にっぽん縦断 こころ旅
正平さん、ちゃり男くん、スタッフのみなさん
こんにちは。いつも楽しく番組を拝見しています。
私のこころの風景は「田方平野の田んぼを走る道」です。
私は高校時代、自転車で通学していました。
隣の韮山町の高校まで普通25分くらい。でも、私と友達の尚美ちゃんは、いつもギリギリになってしまい、20分以下で走り抜けていました。周りになーんにもない田んぼの一本道を一生懸命自転車で走ります。
田植えの前に水の張られた水田に富士山が鏡のように映るのを眺め、夏には稲穂を渡る風が汗を乾かしてくれ、秋にはアカトンボと競争し、冬の木枯らしには鼻やほっぺを真っ赤にしながら、3年間、毎日通いました。
当時はそんな四季の美しさや情緒を満喫する余裕はなく、東京ナンバーの車に「○○ゴルフ場はどうやって行ったらいいの?」なんて呼び止められ、ちょっぴり恨めしい思いをしながら、毎日、「明日こそもう少し早く出なくちゃ」「遅刻しませんように」と尚美ちゃんと言い合いながら 一生懸命ペダルを踏んだものです。
周りに遮るものがないため、風の強い日はまともにそれをくらって、ジリ、ジリ、としか、こぎ進められません。一度、強風にあおられて、田んぼに落っこちてしまいました。途方に暮れていたところを同級生の男の子が、「先生に言っておいてやる」と言って、サーッと過ぎていきました。両膝をすりむき、制服はドロドロ、ゆがんでしまった自転車をおして ようやく学校にたどり着くと、その男子が朝礼で「大西さんは、今、田んぼに落ちています」と報告してくれたようで、先生も心配して待っていてくれました。自転車も重たかったし、引っ張り上げてくれたらよかったのにとも思いますが、あの報告が田舎の高校男子の最大限の親切だったのだと思います。
朝はそんな調子でしたし、帰りも帰りで 終礼が終わるやいなや、カバンをつかんで教室を飛び出して、自転車置き場に急ぎます。「今日も学校中で私達が一番早く帰るね」「来たのも遅かったから、私たちが一番学校にいる時間が短いね」とニコニコして、覚えたてのマイケル・ジャクソンやマドンナなんかの英語の歌を大きな声で歌いながら 背中いっぱいに午後の陽ざしを浴びて家路を急ぐあの時間は「のんき」そのもの。すごく勉強する訳でも、部活に真剣に取り組む訳でもなく、学校滞在時間が短いことを誇りにし、「自分の時間」というものをふんだんに持ったある意味ぜいたくな青春時代でした。
今は家もクルマも増えて、道も良くなりましたが、正平さんにあの道を自転車で走ってもらい、時間がいくらでもあるような、あの「のんき」な気分を味わっていただけたらと思います。稲穂を刈り取り終わった田んぼや、イチゴのビニールハウス越しに雪をまとった富士山が望めるいいサイクリングになりますように。
大西郁江
静岡県函南町
大西郁江さん(48歳)からのお手紙