にっぽん縦断 こころ旅
こころ旅 様
思い出の場所 「土浦の花火」
今年も日本の各地で、たくさんの花火が夜空を彩りました。
あの華やかさとはかなさは、時に歓喜を、時に悲哀を運んでくるものです。
私には忘れられない花火があります。
戦後、母と私は中国から引き揚げ、父の生地である土浦の家にいました。戦地から帰って来るはずの父を待っていたのです。私は父のいないことを疑うこともなく楽しく飛び回っていました。
桜川の花火はその頃もよく知られていて、その日も家の人たちと花火見物に行きました。その時、かたわらで見上げた母の横顔が、とてもさびしそうでした。
さりげなく落ち着いていた、いつもの母のたたづまいではなかったのです。あの時私は、父が帰って来ないことを無言のうちに知らされたのでした。
その後土浦を離れ、母の生地である長野県に移り住みました。祖父母が亡くなってからは訪れることもなく過ごしてしまいました。すでに70年の歳月が経ちます。
今年も土浦の花火は大勢の人が楽しまれることでしょう。
おぼろに浮かんでくるあの辺りはどんな風景が広がっているのでしょうか、無性に懐かしく思います。
こころ旅の途中で、あの辺りの風景が少しでも映ったらいいなと思いお便りします。どうぞよろしくお願いいたします。
長野県下諏訪町
小林美枝子さん(75歳)からのお手紙