NHK高校講座

生物基礎

Eテレ 毎週 火曜日 午後2:40〜3:00
※この番組は、前年度の再放送です。

生物基礎

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今回の学習

第6回

呼吸

  • 生物基礎監修:東京都立西高等学校指導教諭 渡邊 正治
学習ポイント学習ポイント

呼吸

  • 一分子生物物理研究者 野地 博行さん
  • 「ATP合成酵素」を研究

第3回でATPについてお話をしていただいた、一分子生物物理研究者の野地 博行(のじ ひろゆき)さんです。


野地さん 「酵素がATPを分解すると、ADP(アデノシン二リン酸)になります。今度はこのアデノシン二リン酸を使って、色を出すような反応が行われて。ATPが1個分解されると、その色素が1個できる。」


野地さんは、ADPとリン酸からATPを合成する酵素「ATP合成酵素」を研究しています。

  • ATP合成酵素の分子一つひとつの動きを見る

野地さん 「このスペースには、ATP合成酵素の分子一つ一つの動きを見るための顕微鏡がたくさん置いてあります。」


野地さんは1つのATP合成酵素を使って研究しています。
ATPがどのようにつくられているのか、その現場を目撃しているわけですね!

  • ATP
  • ADP

野地さん 「僕らの体の中にあるATPは数百グラムといわれています。なので大した重さではないのですが、たとえばATPも分子なので、つぶつぶです。この特定の粒だけを観察すると、1日に数百回、合成と分解を繰り返しています。」


野地さんによれば、基礎代謝レベルでも、人間は1日に自分の体重相当のATPを合成し、同じ量だけATPを分解しているといいます。
ATPって、そんなに毎日つくられているのですか!?

  • 生きている=エネルギーを利用している状態
  • 生物は、どのようにエネルギーを利用?

野地さん 「生き物、もしくは生きているという状態は、エネルギーが流れている状態だと僕は思っています。僕にとっては『生きている=エネルギーを利用している状態』といえると思います。」


「エネルギーが流れている状態」とは、どういうことでしょうか?
生物は、どのようにエネルギーを利用しているのでしょうか。

さまざまな生物が呼吸によって生命活動を維持

まず、太陽の光エネルギーを使い、植物が光合成を行います。
そこで光エネルギーを利用して、有機物が合成されます。
その有機物を分解することで、動物をはじめさまざまな生き物が、呼吸によってエネルギーを取り出し、自らの生命活動を維持しているのです。

呼吸の反応
  • 生物は生命活動に必要なエネルギーを取り出す
  • 呼吸とは

「呼吸によってエネルギーを取り出し、生命活動を維持」……呼吸って、吸ったり吐いたりする、あの呼吸ですよね。
呼吸で、エネルギーが取り出せるのでしょうか?


野地さん 「生き物にとっての呼吸というのは、何かものを酸化したときに得られるエネルギーを使って、ATPなどのエネルギーを運んでくれる分子をつくる、その反応の総称のことと考えてもいいです。」


生き物は、生命活動に必要なエネルギーを、呼吸によって取り出しています。
息を吸って体に取り込んだ酸素は、細胞内で有機物を分解する過程で使われます。
その際にエネルギーが得られます。
細胞の中で酸素を用いて、酵素が有機物を分解し、そこからエネルギーを取り出すしくみを呼吸といいます。

  • ミトコンドリア

細胞で呼吸……?
魚はエラ呼吸ですが、細胞はどこで呼吸をしているのでしょうか?


野地さん 「我々の体を構成している、ほぼすべての細胞がミトコンドリアという細胞内小器官を持っていまして。『頭の先から足の先まで』って言ったほうがいいのかな?全身で行われていて。」

  • ミトコンドリア図
  • 青い光を当てると光る物質を細胞に入れてある

細胞での呼吸は、細胞小器官のひとつ「ミトコンドリア」で行われます。

マウスの細胞(右画像)でミトコンドリアを観察してみましょう。
青い光を当てると光る物質を細胞に入れてあります。
光っているところにミトコンドリアがあるということになります。

  • 丸で囲んだ部分が一つの細胞
  • 光っている部分すべてがミトコンドリア

顕微鏡で観察します。

左画像の線で囲んだ部分が1つの細胞です。
この細胞を、さらに拡大して見てみると、細胞のほとんどに光っているものが見られます(右画像)。
光っている部分すべてがミトコンドリアです。

  • ミトコンドリアは常に動いている

細胞の様子を時間を縮めて見てみると、あちこちに動いています。
ミトコンドリアは細胞の中にたくさんあり、常に動いているのです。

  • オオカナダモのミトコンドリア
  • クリステとマトリックス

ミトコンドリアをさらに詳しく見てみましょう。

これは、オオカナダモのミトコンドリアです。
しま模様がたくさん見られます。
内部には、膜が折りたたまれています。

左画像の丸が付いたところをよく見ると、膜が二重になっています。
ミトコンドリアは、外側にある外膜と、内側にある内膜が二重になった構造をしています。

内膜はひだ状に伸びており、この構造をクリステと呼びます。
内膜に囲まれた空間をマトリックスと呼びます。

ミトコンドリアのATP合成過程

ミトコンドリアでは、取り込まれた有機物が無機物に分解され、その過程で出るエネルギーを利用してATPが合成されます。


野地さん 「ミトコンドリアの電子顕微鏡写真を見ると、ATP合成酵素がビッシリ入っているのが見えます。もう、何個あるのかわからないです。1つのミトコンドリアに、たくさんのATP合成酵素があって、これがおそらく常に回っていて、これが止まった瞬間に人間は死にます。」


ATPが合成された矢先に分解され、分解されたものはすぐにまた合成され、それがまたすぐに分解される……という、非常に速い反応のサイクルの中にあることから、「生物は実際にはもっと騒がしい世界だ」と野地さんは話します。


野地さん 「ATPは、『ご飯のエネルギーを使って合成されてできます』といったように書かれていますけど、実際にはすぐにそれが消費されて、それがもう一回ご飯のエネルギーを使ってつくられて、っていうので何回も何回も、くるくる回っています。それを1日に数百回だと思います。」

  • 孔辺細胞
  • 細胞アップ
  • 細胞アップ

細胞の中ではそんなに目まぐるしく、ADP→ATP→ADP→ATP……と繰り返されているんですね。
それだけATPが体で使われている、ということなんですね。


野地さん 「『ATPを愛している』と言われるとちょっとアレですけど……そうですね。ウチの研究室では、ATPという単語が100回以上出ないことはないです。」

呼吸と燃焼の違い
  • グルコース
  • 直接火をつけて燃やすのとは異なる

呼吸では、有機物が分解されることでエネルギーを得られるということですが、有機物が分解されることと、エネルギーが得られることは、どのような関係なのでしょうか?


野地さん 「ミトコンドリアの中では、たとえばグルコースを分解して、最終的にこのグルコースを完全に燃やし尽くすんですけれども、これは直接火をつけて燃やすのとは全然違っていて、細かい小さな反応がたくさんあります。」


この反応は、「ガソリンを燃やして、車が動く」というような反応ではありません。
生物は、そのような急激な反応は行わないといいます。


野地さん 「ものすごく精密に、正確に。この分子のここを少しだけ変えます、少しだけ酸素と結び付けます。残りは変えません。その次のステップでは、ここを変えます。みたいな形で、ものすごくたくさんの反応・ステップを経て、最終的にはそのたびに細かく出てくるエネルギーが、ATP合成酵素によってATPに変換されるというわけです。」

  • 燃焼の場合
  • 呼吸の場合

呼吸の反応ではどのようにエネルギーを得ているのか、その過程を見てみましょう。

化学エネルギーを蓄えた有機物を燃やすと、酸素と結合して、そのエネルギーは急激に炎や熱に変換されます。

一方、呼吸の反応では、有機物を段階的に・穏やかに分解し、その一つ一つの反応で少しずつエネルギーを取り出し、ATPという形に変えていきます。

  • ファンを回転させても風が生まれる

野地さん 「ATP合成酵素というのは、水力発電機とそっくりです。問い直すと、水力発電機はなぜ回転が必要なんだろう、ということもできます。結局回転とは何かというと、同じ運動を繰り返すときに一番都合のいい形なんですね。」


例えば扇を上下に振り続ければ風が出続けますが、これを繰り返すためには、ファンを回転させるのが都合がよいのだといいます。


野地さん 「同じように、ミトコンドリアの上下にかかっている水素イオンの流れを使ってATPを合成する。これを何回も何回も繰り返そうと思うと、必然的に回転運動が一番都合がいいということになると思います。」

  • ATP合成酵素_内膜に埋まっている部分
  • ATP合成酵素_膜の外側

ATPがどのようにして合成されるのか、模型で見てみましょう。

ATPは、ADPとリン酸を結合する、ATP合成酵素によってつくられます。
ATP合成酵素は、2つのブロックからできています。
1つはミトコンドリアの内膜の中に埋まっており、もうひとつの部分は膜の外に出ています。

  • 内膜に埋まっている部分に水素イオンが通る穴
  • この動きによってADPとリン酸が結合

内膜に埋まっている部分には、水素イオンが通る穴があります。
ここに勢いのある流れができると、回転を始めます(左画像ー青部分)。
すると、もうひとつの部分が動き始めます(右画像)。

ADPとリン酸は、もともと結合しづらい形をしています。
しかし、この動きによってADPとリン酸が結合し、ATPが合成されるのです。

  • ATP合成酵素をガラスの表面に固定

野地さんは、その様子を本当に見たのでしょうか。


野地さん 「はい、見ました。ATP合成酵素はとても小さいので、目に見ることはできません。が、それをガラスの表面に固定して、小さすぎるので目印をくっつけます。そうすると、ATP合成酵素の一部分である分子が、自分よりも数百倍も長い棒を水の中でくるくる回す様子として顕微鏡で見ることができまして。ミトコンドリアの上下にかかっている水素イオンの流れを使って、ATPを合成する。」


これが、ATP合成酵素の動きなんですね!

  • 回転の様子
  • 回転の様子_その2

野地さん 「通常、僕自身が研究しているのは、細胞から取り出してきたタンパク質です。タンパク質単体では、厳密な意味では生きているとはいえません。ですが、タンパク質が動いている様子を見ると、まるでそれが生き物のように、頑張って回ったり、回りにくいところを動いたりする様子が見えまして。そういった意味では全然科学的ではないんですけれども、実際に実験している現場としては、分子も生き物のように感じます。」


こんなに小さな分子が、私たちが生きていくために頑張っているのですね!

植物は光合成と呼吸を行う

生命活動に必要なエネルギーであるATPの源は、太陽の光エネルギーです。
植物の光合成によって、光エネルギーは葉緑体でATPに変換され、そのエネルギーを使って有機物が合成されます。

植物は呼吸も行います。
植物細胞にあるミトコンドリアで、光合成で合成した有機物を材料として呼吸を行い、ATPを合成します。

動物は呼吸によってATPを合成

他方、動物は、植物などほかの生き物がつくった有機物を食べて、呼吸によってATPを合成します。

  • なぜ気まぐれな反応の組み合わせで精妙な「生きている」状態に?

野地さん
「1個の分子を見ると、一つ一つの分子の動きというのはとても気まぐれで、本当にいい加減なんですね。
回っていたかと思うと突然止まったり、止まっていたかと思うと回りだしたり。

けれども、実際に我々自身を考えると、そんな気まぐれな反応が集まってできているとは思えないくらい精巧にできています。

確率的な、気まぐれな反応を組み合わせて、なぜこんな精妙な、生きているという状態を実現できているのか。
これは現代の生物学においても最大の謎のひとつだと僕は思います。」



それでは、次回もお楽しみに!

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