタント系の住民はイギリスの統治を主張して、長年この2者は対立してきたんです。
30年以上にわたって続いた北アイルランド紛争は、1998年、和平合意にいたります。
しかし、今回行われたイギリスの国民投票では、アイルランドへの帰属を訴えてきたカトリック系住民の多くはEU残留を支持。
一方、イギリスに帰属することを訴えてきたプロテスタント系住民の多くは、EU離脱を支持しました。

そしてこちらが、国民投票の結果です。
赤は離脱が多数を占めた地域、青は残留が多数を占めた地域です。
北アイルランドは両方の色があるんですが、全体では56%が残留を支持したんです。
しかし、イギリス全体ではEU離脱が上回ったことで、両者の溝が再び深まっているんです。」

田中
「国民投票の結果を受けて、この北アイルランドで今、何が起きているのか?
現状を取材しました。」

揺れる北アイルランド 深まる住民の溝

リポート:塚越靖一(国際部)

先週、就任まもないイギリスのメイ首相が、北アイルランドを訪れました。
地元自治政府の首相、副首相と話し合いの場を持つためです。




イギリス メイ首相
「北アイルランドとイギリスにとって、最大の利益を得られるよう取り組む。」

メイ首相が訪れたのは、北アイルランドが抱える問題を不安視したからです。

1960年代から30年以上にわたって続いた、北アイルランド紛争。





イギリスからの移民の流れをくむプロテスタント系住民は、イギリスの統治を。
以前から住んでいたカトリック系の住民は、イギリスからの独立とアイルランドへの帰属を主張してきました。
イギリス最大の政治課題とされてきたこの紛争の解決を後押ししたのが、EUでした。



北アイルランドに巨額の財政支援を行うなどして1998年に和平合意。
EU域内の北アイルランドとアイルランドは自由に行き来できるようになり、対立は解消されていきました。
しかし、イギリスの国民投票が今、北アイルランドに再び対立の懸念を生み出しています。


もともとイギリスに属することを訴えてきたプロテスタント系の政党は、今回の国民投票で、EU離脱を支持。




一方、カトリック系の政党は、EUからの離脱でアイルランドとの結びつきが弱まるのを恐れ、EU残留を支持しました。

プロテスタント系住民
「私はEU離脱に投票した。
EUの中にいたら危ないからだ。」



カトリック系住民
「がっかりした。
EUの一員であることが重要なのに。」



国民投票のあと、ある事件が相次ぎました。
ベルファスト郊外の教会です。




教会代表
「何者かが侵入し、あそこに火をつけたのです。」




こうした事件が、この地域だけで立て続けに3件発生。
住民の間に不安が広がっています。




隣国アイルランドとの結びつきが強いカトリック系の住民にとって、今もっとも恐れるのが、国境の規制強化です。

イギリスがEUから離脱すれば、北アイルランドとアイルランドの国境で規制が厳しくなる可能性があります。
かつての紛争の頃のように、“再びアイルランドと分断されてしまう”と、住民が不安を感じ始めているのです。

北アイルランドの国境の町・ニューリー。
カトリック系住民のコルム・グリッベンさんです。
住宅用の排水タンクを製造する会社を経営しています。
仕事や買い物で日常的に国境を渡るため、検問などで国境が規制されることに不安を感じています。
会社経営への影響も心配しています。

カトリック系住民 コルム・グリッベンさん
「わが社が開発したタンクです。
アイルランド向けに販売しています。」



グリッベンさんは、この商品をEU各国にも販売していきたいと準備を進めてきました。
しかし、イギリスがEUからの離脱を選択したことで、EU各国との取り引きがしにくくなるのではないかと不安を感じています。

カトリック系住民 コルム・グリッベンさん
「自由な往来は非常に重要です。
ビジネスのためにもEUに残留した方がいい。」



こうした不安の声は、グリッベンさんだけにとどまりません。

中小企業への経営支援を行っている会社です。
国民投票をきっかけに、多くの企業から懸念の声が相次いでいるといいます。




中小企業 経営支援会社 担当者
「国境でのセキュリティーチェックや関税・規制など、心配する企業が増えています。」




こうした中、イギリスからの独立を求める動きも出ています。

アイルランドの統一を掲げるカトリック系の「シン・フェイン党」。
アイルランドとの統一を問う住民投票を行うことを示唆しています。




シン・フェイン党 欧州議会 アンダーソン議員
「北アイルランドがアイルランドと統一されるのを支持するかどうか、住民投票を通じて住民の意向を確認するのも1つの方法でしょう。」



イギリスのEUからの離脱をきっかけに、住民の間で対立の火だねが生まれかねない状況となっています。


住民投票の可能性は?

田中
「取材した塚越記者に聞きます。
北アイルランドでは独立を求める声があがり始めているようですが、住民投票の実現の可能性はあるんでしょうか?」

塚越靖一記者
「今後、議論が高まれば十分可能性はあると思います。
特にカトリック系の住民は、『アイルランドと国境で分断されるなら、イギリスからの独立もやむなし』と考えている人が多いと感じました。
また、実は北アイルランドで生まれた人などは、イギリスとアイルランドの2つの国籍の取得が可能なんですが、EU離脱が決まった後、アイルランドのパスポートの申請が急増したんです。
EUの一員として留まりたい人が多いことを如実に表していて、今後、独立の機運が盛り上がる可能性もあるといえます。」


スコットランド 現状は?

児林
「その独立の機運という点でいうと、イギリスの中では、スコットランドもEU残留を求める人が多かった地域ですよね。
スコットランドの今の状況というのはどうなんでしょうか?」

塚越記者
「先週末にも、スコットランドでは2,000人余りが参加して、独立を求めるデモ行進が行われました。




スコットランド自治政府のスタージョン首相は、『独立を問う住民投票を再度行う準備をする』と繰り返し明言しています。
さらに、『EU離脱がスコットランドの利益にかなわないようなら来年(2017年)前半にも住民投票を行う』と発言していて、イギリス政府に揺さぶりをかけています。」



イギリス政府 どう対応?

田中
「就任したばかりのメイ首相にとっては、EUとの厳しい離脱交渉に加えて、この北アイルランドやスコットランドの分裂の動きへの対応、まさに内憂外患ではないかと思いますが、今後どう出るのでしょうか?」

塚越記者
「メイ首相の発言からは、『国内をバラバラにしてはいけない』という危機感が感じられます。

独立の機運が高まっているスコットランドを訪れた際には、『地元の考えを聞いて議論していきたい』と歩み寄る姿勢を強調。





一方、北アイルランドでは『国境管理の強化は厳しくしたくない』と述べて、地元の懸念の払拭に努めました。
しかし、EUや各国との交渉をまとめながら、国内の各地域の要望にも応えるのは容易なことではありません。
一歩間違えると国が分裂しかねない状況で、メイ首相は難しいかじ取りを迫られています。」

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