にっぽん縦断 こころ旅
ずっと残したい、ふるさとの風景
火野正平様 「にっぽん縦断 こころ旅」スタッフの皆様
いつも何処かの、誰かの、ちいさな物語を丁寧に届けてくださってありがとうございます。 私の大切な風景を伝えさせて下さい。
高校卒業まで過ごした兵庫県赤穂市に、こころにずっと残る場所があります。一級河川千種川の河口にある「唐船山」山頂です。
今では兵庫県一低い山として、知る人ぞ知るということになっているようですが、高校生だった私たちには平凡な日常で、すぐ北にある赤穂高校で所属していた、バスケット部の程よいランニングコースでした。
赤穂高校から千種川の土手伝いに、唐船山を目指してのランニングで、潮干狩りシーズン以外は誰も来ない、波と風の音だけが聞こえる場所でした。
まだ昭和の終盤ですから、当時の川の土手にはご多分に漏れず、捨ててある有害図書の誘惑に負けたり負けなかったりしながら走っておりました。
唐船山に到着すると、東側の砂浜で、叫び声を出したままのダッシュや先輩をおんぶしての競争、そのまま海側から唐船山に駆け上がったり。
街に住む今、思えばとても贅沢な環境でした。
そのチームメイトの一人が、一昨年病気で亡くなりました。
地元で消防士として働き、倒れる直前まで職場に詰めていた男です。
休みには後輩や子どもたちにバスケットを指導したり、公私ともに大変慕われていた、ちょっと太めのナイス・ガイでした。この場所で走っていた当時は、仲間の誰かがいなくなることなんて当然想像もできませんでした。そして自分にも、親友に先立たれる消失感が訪れるとは思ってもみませんでした。
そうやって、まだ今を生きている人の人生は、積み重なっていくのですね。
帰郷して、唐船山に登って瀬戸内の汐風を感じると、酸っぱい男子高校生のダッシュしながらの叫び声が耳によみがえります。そして、亡くなった親友も笑顔で「で一しょんね?おまはん!」(赤穂弁で「オマエ!何やってるんだ?」です)と語りかけてきます。
この場所が長く残り、また誰かのこころの風景になることを願っています。
神奈川県川崎市 河部 敦 50歳
追伸:入念な準備をされて丁寧に制作されておられるスタッフの皆様、小さな「かけら」をくみ取ってくださる火野正平様、みなさんの「こころ」で作られているこの番組を楽しみにしております。これからもちいさな物語を私たちに届けていただけることを期待しております。
神奈川県川崎市
河部 敦さん(50歳)からのお手紙