NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

生物基礎

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今回の学習

第38回

生態系のバランス (3)
〜人間の活動と生態系のバランス〜

  • 生物基礎監修:海城中学高等学校教諭 関口 伸一
学習ポイント学習ポイント

生態系のバランス (3) 〜人間の活動と生態系のバランス〜

  • 宮下直さん
  • ミヤマシジミ

生態学者の宮下 直(みやした ただし)さんは、長野県飯島町のソバ畑に来ています。
絶滅危惧種に指定されているチョウの現地調査などのためです。


宮下さん 「まだちゃんとはわかっていませんが、ソバの花が咲いている時期には、あぜや土手にいるミヤマシジミが、ときどき蜜を吸いにくるということが観察されています。」


そのチョウの名前は、ミヤマシジミ。
日本の各地で姿を消しているシジミチョウです。

ミヤマシジミの保全 地域の人たちとともに
  • ミヤマシジミの保全
  • ソバ畑

宮下さん 「飯島町でミヤマシジミの保全に関わる研究をしているのも、昔は腐るほどいたものが、今あちこちで絶滅しているという。こういう状況をなんとかいい方向へもっていきたい。地域の人たちの財産、たとえばミヤマシジミは地域の宝だから、農業といかに両立して守っていく方法を一緒に考えようという機運になりつつあります。」


農業と両立させて、ミヤマシジミを守っていく?
農業のしかたによって、貴重な生物が暮らす生態系が守られるということですか?

里山とは何か
  • 里山は人間が介入することで維持されてきた
  • モザイク性

宮下さん 「里山は、そもそも昨日今日できた環境ではなくて。水田稲作がスタートだと考えると、おそらく2000年以上の歴史があるといわれています。常に人間が介入することによって維持されてきた環境なわけです。ですから里山そのものが、かく乱があってはじめて里山であるといえます。」


里山とよく聞きますけれど、私たちが親しんできた農村風景ですよね。
里山は、農業など人によるかく乱によって維持されてきた、身近な環境なんですね。


宮下さん 「里山はよくモザイク性といわれています。すごく小さな範囲で雑木林や田んぼ、原っぱがあったりする。」

  • 里山
  • 里山の特徴

里山とは、私たちが農耕を始めた先祖から受けつぎ、維持・管理してきた人里近くにある、なじみ深い環境です。

比較的狭い範囲に、水田や畑などの農地や、雑木林、小川(水路)やため池、草地などが隣り合わせにあるのが特徴です。

  • 田植えのため水が張られる
  • 雑木林は管理される
  • 火入れ

米づくりでは、田植えのため、毎年同じ時期に田に水がはられます。

炭やたきぎにする木を切り出すことで、雑木林は管理されます。
また、落ち葉を集め、下草刈りによって林の中は明るい環境に保たれます。

そして、草原の枯れた植物を火で焼き払う火入れの作業は、草原が森林に遷移することを防いできました。

里山は伝統的な農業や暮らしが毎年繰り返されることで、適度なかく乱が繰り返され、維持されてきた生態系といえます。

里山が生物多様性を支える
  • 里山が生物多様性を支える

宮下さん 「もう1つ重要なのは、2つ以上の生態系がセットでそろっていることによって、はじめて生きられる生き物が里山にはたくさんいます。たとえばアカガエルの仲間。アカガエルは基本的に、春先に親が田んぼに卵を産みにきて、ふ化したオタマジャクシが水の中で暮らす。6月くらいになると田んぼから出て、今度は森に戻ってくるんですね。ドジョウも一生田んぼにいるわけではなくて、基本的には田んぼと水路や川の間を行ったり来たりしている。」


里山にいろいろな環境があることで、いろいろな生き物たちの暮らしが支えられているんですね。

  • コウノトリ
  • ヘリコプターによる農薬の散布

コウノトリも、人間がイネを育てるようになった昔から、里山の環境に適応してきた生き物の1つです。
コウノトリは、水田や小川などでえさをついばみ、その近くの林に巣をつくってひなを育てる姿が普通に見られる身近な鳥でした。
里山の複数の生態系があって、はじめて生きられる鳥なのです。

ところが、戦後その環境は一変します。
大きな原因は、農業の近代化でした。

里山の危機 水路整備と農薬
  • 水路整備と農薬

宮下さん 「1つは、昔は湿田状態で、水は出すんだけれども完全に乾くことはなかった。それが農業の近代化によって排水設備をしっかり整えるようになった。もう1つは農薬ですね。いわゆる殺虫剤、除草剤が大量に使用されるようになった。農家の負担や生産性の向上に、非常に大きく貢献したのは間違いない。しかし、その副作用というか。反面、非常に多くの生物が大打撃を受けた。」

  • 田んぼに生息する水生昆虫
  • 水路整備が生き物の自由な移動の妨げに

農業の近代化によってコウノトリは急激に数を減らし、野生のコウノトリは1971年に絶滅してしまいます。

その原因の1つは、農薬によってえさとなる水生昆虫やドジョウなどが姿を消したことです。
また、水路など排水設備を整えたことで、カエルなどの生き物たちが自由に移動できなくなり、数を減らしていきました。

  • 農薬の使用を減らした農法
  • 自然に帰されるコウノトリ

兵庫県豊岡市では、野生のコウノトリの絶滅前からコウノトリを飼育し、保護活動に取り組んできました。
またコウノトリが再び暮らせる環境をつくろうと、農家が協力して農薬の使用を減らした農法や、ビオトープをつくるなどの活動をおこなってきました。

その結果、繁殖したコウノトリを自然に戻すことで、野生のコウノトリが少しずつ増えていったのです。

  • 樹液の出る木が減っている

では、里山の雑木林でも何か変化が起きているのでしょうか?


宮下さん 「最近、少しわかった例なのですが。雑木林というのは、たとえばクヌギの木から樹液が出ていて、そこにカブトムシやクワガタ、スズメバチ、オオムラサキとかのチョウ、カナブン……いろいろなものがきています。最近、樹液の出る木が減っていることが知られているのですが、その理由の1つに、日本で最も大きなカミキリムシであるシロスジカミキリが減ったことが原因の1つではないかといわれています。」


どうして、雑木林に樹液の出る木が減ってしまったのでしょうか。

  • シロスジカミキリ
  • 木から出てくるシロスジカミキリ

宮下さん 「シロスジカミキリは、親がクヌギやコナラの幹の低いところをかじって、そこに産卵するんです。親になって出てくるまでの間、クヌギの木を痛めつけて、その結果、樹液が出てくる。クヌギの樹皮は非常に厚い。木が細いうちは、カミキリが木の中にもぐりこめるんです。」


細くてやわらかいクヌギやコナラが、シロスジカミキリには必要なんですね!
ところが、成長しすぎた木では、幼虫は木の幹に入って育つことができなくなってしまうのですね。

里山の危機 人間が介入しなくなった
  • 人間が介入しなくなった

宮下さん 「いわゆる農業が衰退して、人間が自然・里山にあまり介入しなくなった。それまで、人間が里山を15年とか20年とかの周期で伐採して、常に若い木が供給されていた。それがなくなることによってシロスジカミキリが発育できる場が激減してしまったことが、究極的な理由だと考えられています。」


里山での農業や暮らしは、どのように生き物たちのすみかを守ってきたのでしょうか。

  • 雑木林の中に並べられるほだ木
  • 燃料としても使われる
  • 雑木林の樹々は成長が早い

雑木林も、かつては人間が利用することで維持されてきた里山の生態系のひとつです。
クヌギやコナラなど、樹木は管理され、生活のために使われてきました。
しいたけ栽培のほだ木も、雑木林の木を切ったものです。

また、雑木林の木は、たきぎや炭などの貴重な燃料となりました。
雑木林の樹々は成長が早く、切株を残せば芽が出て、また自然に育っていきます。
十数年に1度、計画的に樹木を伐採することで林のまま遷移せず、生き物たちの住みやすい環境が維持されてきたのです。

  • 落ち葉を集めてたい肥をつくる
  • 循環型農法

しいたけの栽培で使い終わったほだ木は、雑木林に戻され、土に戻ります。

さらに人々は雑木林の下草を刈り、落ち葉を集めてたい肥をつくり、畑などで利用してきました。
こうした循環型農法が、里山では行われてきたのです。

宮下さん 「生態系の循環の中に、農業生産も組み込まれていた。その過程として、たとえば草地が維持されたり、若い雑木林、明るい雑木林が維持されている。

  • 火入れ
  • 木本が焼かれることで遷移が抑えられ草地が維持される

火入れ(野焼き)も、古くからの農業のやり方の1つですよね。


宮下さん 「一見、野に火を放つわけですから、環境破壊の典型のように見えるかもしれませんが。結局、枯れ草や枯れ枝を燃やしているわけですね。そうすると、まず生態系の循環が早まるわけです。それともう1つ、放置すると草原も遷移が進んで樹林化してしまう。そうすると当然、草原は維持されない。火入れによって、いわゆる木本の類が焼かれて草本が助かるということで、遷移を抑える重要な役割を果たしているということですね。」

  • 長野県飯島町のソバ畑
  • ソバの花に網をかける

長野県の飯島町は、宮下さんが調査・研究している場所の1つです。
田んぼや雑木林、ソバ畑があり、里山の生態系が残っています。
ソバの花に網をかけていますが、どうしてなのですか?


宮下さん 「自然状態の何もかけないものと、網をかけた花で、どのくらい実がつくか比べる。そうすることで、大きな虫がどのくらいソバの実りに貢献しているかというのを比較実験で評価できる、そういう目的です。」

花粉を運ぶ昆虫と里山の生態系
  • ソバ畑のまわりに雑木林や森が広がる
  • 網より大きな昆虫は受粉させることができない

宮下さんがミヤマシジミを調査しているソバ畑のまわりにも、雑木林や森が広がっています。
そば畑にやってくる昆虫たちと、まわりの環境との関係を調べています。

1つの方法が、網をかけた花と、かけない花との比較です。
網をかけると、網の目よりも大きな昆虫は花を受粉させることができません。


宮下さん 「ご覧になればわかるとおり、もちろんソバ畑は広がっているんですけれども、あとは田んぼがあって、それと雑木林というか森も残っています。既に別の人の研究で報告されているのですが、割合、森に近い環境だと、花粉を運んでくれる昆虫類が増えるのではないか。それがどのようにソバの実りに影響しているかということは、まだよくわかっていないんですね。」

  • 畑のまわりの生育状況の調査
  • 畑のまわりの生育状況の調査

また、宮下さんは研究室の学生たちと一緒に、畑のまわりの草地や水田のあぜに、どんな植物がどれくらい生育しているのかも調査しています。

  • コマツナギ
  • ミヤマシジミ

ミヤマシジミが絶滅危惧種になった理由に、田んぼのあぜや土手などの草地の手入れをしなくなったことがあげられます。
けれども、飯島町にはミヤマシジミが育つ環境が残されています。

コマツナギは、ソバ畑や田んぼのあぜなどの草地でないと育ちません。
ミヤマシジミの幼虫は、コマツナギの葉しか食べないのです。

農家の人たちは、除草剤の散布を控えたり草刈りをすることで、コマツナギが育つ環境を残そうとしています。
飯島町では、宮下さんの調査・研究に協力しながら、町ぐるみでミヤマシジミの保全に取り組んでいるのです。


宮下さん 「ソバの場合は実はあまり害虫が多くなくて、基本的に殺虫剤はほとんどまかないのですが。水田やあぜに、殺虫剤や除草剤をなるべく使わないということをやっている人もいますね。」


飯島町のような取り組みがどんどん広がっていくといいですね!

  • オミナエシ
  • キキョウ

宮下さん 「現在は、人間にとってはあまり利用価値がなくなった草地ですが、一方でミヤマシジミですとか、秋の七草とよばれるオミナエシやキキョウといった植物は、こういう土手やあぜ、草原なんかでしか見られない貴重な生き物なんですね。」

ミヤマシジミへの思い
  • ミヤマシジミへの思い
  • 次回もお楽しみに!

宮下さん 「私はこの飯島の南にある飯田で生まれ育ったのですが、昔は本当に秋になるとどこにでも、山のほうの荒地とか田んぼのまわりの土手に、どこにでもいたんですが。それが今、まったく見られなくなった。だけど、まだこの飯島町は奇跡的にこういった農地のまわりに、まだかなりの数が残っているということで。こういったいい環境を将来にわたって残していきたいなと。そのために、基礎となる研究をしっかり学生と一緒に続けていきたいと思っています。」


里山にはさまざまな環境があって、そこを行き来するさまざまな生き物がいるんですね。


宮下さん
「田んぼにカエルがいたり、メダカがいたり、あるいは土手に秋の草が生えていたり……そういうのは、あちこちで残っていると思います。
そういうものを、身近な自然をじっくり見つめなおすということが、まず第一歩かなと。
身近な自然を見つめなおすということから、生物多様性への思いというのを育んでいってもらいたいと思います。」



それでは、次回もお楽しみに!

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