にっぽん縦断 こころ旅
私の心の風景は、旧麻植(おえ)郡美郷(みさと)村にある八幡さまの「大イチョウ」です。樹齢八〇〇年とも言われるその大木は、同じ校庭に並ぶ、中枝(なかえだ)小・中学校のシンボルでもありました。冬の寒さに耐え、春の陽ざしに輝き、秋には黄金の葉をまるで雪のように散らし、私たちの成長を見守ってくれていました。
農家の長女として生まれた私は、十五歳で愛知県の紡績工場へ 集団就職をしました。二人の弟と妹を残し、初めて親元を離れた、あの日の悲しさは今でも忘れることができません。“家のため”という時代ゆえ、それが、あたりまえとして受け入れたのです。
その日の朝、バスの窓から見た風景にも「大イチョウ」が、そびえ立っていました。紙テープを握る手も 涙でぬれたのを覚えています。
今、毎朝流れる連続ドラマの「ひよっこ」は、まさしく私の十五歳なのです。弟たちのために仕送りをし、時々届く母からの小さな荷物だけを楽しみに 働き続けました。母の荷物の中には、「ごめんね、すまないね」 いつも添えられていました。
途中、何度、母の元へ、戻りたいと手紙を書いたことでしょう。
そんな私も もう六十七歳です。今年の春、体の異変に気付き、思いがけない病名を告げられて、今、やさしい家庭の中で闘病生活を続けています。
故郷で一人で暮らす高齢の母に 早く会いに行きたいと祈る気持ちの毎日です。
私を支えてくれた母と 八幡さまの「大イチョウ」、きっと会いに行きますから・・・。
今の私の代わりに 火野さん「大イチョウ」見てきてやって下さいませんか。
西嶋三千枝 67歳
愛知県春日井市
西嶋三千枝さん(67歳)からのお手紙