NHK高校講座

科学と人間生活

Eテレ 隔週 木曜日 午後2:00〜2:20
※この番組は、前年度の再放送です。

科学と人間生活

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今回の学習

第4回 生物

微生物を利用する

  • 科学と人間生活監修:岡山白陵中学校・高等学校教諭 竹内 和広
学習ポイント学習ポイント

微生物を利用する

  • 発酵食品

今日も僕蔵さんのところへやってきた、理陽くん、実穂さんの二人。
まだ夕方だというのに、僕蔵さんの部屋のテーブルには、いろいろな食品が並んでいます。

理陽 「こんにちは。」

実穂 「もう夜ご飯?」

僕蔵さん 「今日は、お昼を食べそこねたから、早い夜ご飯にしようと思ってね。」

理陽 「でも……、突然だけど、この部屋臭くない?」

実穂 「そう言われれば、なんか臭うね。」

最近、発酵食品に夢中だという僕蔵さん。僕蔵さんの前に置かれている食事は、全て微生物を利用した食品だといいます。

実穂 「微生物が中にいるの?」

僕蔵さん 「この ぬか漬けだって、微生物を利用した食べ物なんだよ。ぬか床を自分で作って、毎日手をかけてあげれば、それだけ美味しい漬物が食べられるんだ。」

今日のテーマは「微生物を利用する」です。 私たちの生活に深い関係がある微生物について、考えていきましょう。

  • 発酵
  • 発酵食品を作る主な微生物

僕蔵さん 「毎日の食生活に欠かせない、味噌や醤油の原料は同じものなんだけど、何だと思う?」

理陽 「お味噌は、何かの粒っぽいよね。」

実穂 「お醤油は液体だから、何かをしぼったのよね。」

僕蔵さん 「答えは大豆なんです。」

複数の微生物によって、大豆を発酵させたものが味噌や醤油となります。
発酵というのは、微生物の力で、人間にとって有用な物質を生産する手段のことです。

発酵させるための微生物は、主に3種類あります。納豆・ヨーグルトは「細菌類」、甘酒・かつお節は「カビ」、ビール・ワインは「酵母菌」の力を利用して作られます。
発酵商品を作るための微生物は決まっていて、これらの食品は、それぞれ一種類だけの微生物が利用されます。

一方、味噌のようにカビ・酵母菌・細菌類など、数種類の微生物の共同の働きによる発酵食品もあります。
味噌の作り方をみていきましょう。

  • 味噌工場
  • 麦こうじ・豆こうじ

洗った大豆に水を加えてふやかし、練ります。その後、大豆・塩・こうじを混ぜ合わせます。
「こうじ」は米・麦・大豆などの穀物に、主にカビなどの微生物を繁殖させたものです。この こうじ によって大豆の発酵がうながされます。

  • 石の重しをのせて発酵させる

混ぜ終えたら樽に仕込み、空気に触れないように蓋をし、重しをのせます。
およそ一年たつと、樽の中では発酵が進み、食べごろになります。微生物のおかげで大豆が味噌に変わり、しかも風味も増して、長期間保存できるようになります。

  • 日本には昔から微生物のカビを売るという商いがあった
  • かつお節を手に取る僕蔵さん

理陽 「微生物は目に見えない小さな生き物でしょう?」

実穂 「どうして最初に、微生物を利用すればいいと、分かったのかな?」

僕蔵さん 「チーズやパンのように、自然に微生物が入り込んでできた、というケースが多いらしいですな。」

理陽 「保存食品は偶然できたってこと?」

僕蔵さん 「そうとも言えるけれど、すべてがそうとも限らないんだよ。」

保存食品を作るという歴史は古くからあります。日本では、平安時代末期から室町時代にかけて、微生物のカビを売るという「商い」がすでにあったようです。
その頃から、カビを応用して、いろいろな保存食品作りが試みられていました。

かつお節は、カビを使った保存食品の一つです。今度は、かつお節の作り方をみていきましょう。

  • 節は骨を除いた両脇の身の部分を指す
  • 節を木の箱に入れ、数日間煙でいぶす

「かつお」はどのようにして、「かつお節」になっていくのでしょうか。
「節(ふし)」は、骨を除いた両脇の身の部分を指します。

最初に、節を高温のお湯で煮ます。
次に、底が すのこ になっている木の箱に入れ、数日間、煙でいぶします(右写真)。

  • 桶の中に節を入れる
  • かつお節菌

その後、何十年も使用している桶の中に、節を入れます。この中はカビである「かつお節菌」がたくさんすみついているため、節を入れるだけで、表面全体にカビが生えます。

  • カビの胞子
  • 節はカビの働きによって乾燥し他の微生物が入り込めない硬さになる

左写真は、カビの胞子です。カビは節のもつ栄養をもとに、どんどん増えていきます。カビは生きるために水分を必要とし、節の水分を吸い取っていくため、節はどんどん乾燥していきます。その結果、他の微生物が入り込めないような硬さになり、保存食品となります。

日本の伝統食材でもある かつお節は、発酵食品です。
そして、そのうまみを作り出しているのは、表面についたカビのおかげです。

  • 発酵と腐敗の違いについて説明する僕蔵さん

実穂 「発酵食品を最初に食べた人は、本当に偉いと思う。」

理陽 「最初のころは、 間違って食べて、『お腹をこわした』っていう人もいそうだね。」

僕蔵さん 「保存食品は、もとの材料にない味やにおいがするよね。これらの食べ物が発酵しているのか、それとも腐敗しているのか、どう見分ければいいと思う?」

理陽 「ヨーグルトや漬物は、最初から酸っぱいし…」

実穂 「ブルーチーズなんかは、最初からカビが生えているでしょう。」

理陽 「食べ物の賞味期限を見ればいいんじゃない?」

僕蔵さん 「答えは、見分けられません!」

発酵と腐敗は、どちらも微生物が有機物を分解して、生きるためのエネルギーを得ているという点では同じです。
ただ、「発酵」はヒトに有用な物質を生み出すことを指し、「腐敗」はヒトに有用ではない物質を生み出すことを指します。つまり、人間の都合で呼び方が異なるだけなのです。
人間は、その微生物の働きを良く観察して、役に立つところを上手に利用してきました。

結論:人間は、昔から微生物の存在を知り、長い間の経験を通して上手に利用してきた。

  • 病原性微生物
  • ペスト

理陽 「微生物は、今まで少し抵抗があったけど、仲良くなれそうな気がしてきた。」

実穂 「理陽君はまた、そんな甘いこと言って!世の中、良い微生物ばかりいるわけじゃないの。中にはヒトの体内に侵入し、病気を引き起こす微生物がいて、長い間人々を苦しめてきたのよ。」

僕蔵さん 「微生物は人間にとって利益になる、都合のいいものばかりとは限らないんだ。」


世界にはたくさんの病原性微生物がいます。そして、たった一種類の微生物が、多くの人の命を奪った歴史もあります。

14世紀のヨーロッパではペストが大流行しました。当時は微生物の存在が知られていなかったため、恐ろしい悪魔の仕業だと信じられていました。

  • 天然痘
  • インフルエンザ

現在は根絶されている天然痘は、15世紀にアメリカを中心に大流行しました。わずか50年の間に7000万人が犠牲になったといわれています。

そして、「スペイン風邪」ともいわれているインフルエンザは、1918年に世界中で大流行しました。これにより、2000万人以上の人が亡くなりました。

  • デング熱等の水際対策

そして現在でも、人類と病原性微生物との戦いは続いています。
そんな中、科学的な治療方法の研究が進められるとともに、被害を最小限に食い止めようという水際作戦の努力が続けられています。

  • 納豆を手にする僕蔵さん

理陽 「地球上にはたくさんの微生物がいて、人に役立つものや苦しめるもの、いろいろいるんだね。」

僕蔵さん 「微生物の世界って、奥深いでしょう。科学の力によって、その利用の方法を広げようとしているものもあるんだ。それがこの納豆。納豆を外国に広めようと考えた日本人研究者がいるんだ。」

理陽 「外国の人って納豆を食べるの?」

実穂 「食べない、食べない!外国の人が日本食で嫌いな物のトップ3は、イカの塩辛・生卵・納豆だって聞いたことあるもん。」

ヨーロッパやアメリカの人たちは、 普段からブルーチーズなどの発酵食品を食べて慣れているため、納豆のにおい自体は平気な人が多いようです。しかし、納豆の持つ独特の粘り気は苦手だといいます。
海外で受け入られる納豆とは、どのようなものなのでしょうか。

リサーチモード! ネバネバしない納豆で外国を目指せ!
  • ネバネバしない納豆で外国を目指せ!
  • 久保さん

実穂さんは、茨城県工業技術センターを訪ね、地場食品部門 主任の久保 雄司さんに話をうかがいました。久保さんは10年近く、納豆の研究を続けています。

久保さん 「外国の方が納豆を嫌う理由に、糸引きがあると聞きました。そうしたところをなくせば、外国の方にも受け入れられると思い、糸引きが少ない菌を開発しました。」

  • 市販の納豆菌を培養する
  • 形が平らでギザギザしている菌

どのようにして、糸引きが少ない納豆を作り出したのかをみていきます。

まず、市販されている納豆から菌を取り出し、培養します。この菌は、全体に丸みをおびているのが特徴です。
培養した菌の中から、まれに色や形が違ったものが現れます。例えば、形が平らでギザギザしているものなどです(右写真)。
見つけた菌をさらに培養し、糸引きが少ない菌なのかどうかを調べます。

  • およそ200種類の菌から納豆を作り選抜する
  • 市販の納豆菌と糸引きの少ない納豆菌

市販の納豆から出てきた、違った姿・形の菌はおよそ200株です。この200種類の、突然変異した菌で納豆を作り、糸引きが多いのか・少ないのかをしらみつぶしに調べます。

このように、気の遠くなるような作業を続けて、ついに選抜に成功しました。
糸引きの少ない納豆菌は、市販のものに似て丸い形をしていますが、表面の光沢が少なく薄い色をしています(右写真)。

  • 細い糸がわずかにできる程度の研究開発された納豆
  • 納豆の粘度比較表

二つの納豆を比較するために、それぞれ箸で混ぜ合わせます。
市販の納豆は、豆を覆うように糸を引きます。一方、糸引きが少ない納豆は、細い糸がわずかにできる程度です。

結果は、粘り気に明らかな差がありました。

また、納豆の粘り具合(粘度)を科学的に測ります。
緑色の線は市販の納豆菌の粘度を表し、かき混ぜてから1〜2分で、粘度が最高になることが分かります。
一方、赤い線は、糸引きの少ない納豆菌です。混ぜ続けても、市販の納豆のおよそ3分の1の粘度であることがわかります。

  • シラ国際外食産業見本市
  • フランス人にも好評な納豆

糸引きが少ない納豆は、フランスのリヨンで開かれた、シラ国際外食産業見本市に出品されました。
ネバネバと同時に、においも控えめになった納豆は、フランスでも大好評でした。

糸引きが少ない菌の開発によって作られる納豆が、日本から世界の食品になる、その第一歩が踏み出されました。

  • ヨーグルトを美味しそうに食べる理陽

お腹が空いた理陽くんは、僕蔵さんに手作りのヨーグルトを食べさせてもらいます。

理陽 「いける!僕蔵さん、ヨーグルト作り名人!」

僕蔵さん 「ヨーグルトの種になる菌に、愛情込めて作っているからね。」

実穂 「それは、僕蔵さんが愛情を込めるから美味しく作れるのではなくて、ヨーグルトの菌がうまく働くように温度をキチンと管理して、普通は6時間から24時間発酵させれば、できあがります。」

・・・と手厳しい実穂さんですが、僕蔵さんのヨーグルトをなんだかんだ、美味しそうに食べています。

違う発酵食品も食べてみたいという理陽くんの言葉に、世界一臭い食べ物の「シュールストレミング(ニシンの塩漬けの缶詰)」を今にも持ってこようとする僕蔵さん。

「世界一臭いのはちょっと……」と、焦る二人なのでした。


それでは次回もお楽しみに〜!

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