にっぽん縦断 こころ旅
「漠然とした不安の中で走った道」
正平さん、ちやりお君、スタッフのみなさん、お疲れ様です。
いつも楽しみにしています。 私が行っていただきたいのは、
つくば市役所桜総合体育館の東に広がる田園風景。
そこを東西に延びる道です。
昭和58年、琉球大学の歴史学科を卒業した僕は、つくば大学の
大学院受験に失敗、当時は桜村とよばれていたところの花室の
お百姓さんの納屋の2階で、再受験をめざして下宿していました。
夜寝ていると、1階の蚕箱から、無数のお蚕さんが桑の葉を食べる音が聞こえてくる部屋でした。大家さんや近くのスーパーの店員さんなど、花室でであった人たちは、みなとても優しかった。
それでも、大学院を出ても研究者になれる確証がない僕は、
将来を描けない不安の中、受験勉強のストレスと不安で自暴自棄になりそうでした。
このままでは危険と感じ、下宿近くを走ることにしたのです。
下宿から北へいったところにさくら運動公園があり、野球場の横を抜けた先に、田んぼの中をまっすぐ東西にのびる道があります。
そこを朝晩走りました。
春夏秋冬をうつす田園風景はとても美しかったのですが、気が付くといつも妄想しながら走ってました。
見込みもないのに受験に合格し、研究者になった自分。
彼女もいないのに結婚して、家庭をもった自分。
そのあと現実にもどってなんともいえない気分になるのですが、
走り終えて下宿で汗をながすとさっぱりし、なんとか自分をたもつことができたのです。
その後、時代はバブルとなり、叔父の設計事務所を手伝うことにした僕は、大阪で建築を学びなおし、その後京都で自分の設計事務所を開きました。 イタリアで出会った日本人女性と家庭をもち、いまは滋賀県の大学で教壇に立っています。
妄想も少しは実現できたかなぁと思うたび、夕日にむかって走る自分と道にのびていた影を思い出します。
いまは下宿の納屋が住宅になり、スーパーもなくなったと聞きますが、あの道はどうなっているでしょうか?
もしも可能であれば、正平さんに見に行ってもらえればさいわいです。
みなさんの毎日のご安全をお祈りいたします。
滋賀県甲賀市 丸山俊明 58歳
滋賀県甲賀市
丸山俊明さん(58歳)からのお手紙