Eテレ 毎週 火曜日 午前10:00〜10:20
※この番組は、前年度の再放送です。
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第1回
はじまりました生物基礎!
ナビゲーターは、さかなクンです。
はじめにやってきたのは、国立科学博物館の筑波実験植物園です。
落ち葉をルーペでのぞき込む、国立科学博物館 植物研究部の細矢 剛さん。
落ち葉に何かを見つけた様子ですが、どこに、何がいるのでしょうか?
細矢さん 「日本語の名前がないんですけれども、学名はピレノペチザーという名前の菌です。小さいキノコ。」
落ち葉についている白くて小さいものが、キノコなのだといいます。
続いて木の枝を切り出すと、ここにもいました(右写真)。
細矢さんは日本の菌類を中心に、カビやキノコなどの菌の種類や生き方を調べています。
細矢さん 「たとえば、このホオノキの葉からいろんなカビを取っていったら、多分数十種ぐらい出てくる。この1枚の葉っぱだけで。」
この葉っぱ1枚に数十種!そんなにいるんですね。
細矢さん 「それから、このホオも、枯れた葉っぱと木に付いている緑の葉っぱとではわけが違う。違う菌が取れてきます。そうやっていくと、たとえばホオという植物だけに、『1個の植物に限って何種』って調べる必要があるんですね。」
細矢さん 「たとえばここにニワトコが植えられていますが、ニワトコの葉っぱを取って、そこから取ったら、また別の菌が取れてくると思います。」
細矢さんによれば、日本で菌の名前がついているのは1万2000種、世界では9万7000種、実際にいる菌は150万種ともいわれているといいます。
このことから考えると、日本でもまだまだわかっていない菌がたくさんいるということは明らかだと細矢さんは話します。
ちなみに、魚の場合は世界に約3万種、日本には約4000種いるといわれています。
細矢さんに案内していただいたのは、菌類の標本庫です。
ここには日本全国から集められた菌類の標本があり、現在は約10万点が収められています。
細矢さん 「菌類の標本庫としては日本最大といえるんじゃないかと。古いものだと19世紀の終わりぐらいから集められたものもあります。」
細矢さんがカビに興味を持ったのは、大学3年生の微生物の実習だったといいます。
細矢さん 「ご存知のように、菌類は胞子で増えていきますよね。その胞子は実にいろいろな形をしていて、胞子のつくり方というのも多様なんですよね。カビってこんなにたくさん種類があるんだということに気づいて。それで、カビに興味を持ちましたね。」
細矢さんは、胞子や菌を忠実にスケッチすることで、わずかな違いでも見つけることができるのだそうです。
まさに、現代の南方熊楠(みなかたくまぐす:明治〜昭和時代の研究者)ですね!
細矢さん 「1種の菌から、長い時間をかけて進化してきて、いろんなものが出てきているわけですよね。元はどうだったのか、元の祖先はどうだったのかということが、多様な生物をたくさん比較して調べるということによってわかっていく。それによって系統樹というものが描かれるんですよね。」
系統樹を見ると、どのようにして進化してきたのかということがわかっていきます。
細矢さん 「極端な話を言えば、全生物は、最初は元をただせば1個の細胞から出てきているわけですよね。で、そこから動物や植物、それから菌類、それからバクテリアとか。そういったものが全部枝分かれしているわけですね。突き詰めて考えると、そういう全部の生物の、枝分かれしてきた進化の図、地図みたいなものが描けるということになります。」
地球上の生物は、共通の祖先から進化してきたと考えられています。
生物が進化し、枝分かれしてきた道筋を示したものを系統樹といいます。
左図の一番下にあるのが祖先、そこから長い時間をかけて、生物の種類が増えていきました。
そして非常に多様な生物が見られるようになったのです。
空を飛ぶもの、速く走るもの、水の中に住むもの、暑いところに住むもの、寒いところに住むもの、人間の目には見えないような小さなもの。
現在、百数十万種の生物に名前がついています。
発見されていない生物を含めると、1000万種類を超えるといわれています。
多様な環境の中で相互に複雑に結ばれながら、生物はこの地球に生きているのです。
細矢さん 「『生き物』っていうとね、大体、ほ乳類なんですよ。世間の人の生き物って、犬や猫や何とかで。虫までいけばまだ良いほうで。そこでゾウリムシとかがトップに出てきたら、何かコイツ変だなって感じになると思うんですよね。だからやっぱり、世間の人の生き物の感覚よりも、はるかに広い範囲のもの、想像してないようなものが、実は生き物の世界は広がっているんです。」
細矢さんは、菌を生きたままの状態で保存しています。
その数は、なんと4000本もあるのだそうです。
細矢さん 「カビのように生えたものを生かして。そして、これを必要に応じて増やして、DNAを取り出したり。たとえば共同研究で『ここから化学物質が取れないか』といったことなどを研究する場合もあります。」
ところで、DNAって……何でしたっけ?
細矢さん 「生物っていうのが、体をつくっているわけですけど、その体をつくっていくための設計図っていうのが、遺伝子なわけですよね。」
すべての生物は遺伝子を持っています。
遺伝子は生物の形や性質を決めるための情報です。
この遺伝子が記録されているのがDNAという物質で、親から子へと伝えられていきます。
細矢さん 「いろんな生物が共通して持っているような遺伝子、たとえばタンパク質。これはあらゆる生物に必要ですから、菌類ももちろん遺伝子を持っています。特定の場所の遺伝子をいろんな菌で比較していく。そうすることによって、『どう遺伝子が変化したのか?』ということを予測する、推定するような技術が現在はあるんです。」
細矢さんはいろいろな菌からDNAを取り出して、遺伝情報が種によってどのくらい違うのかを調べています。
細矢さん 「その多様性を理解できる、理解する方法っていうのは、全生物が遺伝子を設計図として持っているから。それって立派な共通性なんですよね。いっぱいあり、かつ同じところもあり、いろいろな能力を持っている。それがどういうふうにできてきたのかって、進化のことを考えたら不思議になりませんか?」
共通の祖先からさまざまな生物が進化してくるって、不思議ですね。
でも……そもそも生き物って、何なんでしょうか?
合成生物学者の木賀 大介さんは、新たな生物を人工的につくり出す合成生物学の研究を通して、生物とは何なのかを調べています。
木賀さん 「いろいろな生き物の遺伝子の情報がわかってきています。そして、情報からDNAをつくることができるようになりつつあります。またDNAからタンパク質をつくり直すことができるようになっています。」
DNAに、タンパク質……なんだか難しそうです。
ですが、この研究は、共通の祖先の謎を解くカギにもなるのだそうです。
木賀さん 「大昔の、この地球上で生まれた最初の生命というものが、私たちの祖先の最初の細胞になり、これが多様化して、今の生物の姿になってきたと考えています。人工的な細胞をつくり出すことで、『最初の生命』『最初の細胞』という縛りから外れた、『生き物がどこまで変われるか』ということを実験室の中で研究しています。」
木賀さん 「つくれないものはわからない、というようなことを言う人もいます。つくって初めてわかる、ということにもなるんでしょうか。実際に、今の生物の共通性というものが本当に重要なのか、たまたま決まったということが、ものをもって示すことができることです。」
「生物の共通性」というのが、「生き物とは何なのか」の答えにつながるようですね。
すべての生物には、共通するいくつかの特徴があります。
1.細胞からできている
細胞は、細胞膜という膜で包まれた構造をしています。
2.DNAを持つ
DNAは、生物の形や性質を決める基になる物質です。
3.エネルギーを利用する
生物は人間や動物のように食べたものからエネルギーを取り出したり、植物のように光合成を行って光のエネルギーを取り込んだりしています。
4.自分と同じ構造を持つ個体をつくる
生物は子孫をつくります。
子孫をつくるということは、自分と同じ構造を持つものをつくること。
それを子孫に伝えるしくみを持っているということです。
5.体内や細胞の状態を一定に保つ
生物は生きていくうえで体内を安定な状態に保つしくみを持っています。
たとえば砂漠のような暑い環境でも、極寒の環境でも、体温を一定に保つしくみを持っています。
体温だけでなく、生物は体や細胞の中の状態を一定に保つためのいろいろなしくみがあるのです。
木賀さん 「生命が複雑すぎるというところもありますね。であるならば、すごく単純・シンプルな、中身がわかっているものをつくりながら、シンプルな原理ということを示して、その原理に基づいて本当につくれるのかということによって、その原理を確認する。」
木賀さんに、タンパク質を人工的につくる実験を見せていただきました。
小さな試験管には、細胞をすりつぶした液にアミノ酸、そしてエネルギー源となるものを入れています。
装置に入れ時間をおいた後、試験管に特定の波長の光を当てると、緑色に光りました。
この反応から、タンパク質が正しく合成されたことがわかるといいます。
木賀さんは実験するなかで、今の生物が共通に持っているものとは違うしくみが生まれることもあると話します。
木賀さん 「偶然につくられたということに、決まってきたということが、わかるということになると思います。偶然の結果でもあるというのが1つの見方かもしれません。ただ、もう1つ重要なことは『偶然なんだけど、これに選ばれたんだから何かの価値があるんじゃないか』と考えること。」
最初の生物が生まれてきたことや、生物に共通した特徴があるのは、偶然が積み重なったからなのでしょうか。
「生物って何か」という謎は、とても奥が深いんですね。
木賀さん 「私自身、いろんな人工的な生物をつくっていますけれども、大元は外に出て、あぁこんな生き物がいる、あんな生き物がいるっていうのを見ること。これが非常に楽しいですよね。」
細矢さんも、いろいろな生き物を知ることが、生き物を学ぶ“基盤”だと話していました。
細谷さん
「生物を学んでいく上で、その多様化ということをわかる・理解しようとすることによって、なぜその多様化が起きたのか。
それから、どういう多様性を持っているのかという可能性を見ていくっていうことがわかる。
だから、多様性を追求するというのは、可能性を追求するということと、ほぼ同じようなものになるんじゃないかと思います。
どのぐらいの範囲まで、その多様性を広げられるのか、それは人間の多様性も同じだと思うんです。
よく私が思うのは、生物は多様だから良いんだと。
多様なことというのは、生物の世界にとって宝だというふうに思うんです。
人間も、そういった多様な経験をしたり、多様なことをやるということが、そのキャリアや、そういうことを積んで行く上での、宝になるんじゃないかというふうに思っていますね。
そういう意味で、多様であるということそのものに価値があるんだと、私は考えています。
それを学ぶための1つのきっかけとして、生物というのが材料になるんじゃないかなと思っています。」
生物って、覚えることがたくさんあって難しそうだなと感じていませんか?
でも、生物から教えてもらえることって、たくさんありそうですね。
これから1年間、一緒に生物基礎を学んでいきましょう!
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