にっぽん縦断 こころ旅
私の心の風景は、大里(おおざと)の松原です。
もう70年も昔の事です。
「お別れ遠足」は いつも大里の松原でした。
幼稚園から中学卒業まで ずっと同じメンバーだったのに、誰が名づけたのか、3月の遠足のことを お別れ遠足と言ったのです。
戦中、戦後、ずっと飢えた時代でした。
それでも親達は、その日のために巻きずしを作ってくれました。巻きずしを何本持って来たか、ゆで卵を何個持って来たか、と自慢しあう時代でした。
遠足の楽しみの一つは、波をてがいに(からかいに)行くことです。引く波を追いかけ、寄せる波に逃げ帰るのです。てがわれた(からかわれた)波は時々、仕返しにやって来ます。思いがけず、大きな波がやって来て、ずぶぬれになるのです。
臆病で、走るのが遅い私は、いつも陸地に一番近い所で行ったり、来たり、ぬれることはありませんでした。
この浜は遠浅ではないから、決して泳いではいけない。
かつて、ここで泳ぎ、潮流に流されて、手を振りながら消えて行った兄弟がいたと 何度も 聞かされた話でした。どんなワルも ここでは決して泳ぎませんでした。
この松原に 八幡様が祀られています。
秋の大祭は、近郊の村々あげての一大イベントでした。集落ごとに だんじりや、せきふねが出て、ケンカもあって、ちっともあたらないヤブサメで祭りは終わります。
きれいだった松林も 今は雑木の林だと聞きます。でも 大きな 大きな太平洋は変わるまいと確信しています。
砂浜にねころんで、終日、波の音を聞いていたい。かなうことのない私の夢です。
岡山市
高野淳子さん(79歳)からのお手紙