NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午前10:00〜10:20
※この番組は、前年度の再放送です。

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今回の学習

第39回

生物多様性の保全

  • 生物基礎監修:東京都立国分寺高等学校教諭 市石 博
学習ポイント学習ポイント

生物多様性の保全

  • 日本のさまざまな生態系
  • 東京都 小笠原諸島
  • 北海道 千歳川

南北に長い日本列島には、いろいろな生態系があり、実にさまざまな生き物たちの営みがあります。

今回のテーマは「生物多様性の保全」。
東京都の小笠原諸島、北海道の千歳川を例に、その生態系や生き物たちをどう守っていけばいいのかを考えていきます。

  • 可知直毅さん
  • シマクボキリソウ

まずは、生態学者の可知 直毅(かち なおき)さん。
可知さんは小笠原の、植物と無人島の生態系を長年にわたって研究されています。


可知さん 「こちらは植物ですね(右画像)。シマクボキリソウというこの植物、実は南硫黄島で80年ぶり……一度、絶滅したと考えられていた植物なんですが、それが再発見された。」


80年ぶりに!
そんなことがあるんですね!
魚ではクニマスもそうでした。

ところで、小笠原諸島とはどのようなところなのでしょうか?

小笠原諸島とは
  • 海底火山が噴火して海の上に現れた島
  • 生き物たちはどうやって島に?

可知さん 「小笠原というのは海洋島といいまして、海底火山が噴火して海の上に現れる。そういう島のでき方をします。そうすると、そこはもともと最初に島ができたときには、ほとんど生物はいない状態だったはずなんですね。」


では、今 島にいる生き物たちは、そもそもどのようにしてやってきたのでしょうか。

小笠原諸島にやってきた生物
  • 固有種

可知さん 「たくさんの生物が何らかの方法でたどり着いたはずなんですが、そこで新たな進化がたくさん進むということがわかっています。進化の実験場といわれているんですけれども、そういうところで生まれた新たな固有種といいますか、世界中でその島にしかいないような生物というのは、どんな生き方をしているのだろうかということに興味を持ちまして、研究をはじめました。」

  • 大陸島
  • 海洋島
  • 小笠原諸島は日本を代表する海洋島

かつて大陸と陸続きであったものが、海水面の上昇などにより島になったのが、大陸島です。
一方、陸続きだったことがなく火山の噴火などで海底が隆起したものを、海洋島といいます。

海洋島である小笠原諸島には、波や風、鳥などに運ばれて、生き物がやってきて進化したと考えられています。
こうした海洋島などに見られる、そこにしか生息しない種を「固有種」といいます。

  • オガサワラトカゲ
  • オガサワラオオコウモリ

小笠原には、この島にしかいない固有種は、どのようなものがいるのでしょうか。


可知さん 「は虫類だとオガサワラトカゲというトカゲが1種類だけ、小笠原の固有種としてあります。唯一の哺乳類がオガサワラオオコウモリというコウモリ、1種類だけです。コウモリは羽があるので、祖先種のコウモリがみずから飛んできた可能性が高いだろうと思います。トカゲは泳げませんし、風に乗ってくることもできませんので、たとえば流木、枯れた木の中に紛れ込んで、そのまま波に乗って流木と一緒にたどり着いたということが考えられます。」

適応放散

海洋島にたどり着いた祖先種は、異なる環境に生息し適応することで、複数の種類に進化していきました。
この現象を適応放散といいます。

小笠原ではカタツムリの仲間が、あるものは土の中、またあるものは落ち葉の中、そして樹木の幹と、その環境ごとに独自の進化を遂げ、100以上の種になりました。

固有種の弱点
  • ガラスの生態系
  • 外来種

可知さん 「われわれはよく、ガラスの生態系とよぶんですけれども。」


ガラスの生態系とは、どういうことでしょうか。


可知さん 「もともと競争力の強い、大陸の生物がいませんので、そこで進化した生物というのはお互い競争する力が弱いものが多い。それから天敵に対する適応能力も低い。とくに外来種が入り込むと、その外来種にすぐ駆逐されてしまう。そういうことで、ガラスの生態系といいます。」


ガラスの生態系とは、壊れやすいデリケートな生態系ということなんですね。
ところで、そのガラスの生態系を守る取り組みとしては、どのようなことがおこなわれているのでしょうか?

固有種を保全する取り組み
  • プラナリア(渦虫)
  • 外来種を持ち込まない

可知さん 「プラナリア(渦虫)の仲間なのですが、プラナリアが外来種として入り込みますと、固有種のカタツムリは絶滅しています。これを防ぐために、たとえば、おがさわら丸に乗って小笠原に行くと、観光客のみなさんも海水を浸したマットの上を歩いてきれいにするようにしています。これは靴の底にプラナリアの仲間が付いて、広がっていかないようにという対策をとっている。」


外来生物、おそるべし……ですね。

ヤギによる生態系破壊
  • オオハマギキョウ
  • 草がなくなり土が流れ出る

可知さん 「これはオオハマギキョウという小笠原の固有種、固有植物の1つです。これは実はヤギの大好物で、ヤギが入った島ではほとんど絶滅してしまいました。」


ヤギはどうやってきたのですか?


可知さん 「ヤギというのも、これは人間が持ち込んだもので。小笠原の島にとっては外来種です。このヤギが、もともといなかった島に入ると、島の植物を端から食べてしまいます。あっという間に森林がなくなって、草地になってしまいます。さらにその草もヤギに食べられて、土が流れ出し、生態系が大きく壊されてしまいます。」


ヤギには申し訳ないですが、生態系を取り戻すためには、島から出て行ってもらわないといけませんね……。

外来生物 駆除の難しさ
  • ヤギ
  • 固有種とともに外来種も復活する

可知さん 「ヤギは、固有種のオオハマギキョウなんかも食べるんですけれども、同時に外来種のギンネムという植物も食べています。そのためヤギがいなくなると固有種が復活するんですが、同時にギンネムのような外来植物も復活して、それがどんどんはびこるということが、ある無人島では起きています。そのため、外来生物どれか1つを駆除すれば問題が解決するかというと、そんな単純ではなくて。外来生物を駆除することによって、生態系の中での生物どうしのつながりがどのように変わっていくのかという、まさに生態学の研究を通して外来種対策をするということが非常に大切です。」

  • 生態系に組み込まれた外来生物
  • 時間が経つと生態系の一部に

外来種としてやってきた生物も、時間が経つと、そこの生態系の一部になってしまうとは……。
対策が難しいですね。

千歳川とサケ
  • 千歳水族館
  • 川の様子を間近で見られる

お次は、北海道千歳市にある千歳水族館にやってきました!

この水族館は千歳川のほとりに建っているので、水中観察ゾーンからは四季折々に変化する自然の川と生き物たちを間近で観察できるんです。

  • 菊池基弘さん
  • サケの産卵場所は湧き水のある場所

そんな千歳川の生態系について、千歳水族館の館長、菊池 基弘(きくち もとひろ)さんに伺いました。


さかなクン 「千歳川にはなぜ、サケがこんなに多いんでしょうか?」

菊池さん 「千歳川という川は、昔から上流域に非常に豊かな森林があったんです。サケという魚は卵を産むときに、卵を産む場所として湧き水のある場所、地下から水が湧いている場所を探して。実際、サケが産卵するときは、まず最初にメスが川底に鼻を近づけてクンクンクンクンと。」

さかなクン 「『ここだ!ここだ!』と。」

菊池さん 「湧き水を見つけて『よしここだ!』と思うと掘りはじめる。でも『本当にいいのかな?』とまたにおいをかいで、また少し掘って。ということを繰り返しながら、『ここだ!』となったら初めて一生懸命掘り出す。その湧き水が湧くためには、川のまわりにある豊かな森林、緑のダムともいわれますが、そこから水がしっかりためられて、川底にしみ出してくる、そういうことが大事なんですね。その湧き水がある場所が、千歳川には上流域にいっぱいありまして。もともと広大な、サケが卵を産むための産卵場所があった。それが、おそらく昔からサケがたくさん上ってくる川の環境として大事だったのだと思います。」

さかなクン 「千歳川は、サケが暮らせるすばらしい環境要因が、いっぱいそろっていたというわけですね。」

千歳川で見られなくなった魚 イトウ
  • イトウ
  • 長都沼

豊かな自然がいっぱいの千歳川ですが、残念ながら見ることができなくなった魚もいるそうです。


菊池さん 「イトウという魚ですね。」

さかなクン 「幻の魚といわれる、あのイトウですか!」

菊池さん 「イトウもサケの仲間なんですが、以前は北海道各地に普通にいた魚です。今では道内でも限られた場所でしか見られなくなってしまった。実は千歳川の生息している場所が、長都沼という湿地帯を中心に生息していたんです。イトウは、産卵は川の上流、そして大きくなるために成長の場所としては中流から下流。そしてたまに海に出ることもあるという、川全体を使って広く生息する魚なんです。」

  • 釧路湿原
  • 水族館のようす

菊池さん 「そのいちばん大事な、成長するための湿地帯。よくイトウの代名詞として釧路湿原というのもありますけれども、そういう湿地帯のある場所が失われてしまったんです。干拓事業がおこなわれ、水を抜いて畑作のほうに転換した。人の生活のために土地の利用方法が変わったんですが、それによっていちばん大事な成長の場を奪われてしまったことが、おそらくイトウが姿を消した原因だと思うんですけれども。」


水槽の中ではイトウを見ることができますが、残念ながら千歳川では今は見られません。
いつかまた、貴重なこの魚が千歳川で泳ぐ姿を見てみたいですね。

千歳川で絶滅のおそれのある魚
  • エゾトミヨ
  • 合流点に飛び石を置いた
  • 飛び石を置いただけで生態系に影響が出た

菊池さん 「もう1種類、絶滅しそうな魚がいまして。こちらはエゾトミヨというトゲウオの仲間で、背中に細かいとげとげが。」

さかなクン 「チクッとくるやつですね。」

菊池さん 「実は千歳水族館ができた当初は、普通に見られた魚だったんです。特に千歳川の支流にたくさんいたんですが、そこの支流は千歳川と合流するあたりに、人間が川を散歩しやすくするために合流点に飛び石を置きまして。もともとはドンと流れていた川の中に、飛び石がポンポンと置かれた。それだけの工事がおこなわれただけだったんですが、それによって川の出口の水がせき止められて、川の水位が上がり、水の量が増えてしまった。それとともに流れも速くなってしまい、あっという間に姿を消してしまいました。今は本当に細々と生活をしている状態になっています。」

さかなクン 「人が何か手を加えてしまいますと、自然には大きな影響になってしまうことが多いわけですね。」

菊池さん 「私たちの生活のためだとかで環境を変えるというのは、やはり十分調査した上でということが大事なのかもしれませんね。」


一度壊れた生態系。
戻すためにどのような取り組みがなされているのですか?

  • 堰堤
  • 魚道

菊池さん 「石狩川にもサケが上っているんですけれども、実は昔は上流のほうまで遡上していました。あるとき、途中に川の水をさえぎってしまう堰堤(えんてい)ができまして、サケが上れなくなってしまった。そのときから、石狩川の上流域というのはサケがいなくなった、遡上が見られなくなってしまった。ただ近年、堰堤に魚道といって、サケが上れるように脇道をつけてあげた。サケはそこへう回して、堰堤を越えて上れるようになりました。それによって今は、まだ数は少ないですが石狩川の上流までサケが上るようになっています。」

  • 小笠原諸島
  • 千歳川
  • 生態系を守るのに必要なことは?

小笠原諸島と、北海道の千歳川。
同じ日本列島でも、そこに息づく自然はずいぶん違っていました。

今後、こうした個性豊かな生態系が守られていくには、何が必要なのか。
最後に、可知さんと菊池さんにお聞きしました。

  • 自然と人の調和
  • 外来種を持ち込まない工夫

可知さん
「世界遺産級の自然と人とがお互いに調和して、お互いの領分をわきまえながら共存するような、自然と人とのつながり。これができたらいいなと思います。」

  • 川のことを気にする
  • 川の中を見ることができる

菊池さん
「たくさんの人の目で見て、川のこと、川にすむ生き物のことを気にする。
それが大事なんだと思います。
千歳水族館には幸いにも、本当の川の中をのぞける窓があるので、そういうメッセージを発信するには非常にいい立ち位置にいます。
これからも、千歳川で起こったこと、その窓の前で見られたこと、そういう情報をみなさんにお伝えしながら、少しでも川に関心を持ってくださるかたを増やしていく。
それを、川を守る活動として継続できたら。」

  • 次回もお楽しみに!

生態系の中で、小さな目に見えないような生き物から、菌類、植物、動物、すべての生き物にしっかりと役割があるということに気づくことができましたね!
また、私たち人間の活動が生態系に多くの影響を与えているということにも気づくことができました。

私たちは、生態系をよりしっかりと知るためには、一歩外に足を出して、身近な自然に目を向ける。
そこから始めていくということが、まず大きな第一歩になることなのかなと思います!

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