武山直美さんは、季楽くんを連れて車に乗っている時に、津波に巻き込まれました。
直ちゃん、あの日から十三年 ひなは十八歳になりました。
小さく生まれ、学校でもいつも前列だったひなも、今ではお母さんより身長が伸びて、スリムで素敵な女性に成長しました。
中学校では、勉強に部活に本当によく頑張りました。
「部活はテニスにする!」と言って家を出たのに、帰宅すると「吹奏楽部に決めた」と。
「楽器は希望したオーボエになったよ」と嬉しそうに話してくれたことを今でもはっきりと覚えています。
練習も真面目に取り組み、どんどん上達し、夏コンソロコン定期演奏会に大活躍。
お父さんとお母さんは毎回楽しみにしながら聴きに行ったものです。
そんな時、いつも想うこと。それはね、「直ちゃんにも聴かせたかったな」って。
病気もせず、丈夫だったひなが高校二年生になって間もなく体調を崩した時は、本当に心配で戸惑うばかりでした。
今まで利用したことがなかった保健室にもお世話になり、そこで出会った先生の影響を受け、自分の将来を考えるきっかけにもなったようです。
学校の先生、友だち、周囲の方々に見守っていただき、ひなの体調は少しずつ戻り、お父さんとお母さんは、嬉しくて、心から健康であることの大切さを実感しました。
でもね、辛くて戸惑いながらも一番頑張ったのはひなですよ。
直ちゃん、覚えているかな。「ひなたちが大きくなったら二人で出かけたいね」って話したことを。直ちゃんとは叶わなかったけど、今度ひなと二人で出かけてきます。
直ちゃんが大好きだったところに。直ちゃんと季楽の分も楽しんで来るからね。
もうすぐ卒業式。あの日ひなが直ちゃんの迎えをじっと待っていた高校の体育館、その場所で卒業式が行われます。
そして四月、大学の入学式。直ちゃんの代わりに出席します。
あの日、あの時から必ず想うこと。
それは「ここに直ちゃんがいたらな、ひなの姿見せたかった」って。
きっとこの想いは、これからもずっと続くと思います。
今までひなを支えてきたつもりだったけど、この頃ではひなに助けてもらうことが多くなってきました。
老いていくお父さんとお母さんにとって、ひなはとても大切な存在です。
でもいつかは・・・・・・
いいえ、まだまだひなの笑顔を見ていたいので、これからも頑張ります。
直ちゃん、季楽、高いところからひなを見守っていてください。
それじゃあ またね。
大好きな直ちゃん季楽へ
お母さんより
【その後、ひなさんと初めての二人旅に行ったあとに寄せていただいたお手紙です】
あの頃は直ちゃんの家に寄ってから仕事に行くことがお母さんの楽しみで、あの日も起きたばかりでまだパジャマ姿のひなと季楽が待っていてくれたよね。
直ちゃんは必ずコーヒーを入れてくれて、コーヒーを飲みながら二人の孫の成長を感じることがお母さんにとって最高に幸せな時間でした。
仕事に行く時間になり、玄関で靴を履いている側に来てそーっと手を差し出してきた季楽。
「握手するの?タッチする?」と手を握り返すと、穏やかな表情で「にこっ」と笑う季楽。
でもその目は遥か向こうを見ていた。気になりながら職場に向かったが、それが最期の握手になってしまいました。
「あの時に戻れたら、悪い夢であったら」と今でもまだ想ってしまうことがあります。
普段あまり母親・弟のことを話題にしないひなですが、旅先から戻り仏壇に向かって「留守番ありがとう」と報告している私に「留守番じゃないよ、ママと季楽も一緒に行っているから」、そして「どこに行くにもひなは一緒だと想っているから」ときっぱり。
その言葉を聞いてとても嬉しかった。なぜか安心しました。
直ちゃん、大丈夫。ひなもお父さんもお母さんもいつまでも直ちゃんと季楽のこと、忘れません。
だってずっとずっと一緒だから・・・。
だから心配しないでゆっくり休んでね。
直美、季楽
早いもので、もう7年が経とうとしています。
直美は34歳、季楽は8歳、小学2年生ですね。
ひなは12歳、4月からは中学生です。
ひなは元気です。学校では、勉強もそこそこ頑張っています。
クラスの友達に頼りにされ、それに応えようと頑張っていますが、じっちとばっぱは自分のことが後回しになってはいないかと心配でもあります。
習い事にも嫌がらず、休まず通っています。でも時々、ばっぱの目を盗んではゲームにいそしんでいます。
あまり長い時間していると、ばっぱのイライラが爆発し、じっちもトバッチリを受けます。
体が小さいと直美も心配していましたが、6年になって食欲も出てきて、好物のチャーハンや餃子などはおかわりもします。
嫌いなものでも一度は口にするようになりました。以前は食べなかった牛肉、ほたて、パスタなども食べるようになりました。
日常の些細なことに喜びを感じたり、心配したり、これもひながいるおかげですね。
遊びに出かけた時は、必ず小遣いで季楽におみやげを買います。
最近では、友達にプレゼントするとかで、遊びを少なくしても買い物に時間をかけるようになりました。
スケートやボウリングなど、友達の家族と出かけたりもするようになってきました。
じっちとばっぱだけでは足りないところがたくさんあるけど、ひなの周りにいる友達、その家族の方たちにたくさん支えてもらっています。
女優の波瑠さんが直ちゃんと似ていると、お盆に来てくれた友達から言われました。ひなとばっぱも同感。
その波瑠さんがテレビに出ていると、「ママに似ているよね!」と言いながら、じーっと見ている姿をみると、複雑な思いです。
これから、いろいろ辛いことも待っていると思うけど、ママや季楽が応援していると信じて、負けないでほしいと願っています。
お父さんとお母さんより