NHK高校講座

化学基礎

Eテレ 毎週 水曜日 午後2:00〜2:20
※この番組は、昨年度の再放送です。

化学基礎

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今回の学習

第39回

化学基礎から化学へ 〜無機物質〜

  • 化学基礎監修:立教新座高等学校教諭 渡部 智博
学習ポイント学習ポイント

化学基礎から化学へ 〜無機物質〜

血の色は赤?青?
  • 自分の手を見つめるケン
  • 石川啄木にたとえるローザ

ケンが自分の手を見つめながら考え込んでいます。


ローザ 「どうしたの、ケン?さっきからウンウン唸っちゃって。」

ケン 「血は、どうして赤いのかなぁって……。」

所長 「何をいまさら、そんな疑問を抱いているんだ!と、言いたいところだが、実は、それは酸化還元反応と関わりがあることなんだ。」

  • ヘモグロビンと鉄
  • カルシウムは歯や骨の材料

所長 「人間の血が赤いのは、赤血球に含まれる『ヘモグロビン』のためだ。ヘモグロビンには鉄が含まれていて、その酸化・還元の反応によって、肺から取り込んだ酸素を体の隅々まで運んでいる。というわけで、血の色は、赤サビの赤とまったく同じではないんだが、鉄が関わっているために赤くなるんだ。」

ケン 「へぇ、鉄が?」

所長 「ところが、世の中には、イカやカニなど、青い血を持つ生物もいるんだ。そのような生物は、ヘモグロビンではなく、『ヘモシアニン』という物質が酸素を運ぶ役割を担っているんだが、こちらは鉄ではなく銅を含んでいる。そのため、血の色は青くなるというわけだ。」

ケン 「そういえば、銅(II)イオンを含む硝酸銅(II)水溶液って、青い色でした。」

ローザ 「でも、鉄や銅は、金属だから無機物質ですよね。無機物質は、確か『生命現象に関わらない物質』だったんじゃないですか?」

所長 「元々はそう考えられていたんだが、その後、無機物質は生命現象になくてはならないものであることが分かってきた。たとえば、カルシウムは歯や骨の材料になるだけでなく、筋肉の伸縮や神経信号の伝達などに、なくてはならない物質なんだ。」

ローザ 「確かに、カルシウムやカリウムなどのミネラルが不足すると体の調子が悪くなるっていうけど、ミネラルって、無機物質ですよね。」

所長 「それだけではないぞ。さまざまな研究によって、無機物質のいろいろな面が見えてきている。今日は この地球に、いや、宇宙に満ち満ちている無機物質ワールドを突き詰めてみようではないか!」

いろいろな無機物質
  • 有機化合物とは、無機物質とは

無機物質とは、「有機化合物ではない物質」のことをいいます。
有機化合物とは、「炭素原子を骨格とする化合物」のことをいいます。

すべての物質は、有機化合物と無機物質に分けることができます。

  • 無機物質〜鉱物〜
  • 無機物質〜ガラス、陶磁器〜
  • 無機物質〜金属〜

無機物質の代表的な例として、ダイヤモンドをはじめとする、宝石があります。
宝石は、多くが鉱物であり、無機物質です。

ガラスや、陶磁器、いわゆる瀬戸物のお皿なども無機物質です。
包丁やハサミとして使われている「セラミックス」は、元々「陶磁器」を意味しています。

また、金をはじめとする金属も無機物質です。
硬貨は、1円玉はアルミニウム、それ以外は銅・亜鉛・スズ・ニッケルなどの合金でできています。

そして、私たちが生きていくのに欠かせない、水と空気も無機物質です。

  • 使い捨てカイロ
  • カイロの中身

ケン 「改めて考えると、僕たちの周りは無機物質だらけなんですね。」

所長 「そういうことになるな。それから、この間 ローザが調べてきてくれた、この使い捨てカイロ。中身は何だったかな?」

ローザ 「鉄粉、水、塩、酸素を供給する活性炭、保水材のバーミキュライト。全部無機物質ですね!」

所長 「その通り!しかも、これには、化学の大事な要素が詰まっているんだ。」

化学の大事な要素とは?
  • 特別研究員の渡部智博先生
  • 4Fe+3O<sub>2</sub>→2Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>

その「化学の大事な要素」について、特別研究員の渡部 智博 先生(立教新座中学校・高等学校 教諭)に解説していただきます。


渡部先生 「ここでは、3つの要素について話しましょう。1つめは、『酸化還元反応』であるということです。酸化還元反応は、化学においてもっとも重要な化学反応のひとつといってよいでしょう。」

ローザ 「カイロは、鉄が酸化されて酸化鉄(III)になる反応を利用しています。」

渡部先生 「そうです。その酸化反応によって、熱を出しますね。大事な要素の2つめは『熱化学』です。」

  • 化学反応の前後でエネルギーの総和は変わらない
  • 鉄のエネルギー+酸素のエネルギー>酸化鉄(V)のエネルギー

渡部先生 「化学反応の前後では、エネルギーの総和は変わりません。でも、反応前の物質と反応後の物質が持つエネルギーをそれぞれ足して比べてみると、違いがあるんです。その差が、熱として出入りします。カイロの場合だと、反応前の鉄と酸素それぞれが持つエネルギーの合計と、反応後の酸化鉄(III)が持つエネルギーを比べると、酸化鉄(III)のエネルギーの方が少ないんです。」

ローザ 「その減った分が熱になるので、カイロが温かくなるんですね!」」

渡部先生 「この熱の出入りを制御したり、利用したりする研究がいろいろと行われています。」

  • 反応速度
  • 鉄粉の直径により温度の上昇の程度が変化する

渡部先生 「3つめの要素は、『反応速度』です。これについては、カイロについて調べた時に実験をしましたね。」

ローザ 「はい、直径の異なる鉄粉を使って、温度の上がり方の違いを調べました。質量が同じなら、小さい粒がたくさんあるほうが、表面積が大きくなるので、反応が速く進むんです。」

渡部先生 「反応速度には、表面積が関係しているということでしたね。実は、鉄粉の直径をもっと小さくすると、酸化反応が一瞬で起きるようになるんですよ。」

  • シュウ酸鉄(U)二水和物
  • シュウ酸鉄(U)二水和物を試験管に入れる

反応速度について、実験をしてみます。

ペトリ皿にシュウ酸鉄(II)二水和物を用意しました。
薬さじを用いて、乾いた試験管の中に入れます。

  • 黒色に変色したシュウ酸鉄(II)二水和物

試験管ばさみを使用し、ガスバーナーで加熱すると、シュウ酸鉄(II)が徐々に黒っぽく変色します。
シュウ酸鉄(II)が細かい酸化鉄になったためです。

  • 黒く変色した粉末を落とす
  • 粉末から火花が散る

完全に黒く変色した粉末を、試験管からぱらぱらと落としてみます。
すると、落下する粉末が燃える様子が観察できました。

黒い粉末は、直径0.1mm以下という非常に細かい鉄粉です。
粒が小さくなると、質量に対する表面積はさらに大きくなります。
そのため、黒い粉が空気中の酸素と触れた瞬間に急激な酸化反応が起こり、温度が急上昇したために、自然発火したのです。

  • 酸化鉄(III)に変わった粉末
  • 反応速度は表面積だけでなく濃度や温度などによっても変化する

渡部先生 「下に落ちた粉末は、どうなっていますか?」

ローザ 「赤黒い感じですかね?」

渡部先生 「酸化鉄(III)・Fe、いわゆる赤サビになったんです。反応速度は、表面積以外にも、濃度や温度などでも変化します。さまざまな条件の下で実験を重ねて、研究が進められています。」

無機化学工業〜水素の産業利用
  • 鉄鋼の製造プロセス

渡部先生 「鉄は製鉄所で精錬されていますが、実はその時に、副産物としてある重要な物質が生産されているんです。何だと思いますか?」

ローザ 「重要な物質……。まさか、金じゃないわよね。」

渡部先生 「この宇宙にもっとも多く存在する元素です。」

ケン 「一番多い?窒素かな?」

ローザ 「窒素は空気の成分で一番多い元素でしょ。」

ケン 「もっとヒントをください。」

渡部先生 「それは、宇宙で一番初めにできた元素だとも言われています。」

ローザ 「もしかして、それって、構造が一番シンプルなものじゃないですか?」

ケン 「分かった!水素ですね!」


製鉄所では、鉄を溶かすのに、石炭を蒸し焼きにしたコークスという燃料を使っています。
コークスを作る時に副産物として発生する気体は「コークス炉ガス」といい、その成分の約50%が水素です。

  • やかん
  • 水素の利用

ローザ 「水素って、そんなに重要なんですか? あんまりイメージがわかないんですけど。」

渡部先生 「私たちの日常生活に直接関わることはあまりないですが、とても重要です。たとえば水素は、アンモニア・NHの原料になります。」


アンモニアは水素を原料としており、いろいろな化学薬品や肥料の原料となるため、工業的にはとても重要な物質です。
アンモニア生産量は、その国の工業活動を示す指標のひとつにもなっています。

また、水素は「産業ガス」としても、盛んに利用されています。
たとえば、やかんに使われるようなステンレスなどの金属製品を作る場合、加熱処理が行われます。
しかし、大気中で金属を熱すると、酸化されて表面が黒ずんでしまいます。
そこで、水素ガスを使います。
水素が充満した中で加熱処理を行えば、酸化されにくいため、美しい金属光沢を残したまま製品化することが可能です。

その他にも水素は、
・透明度の高いガラスの製造
・半導体製品の製造
・ロケット燃料
など産業ガスとして幅広く利用されています。


ケン 「でも、普段暮らしている範囲では、直接は関係なさそうですよね。」

所長 「確かに、日常生活で水素の存在を意識することは、あまりなかったな。今までは。しかし現在は、水素をエネルギーとして利用することが注目されていて、さまざまな研究や実験がされているんだ。」

来るべき水素社会
  • 横浜市温暖化対策統括本部 島附l史さん
  • ハマウィング

ケンは、水素のエネルギーとしての利用について調べるために、横浜市を訪れました。
お話をうかがうのは、横浜市温暖化対策統轄本部の島 考史さんです。


島浮ウん 「横浜は環境未来都市として、『誰もが暮らしたいまち』『誰もが活力あるまち』の実現を目指しています。取り組みのひとつとして、地球温暖化対策も見据えた『低炭素・省エネルギー』というものがあります。その取り組みのシンボル的存在が、横浜市の風力発電所『ハマウィング』です。500世帯分の電力を発電することができる風力発電所です。」

  • 簡易水素充てん車
  • 燃料電池フォークリフト

ハマウィングで作られた電気を使って水を電気分解して水素を作る実証事業に、近隣自治体や民間企業と連携して取り組んでいます。

本格運用は2017年の夏からの予定ですが、すでに水素を使って動く燃料電池フォークリフトの稼動が、横浜市の中央卸売市場で始まっています。

風力や太陽光など、再生可能エネルギーを使って作られた水素は、二酸化炭素を排出しない「COフリー水素」と呼ばれています。

  • 横浜港流通センター 自立型燃料電池システム
  • 水素製造装置

横浜港流通センターにも「COフリー水素」を利用する燃料電池が設置されています。
まず、ビルの屋上に取り付けた太陽電池で発電します。
そして、水素製造装置で水を電気分解して水素を作ります。

  • 水素貯蔵タンク
  • 燃料電池

製造された水素は、水素貯蔵タンクに貯めておき、必要な時に燃料電池で発電するというシステムです。
燃料電池は、災害などの万一の時には非常用電源として活用できると期待されています。

  • 燃料電池自動車
  • 横浜市の目指す水素社会

次に、島浮ウんとケンは、水素で動く燃料電池自動車に乗り込みました。
普通の自動車に比べ、走行時の音がかなり静かです。
横浜市では2020年度までに2000台の普及を目指しており、この燃料電池自動車は啓発活動に利用されています。

横浜市は、373万人の市民と11万の事業所を抱えるエネルギーの大消費地であり、温暖化対策に積極的に取り組んでいく必要があります。
水素の利用に積極的に取り組んでいるのは、このためです。
さらに、水素や燃料電池に関係する技術を持った企業や大学がたくさんあるのも、横浜市の強みです。

  • 大さん橋移動式水素ステーション

燃料電池自動車を普及させるには、燃料の水素を補給する施設を増やすことも大切です。
そのため、水素充てん車を活用した移動式のステーションだけでなく、ガソリンスタンドのような固定式のステーションも増やしていく予定だといいます。


ケン 「今日は、来るべき水素社会の一端を垣間見ることができました。」

島浮ウん 「水素の利用拡大に向けては、市民の皆さんの理解向上やコストの低減など、乗り越えるべき課題もあります。横浜市では、国や企業のみなさんと連携しながら、水素利活用の取り組みを積極的に展開し、水素社会の実現に向けて取り組んでいきます。」

ケン 「今日は、どうもありがとうございました。」

これからの無機化学
  • 水素の利用、再生利用エネルギー
  • 次回もお楽しみに〜

渡部先生 「これまで水素は、作って、使って、水になっておしまいでした。これからは、水からもう一度水素を作って使う、循環していくということが必要になっていきます。その際、再生可能エネルギーを使えば、二酸化炭素の排出はグッと少なくなります。ただ研究も大事ですが、水素エネルギーが普及していくには、理解を広めていくことも大事です。たとえば、『燃料電池自動車を買おう!』という、いわば『水素エネルギーのサポーター』を増やしていくことも、水素社会を実現していくうえで必要なのです。」

所長 「今日は、水素の話を中心にしてきましたが、無機物質全般について、これからはどうなっていくんでしょう?」

渡部先生 「人類は、無機物質からさまざまなモノを作って利用してきました。利用した後は、ゴミとして捨ててしまうことが多いですが、見かけは変化していても元素がなくなることはありません。ですから、何度でも必要なものを繰り返し利用することができるはずです。たとえば製鉄所のコークス炉ガスは、そのまま出してしまえば ただの排気ガスですが、含まれている水素を利用して資源にすることができました。無機物質は、そういった資源の循環がやりやすいと思われます。それから、無機物質が私たちの身体の中でどのようなはたらきをしているのか、分かっていないことも多くあります。その研究も、まだまだ未来に広がっているんですよ。」


それでは、次回もお楽しみに〜!

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