にっぽん縦断 こころ旅
もう一度見てみたい光景
チーム正平の皆様
楽しい心の風景を届けていただきありがとうございます。
私がもうー度見てみたい光景は、昭和の生活感に満ちた伊予三芳駅前の自転車預かり所と人々の通勤の様子です。
昭和30年代、多くの人が通勤に列車を使っていました。私の父も列車で会社に通っていました。
その頃、小学生の私の役割は、急に雨が降り出した日の夕方に父の乗る列車が着く時間までに傘を届けることでした。
伊予三芳駅前に自転車預かりを営んでいる店が、駅に続く道を挟んで2軒ありました。
私は父の自転車を見つけて荷台の所に傘をさしておきます。
夕方の時間は会社帰りの人で混雑します。
自転車預かり店の方は次に到着する列車で、どの自転車の持ち主が帰るのかを知っていて、店の奥から自転車を出して、帰りやすいように向きを変えて並べています。
指示をする声や自転車を動かす音が飛び交います。
やがて持ち主が現れると「お帰り」「お疲れ様」「また明日」と元気な挨拶が交わされます。
その様子からはイキイキと生活している雰囲気が感じられてとても好きでした。
私は傘を置くと「傘、届けてもらって父ちゃん助かるね」という店の人の声を後ろに自宅に向かいます。運がよければ、自宅に着くまでに追いついて来た父が私を拾って荷台に乗せてくれます。
帰る途中の三芳小学校の東にある小さな川の横を通るあたりで乗せてもらいました。
私の家はその先の大明神川の橋を越えたらすぐの所です。どのくらいの速さで歩くと家に着く前に拾ってもらえるかなと、子供心に計算して歩いたものです。橋をこえても父が追いついて来ないとガッカリ、速く歩き過ぎたのです。
時代の流れで伊予三芳駅は無人駅となり、駅前の自転車預かりもなくなったと思います。あの元気な自転車預かりの店の人の声、一日の仕事を終えて列車から降りたお父さんたちの元気な声やにぎやかな雰囲気は遠い昔になりました。
父も亡くなって20年が過ぎました。
今、駅前はひっそりしているのでしょうか。正平さんに訪ねていただいて何か昭和の名残を見つけていただけると嬉しいです。
静岡県 浜松市 犬塚 久美子 69歳
静岡県浜松市
犬塚久美子さん(69歳)からのお手紙