にっぽん縦断 こころ旅
正平さん、私のこころの風景は「阿波大谷駅」です。
JR四国鳴門線にある一面一線の無人駅で、築堤上のそのホームからの景色をもう一度見てみたいとの思いがずっと心にあります。
阿波大谷駅には祖父母の家がありました。祖父母が他界し今は家も もうありません。
子どものころは、母と妹と三人で汽車に乗り、阿波大谷駅で降りて歩いて祖父母の家まで行きました。
父の車で出かけることもありましたが、汽車でのそのホームからの景色が、心に温かく残っています。
一番の思い出は、初めて妹と私、子どもだけで汽車に乗って行った体験です。徳島駅で汽車を乗り換え行きました。乗り換えを間違えないように、乗り越すことなく阿波大谷駅で降りることを頭に置いて、ドキドキのふたり旅でした。私は小学生で妹は幼稚園くらいのころだったと思います。
阿波大谷駅が見えてくるとホームに祖父母が迎えに来てくれているのが見えました。
汽車を降り駆け寄ると「よー来たなー」と言ってくれて、ふたりだけで来れたことを褒めてくれて嬉しかったのを今でも思いだします。その時の祖父母の表情まで覚えています。
祖父母の家の方向はホームを降りて左へ進みます。
祖父母は自転車で来ていて、自転車を押しながら歩く祖父母のその横を私たちは歩きました。
祖父が亡くなり、その後祖母も亡くなったとき、妹が言いました。
「これでまたひとり人生の味方がいなくなったね。」
本当にそうでした。いつ行っても喜んで迎えてくれました。
ほっとする場所でした。いつも応援してくれていました。
想ってくれていました。
もう一度あの風景が見たいです。最後に見たのはもう二十年くらい前になります。自分で訪れる勇気はないのです。
ホームに立つと淋しくなりそうで。どうか、
正平さんの目で見て、私たちにもテレビで見せてください。
どうぞよろしくお願い致します。
九月十五日
足立生子(あだちいくこ) 53歳主婦
火野正平様
徳島県徳島市
足立生子さん(53歳)からのお手紙